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前の話8

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「嘆願書、ですか」

「ああ、そうだ。お前は七宝から外す。これは我々の総意だ。拒否をするならば、分かるな?」



恵比寿のところの優秀な男の人。七宝の中では最年長で統率役を担っている。



最近見ないなと思っていたらそんな事をしていたのか。



彼は俺の除名を希望するという紙を出して来た。俺以外の七宝全員の名前が書いてある。その他にも霊峰院で働く法術師の名前も書かれている。そりゃもうびっしりと。

俺はその紙を見て、とうとう来たかっと思って苦笑した。



いつの日かきっとそうなるだろうという予感はしていた。それに遅かれ早かれやめるつもりであった。

俺は、七宝にふさわしくない。



快くそれを受け入れようとすると雫さんが異を唱えた。



「待ってください!帝のご命令ですよ!?」

「我々だって公私混同をしていない帝の命令であれば従いました」

「今なんと?帝が私情を交えた勅命を下したとでも?」

「ええ、誰が見ても明白でしょう?」

「この……っ!!」



殴りかかりそうな勢いの雫さんを抑えるために俺は慌てて口をはさんだ。



「その嘆願書は受け入れます」

「そんな……っ!」

「俺の存在が不和を生むのは分かっていましたから。仕方ありません」

「殊勝なことだな」



恵比寿の男がそう言った。

尊大な態度だと雫さんがいつも言っているが、彼にはそれが出来るほどの地位を持っている。俺とは違うのだ。



「お前はもう七宝でもないから皇宮に足を踏み入れるな」

「はい」

「それと―――」



恵比寿さんは俺の頭を掴んでぐっと無理やり下げさせた。髪を掴まれて少し痛い。



「七宝の俺に対して頭が高い。その傲慢な態度改めるんだな」

「承知しました」



雫さんからぶわっと殺気が漏れだしたが、彼は鼻で笑って去っていった。

それを見送った雫さんがギリギリと歯ぎしりをしながらこういう。



「殺しましょう。幸い恵比寿には代わりがいくらでもいます」

「大丈夫ですよ。元々俺には荷が重かったですし。今までありがとうございました」

「いいえ、そんなっ!」



雫さんが何かを言おうとしたが、それよりも先に廊下を歩いていた男たちの声が聞こえた。



「帝の式神様まで誘惑してんぞあいつ」

「必死だな~。俺ああなりたくないわ」



ぐっと雫さんんがそれ以上の言葉を飲みこんで静かに頭を下げる。

彼もこれ以上何か言えば注目を浴びると思ったのだろう。俺のようなものにそんな気遣いをしてくれる式神なのだ。



「此方こそ、今までありがとうございました」

「いいえ。お世話になりました」



雫さんはすぐに去っていった。俺もこれ以上ここにいる意味がないのですぐに出ていく。

すると、門のところでは弟とそれを囲むように七宝の方々がいた。俺に気付くと敵意むき出しの視線を向けた後に嘲りの表情を見せる。



もう関わりたくないが、そこを通らないとここを出られないので歩くしかない。



「気分はどう?」



嫌々近づいていくと福禄の男がそう初めに聞いてきた。弟の肩に手を置いて俺のことをにやにや笑いながら見ている。



「そうなるだろうなとは思っておりました」

「またまた~。都を見回って点数稼ぎしてたみたいだけど?」

「そのように思いたいならばご自由にどうぞ。失礼します」

「ちょっと待ってください」



横を通り過ぎようとしたら弁財の男がグイっと俺の腕を掴んだ。力強く腕を掴まれて顔をしかめると黒天の子が俺の足を払い地面に俺は倒れこんだ。



「あはははは!やっばー、こんなので転んじゃうのー?本当に理央お兄ちゃんの兄弟?」

「やめたげなよー。法術使えない可哀想な子なんだから~」



黒天のこと福禄の子はそろってげらげら笑いだし、俺は静かにこの嵐が去るのを待つ。



「理央にいうべきことがあるんじゃないんですか?」

「……あ、もうしわけ……」

「つーかさっき言ったよな?態度がなってないってよ!!」

「……っ!!」



弁財の男が俺に謝ってほしいということが分かってそう口にして頭を下げようとしたら後頭部に衝撃が加わり、地面に顔をもろに押し付けられる。



「法術が出来ないお前の代わりに理央が駆り出されてたの知ってるか?自分の仕事も満足にできない奴が七宝に選ばれて迷惑してんだよこっちは!!」



恵比寿の男だろう。

俺の頭に足を乗せてぐりぐりと地面にこすりつけるように動かしているのは。



「……うん。いつも妖魔退治理央頑張ってた。対してお前は、結界のある都の中でぬくぬく。酷い差別。お前が七宝なんてありえない」



寿老の男もそう口にした。普段はあまりしゃべらないと聞いたので相当俺に鬱憤がたまっているのだろう。



「葵も何か言いなよ。いつも愚痴ってんじゃん」

「え、あ、うん。り、理央さんの方が優れてるのに選ばれるなんておこがましい……」



袋尊の子が黒天の子にそう言われてそう言い放つ。この子は他の子とは違って俺に対して少し消極的だ。

早く終わってくれと思いながら耐えていると「やめて!」っと漸く弟が声を発した。



弟がそういうと、頭が軽くなり笑い声も収まる。



「兄さんだって必死だったんだよ!分かるよ兄さんの気持ち。今まで分かってあげられなくてごめんね。さ、立って」



ぎゅっと俺の手を取って弟は俺を支えるように立ち上がらせる。その光景に彼らはなんて優しい子なんだとっ口々に言う。



才能があるだけで、彼はそう思われるのだ。



いつもいつも弟はそうだった。弟は機会を見計らっている。自分がどう動けば相手がどう思うかなんて計算済みなのである。それに俺は利用されているだけ。



「理央に感謝しろよ」

「そーそー。理央がいて良かったね~」

「本当にそうですね。感謝の一つでも言ったらどうです?」

「ありがとう、ございます……」

「もっと気持ち込めていいなよ!理央お兄ちゃんにもっと感謝しないとダメだよ?」



恵比寿、福禄、弁財、黒天がそう言って、寿老は容赦なく俺の足を踏んで無言で圧をかける。



「大丈夫!兄さんも気持ちの整理が必要だと思うし!それより新しく結界張りなおさないと!」

「ああ、そうだな、こっちだ理央」

「ちょっと~!尊ってば理央の腰掴まないでよ!」

「掴んでないぞ、駆はいつもそう勘違いするな」

「なら僕はこっち~」

「なっ!ずるいですよ律!私がそちら側を取ろうと思ったのに!」

「こういうのは早いもの勝ちだよ郁人!って宗太!無言で後ろに立たないで!!」



彼らが弟を囲んで仲良くそう去っていく。



漸く収まった嵐にほっとしながら顔についている砂や髪を軽く整えて家路につく。



不意に少し振り返って皇宮を見た。

もう二度と来ることはないだろうと深々と頭を下げる。



―――これで、終わりだ。



***



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