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考えても仕方ないと久遠の膳にそれを戻して俺も食べ始めるとからんっと何かが落ちる音がした。

その音の方を見ると顔を青くしている久臣さんの姿が。今日は早めに仕事が終わったらしい。



そんな彼はゆっくりと口元に手を置いた。



「男だ……」

「え?」

「絶対男だ!!誰よその男!!」

「え、え?」



久臣さんがそう言った。何が何だか分からずに戸惑っているとすかさず隣にいた晴臣さんが厚揚げを久臣さんの口に突っ込む。



「この人のことは気にしないでくださいね。ただ、参考までにさっき誰を思い出しましたか?」

「誰? あ!別に変な人じゃないですよ?ただ、その人と最中というものを食べた時に同じような行動をして……」

「もなか……?」

「え?あ!」



しまったと、俺は慌てて口を塞ぐがもう遅い。この都にまだそのお菓子は普及していないのだ。それなのにそんな事を言ったら怪しまれてしまう。どうしようと何かを言おうにもうまい言葉が見つからない。



どうしよう……。



思わず黙ってしまうと九郎が助け舟を出してくれた。



「あーもういいだろ?しーちゃんだってお年頃なんだし」

「そうですね。ごめんなさいね、しーちゃん」

「い、いえ大丈夫です……」



九郎の言葉に晴臣さんがそう言ってくれた。これ以上追及されることはないようで少しほっとする。

それにしても俺はなんて迂闊なことをしたのだろう。気を付けなければ。



「しちゃのすきなのは?」



もぐもぐっと口に食べかすを付けながら久遠がそう聞いてきた。手拭いでそれを拭いながら、すぐにこう返す。



「桜が好きだよ」

「さ、く……?」

「えーっと、桃色のお花で……」

「あらそうなの?私も桜が好きよ。しーちゃんと同じね」



俺が説明をしていると沙織さんがそう言った。

そういえば久遠の手ぬぐいに桜の刺繍が施されていたことを思い出して納得する。



「! くちゃも、さくすき!!しちゃとかかといしょ!!」

「ととも好きだよ!!」

「ととはめ!!」

「なんで!?」



相変らず久遠の久臣さんに対するあたりが強い。多分、これは彼なりの愛情表現だと思っている。



「くちゃもしちゃのすきなの、すきー!」

「ありがとう。嬉しいよ」

「んふふふふ~」



上機嫌に久遠がまたご飯を食べ始めた。昼間の機嫌はもう直ったようだ。

その事に少しほっとしながら、そう言えば、と沙織さんが話し出す。



「しーちゃんは将来凄い法術師になるのが夢なの?凄く頑張ってたから……」

「あ、いえ、俺は法術が使えないのでそれは……」



彼女の言葉に俺がそう言うとふわりと笑顔を見せてくれる。



「そうだったの!私もよ。しーちゃんとお揃いがまた増えたわね。嬉しいわぁ!」

「あ、お、れも嬉しいです……」



こんな俺と一緒で嬉しいだなんて言われるとは思わず照れながらそういう。沙織さんはにこにこ笑顔である。



「い、いーなー!!俺もしーちゃんとお揃い欲しい……っ!!」

「うるさいですよ兄さん」

「流石に空気読もうぜ久兄……」

「う、とと、め!!」



久臣さんが晴臣さんと九郎、久遠にそう言われてしゅんとなっていた。俺は慌てて彼との共通点を探す。

探すが、このかっこいい男性と俺との共通点なんて見つかるはずがない。



「ひ、久臣さんはかっこいいからそのままでいいと思います!」

「え!ほんと!俺かっこいい!?」

「はい!」

「う、嬉しい~~~~っ!!」



良かった、意識がそれたようだ。そう思っていたら久遠がむううっと頬をパンパンにした。



「とときらい!!」

「そ、そんな!ごめんよ、ととのご飯あげるから~」

「いなない!!」



ぷいっとそっぽを向いて久遠はご機嫌斜めになってしまった。それを必死に宥めつつ、ご飯を食べ終え、風呂に入り一緒に久遠と寝る。久遠はぎゅうぎゅうと俺を抱きしめて俺を見上げる。



「しちゃ」

「どうしたの?くーちゃん」

「くちゃも、おっきくなう」

「ん?うん」

「ととより、かこいい」

「うん、そうだね」



久臣さんにかっこいいと言ったことがそんなに尾びれを引くとは思わなかった。俺は少し笑って彼の頭を撫でる。



「大きくなったらくーちゃんはかっこいいよ」

「う」

「きっと色んな人から好かれるね」

「しちゃは?」

「勿論俺もくーちゃんのこと大好きだよ」

「くちゃも、しちゃだいすき」

「ありがとう。ほら寝よう?」

「ん!」



そう言って久遠は眠りについた。相変らずがっちり抱きしめられているが、彼の高い体温に徐々にうとうとしていく。



そして、俺も一緒に眠りについた。
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