【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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前の話4

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その為、俺は色んな人と話をすることにした。



幸いなことに、皇宮の中のとある部署をお手伝いする折に多少お話が出来る人がいるのでその人から今流行している話を仕入れる。また、そのお手伝いの一環と都を守るための万が一に備えて門近くの集落の人達ともお話が出来るくらいには仲良くなったのでその人達とも話題を仕入れる。



これこれが流行っている。こんな話を聞いた。などなど彼らから聞く会話の種は尽きない。

これぐらい手に入れればきっと帝が退屈する時間を減らせると思う。



日時と待ち合わせ場所も雫さんが伝えてくれたので、その日を少し楽しみにしながら準備を整える。



「もしかして、お役人さん誰かと逢引きかしら?」

「え?」



門近くの集落に住んでいる女性の一人、清香さんがそう言った。俺は一瞬その言葉が理解できなくて呆けた声が出る。それから慌てて首を振った。



「いえいえ!そんな恐れ多い!!」

「あらそうなの?その方と会話が弾むようにって準備してるからてっきり!」

「ただ食事に行くだけなので」

「……あらあら、そうなのね?」



清香さんはそう言っているが少し顔がほころんでいる気がする。残念ながら彼女の思っているような関係性ではないのだが……。

今強く否定したらそれはそれで怪しまれるだろうからこの辺にしておこう。

とはいえ、逢引きか……。流石に護衛の黒狗がいるとは思うが、逢引き……。そうか、周りにはそう見えるのか……。な、何か緊張してきた。



「……そうそう、近々遠い都からやって来た商人さんがくる市場が開かれるそうよ?」

「そうなんですか?」

「ええ、時期があえば行って見たらどうかしら?」

「はい、ありがとうございます」



市場、市場かぁ。きっと帝はそういうところに私事で行くこともないだろうから誘ってみるのも手だ。

これは有力な情報を手に入れられた。清香さんにお礼を言って、罠の整備をしつつ報告の為皇宮に戻る。



「あ、兄さん!」

「……こんにちは」



うっかり、弟に会ってしまった。

七宝でもなく、役人でもない弟がこの皇宮に出入りできているのは他の七宝のお手伝いをしているからである。



今日は、黒天の子と一緒のようだ。お互いに自己紹介もしていないので名前は分からない。いや、知る必要もないと思ってそういう呼び名を心の中で言っている。口にはしないが。

そんな彼らは確か都の少し遠くに離れたところで妖魔退治だったはず。だからお弁当を作らされた。自分の物を作るついでだったので、構わないがそのお弁当箱を持っている弟がずいっとそれを俺に渡して来た。



「兄さん、これから僕たち報告なのでこれ家に持ち帰っていただけますか?」

「それぐらいできるよね?何しに来たのか知らないけどさー、どうせ暇してたんでしょー?」

「はい」



そのお弁当箱を受け取った。俺も報告することがあったが、後でも大丈夫だろう。このお弁当箱を持ったまま、報告しに行けば黒天の子が何か言うだろうし。



そう思って家路につくとふっと影が差した。その影が人影に見えて何事だろうかと上を見上げると塀を乗り越えている男の姿が。猫のお面で顔半分を覆い、彼の黄金色の髪が日の光に反射して輝いていた。



「―――えっ!?」

「……っ!!」



その髪色は俺の友達、久遠と同じ髪色で思わずばっと両手を広げて受け止める。これほど自分の身体能力の高さを誇ったことはない。俺の背よりも大きくて体は細いがしっかりと筋肉がついている彼を難なく受け止められることが出来た。



「ご、ごめんなさい、大丈夫……?」

「大丈夫です。お怪我は?」

「だ、大丈夫です……」



ゆっくりと下ろす。

俺も馬鹿ではないのでこの人物が誰であるかなんてすぐにわかる。しかし、どう考えても正規の手順を踏んで外に出たわけではなさそうなので知らないふりをするのがいいだろう。



「危ないので、今度から気を付けてください」

「は、はい!」

「それでは……」

「ま、待って!!」



早々に去ろうと踵を返したががしりっと腕を掴まれる。



う、何だか嫌な予感……。



「く、口止め料を!!」

「そ、そのようなものは……」

「う、ううん、そんな口約束じゃ信用できないよ!!」

「……そ、うですが」

「だめ……?」



じいいっと面で顔が隠されているというのにウルウルと瞳を潤ませてこちらを見ているような雰囲気を感じる。



ま、負けるな。ここで頷いたら……。頷いたら……。

彼を見る。仮面越しでも伝わるお願い。う……。



「分かりました……」

「……っ!!」



俺がそう言って頷くと彼がぱっと顔を明るくする。それからがしっと俺の手を取ってぶんぶん降った。

久遠と同じように年下だからかどうにも断り切れなくて折れるしかなかった。



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