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前の話3

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雫さんは、有能な式神だった。



式神をあまり見たことはない俺でもそのすごさがよく分かる。



まず、回復。

使える者は多いがそのふり幅は大きい。軽い傷であれば治せるものをよく見るが雫さんの様に切り落とされた腕をくっつけて治すなんてものは初めて見る。



毒のようなものを食らい侵食されて動けなくなるよりかはましだろうと斬ったら、雫さんがすぐにくっつけて治してくれた。目にもとまらぬ速さで、元通りになった腕を見て、あれ?俺腕斬ったはずなんだけど?と思いながらもどうにか倒せた。雫さんに感謝である。

ただ、大概のものは治療できるので斬る前に診せてくれとは言われた。



次に支援。

空の敵をどうにかしてもっと早く倒せないかと石粒を投げながらそう思っていたら、足場でも作ります?と提案され四角い箱のような透明な足場が出来た。それをとんとんと飛んで飛んでいる妖魔でもすぐに刀で倒せるようになった。以来、俺の動きに合わせてそれを作ってくれるようになった。



最後に、攻撃。

一撃が強すぎる。

大物を俺に残して残りの小物退治を一手に引き受け、俺に絶対に近寄らせない。ちらっと彼の戦闘様子を見ると見たことない法術を次々と繰り出してゴミを処理するように妖魔を屠る。



雫さん、有能すぎでは?



こんな式神を俺につけてくれてくれるなんて……。



帝の実力が計り知れない。

きっと、俺が日々こなしている任務も片手間にこなしてしまうのだろう。

さすがは帝だ。この都を統べる人。反感を買って殺されないようにしなければ……。



***



「静紀さま。帝がお呼びです」

「え?」



ある日、雫さんがそう言ってきた。

雫さんを通して帝の命令通りの任務をこなしていたので、今回もそうだと思っていたら違うようだ。

帝から直々に……。まさか何か不興を買うようなことをしたのだろうか。



「……気が乗らないのであればお断りも出来ますが?」

「! いえ行きます」



そんな目立つことはしたくないので雫さんの言葉にそう答える。雫さんはそんな俺にそうですか、と言ってにこやかにこちらですと案内してくれた。



「静紀さまをお連れいたしました」



皇宮の奥の間。豪華な装飾が施されている襖には二人の男がいる。

黒装束に黒い狗の面を付けた帝の専属護衛だ。確か、黒狗という集団である。



「入れ」

「失礼致します」



中から誰か、男の声がした。その声を聞いた黒狗の人が一瞬動きを止めたが、すぐにすっとその襖を開ける。俺は恐る恐る中に足を踏み入れると、そこには俺よりも背の高い男がいる。白い狐の面を被り腰ほどの黒髪の彼が誰なのかなんてすぐにわかった。



すぐに平伏して膝をつく。



「こ、この度は……」

「そういうのは良い。楽にしてくれ」

「い、いえ、そのような事は……っ!」



覆面をしているとはいえ御簾越しではない帝に御目通り出来るなんて夢にも思わない。この都でもっとも尊い方と二人きりになるこの状況すら息が止まりそうなほど緊張する状況であるのに。



「君は真面目だねぇ?他の七宝はそこまで頭を下げなかったよ」

「他の方と私はちがいますから」

「え……っ!?ま、まさか、気づいてる!?」

「……?」



俺がそう言うと、帝が驚きの声をあげる。その言葉の意味があまりよくわからなかったが、聞くのは勇気がいるのでやめておく。帝はそれからんんっと何かをごまかすように咳払いをした。



「そ、そうだね、他の七宝とはちがうね」

「はい」

「う、え、えーっと、その、えー……」



帝が何か言いにくそうにしているのを感じるが、俺が何か言える立場でもない。彼の言葉を遮るようなことがあれば打ち首どころの騒ぎで済むとは思えない。だから静かに彼の言葉を待つ。



「静紀、貴方の活躍は雫から聞いている。その功績をたたえて何か褒美を与えたい。何か欲しいものはあるだろうか?」

「褒美……ですか」

「ああ、そうだ。他のものも色々頼んだぞ?食べ物や装飾品と色々だ。貴方は何が欲しい?僕が何でも用意する」



帝にそう言われて、俺は悩んだ。



これと言って欲しいものは浮かばない。しかし、ここでそんな事を言うような馬鹿でもない。

帝の言葉は絶対だ。それに異を唱えようならば俺はすぐに殺される。であればここは適当に……。



「では食べ物を」

「! 分かった!何が食べたい?」

「あ、えーっと……」



そこまでは考えなかった。何か、何か思いつく食べ物……!いやでも褒美と言っているのによく食べるようなものは不釣り合いではないか?それなりに価値があって、尚且つ手に入れるのも困難ではなさそうな、褒美にふさわしい食べ物は……っ!



「み、帝様の好む食べ物を食してみたいです」



これだ!

きっと帝がよく食べるものであれば皇宮できっと備蓄しているはず。その上、帝と同じものを食べたいというのはかなりの価値があるお願いであるはずだ。

褒美なのだから、これぐらいはきっと許されるはず。



「そ、そう! なら今度、一緒に行こう!」

「……?」

「日時とかは雫を通して言っておくから!僕のおすすめお店を教えるね?」

「お、お待ちをっ!!」

「え?」



思わず顔をあげて彼を見た。彼は顔をあげた俺を見て首を傾げる。何かおかしなことでも言っただろうかという雰囲気だ。



「こ、皇宮から出るのですか……?」

「うん」

「わ、私といるとおかしな噂が立ちますよ!?」

「ああ、確かに貴方は困るか……。うん、当日までに考えるから安心して?」

「い、いえ、あの、え……?」

「他に何か不安でもある?遠慮なく言って?」

「ふ、不満も何も、過分な褒美でございます……」



帝と一緒に過ごすだなんて、どんな物よりも価値がありすぎる。そんな物はおいそれと貰えるわけがない。

そう思い顔を青くして首を振ると、ずずいっと彼は俺に近づいてきた。



「僕が、貴方と過ごしたいからお願いしてるんだけど、どうしてもだめ?」

「! そのようなことは決して!」

「じゃあ大丈夫だね!ふふ、楽しみだなぁ。そういう時間が全くなかったから」

「あ……」



そうか。若くして帝となったこの方は、きっと俺には想像できないほどの我慢を強いられてきたのだろう。いろんな制限をされて過酷な環境と方々からの圧力に耐えながら生きている。



そんな人が、一時でも忘れられるような時間を求めて何が悪いのだろうか。



「私も、楽しみです……」

「! 本当!?」



帝の嬉しそうな声が聞こえた。

俺とは四歳ほどしか違わない彼の明るい声に思わず笑みが漏れる。

少しでも帝に唯意義な時間を過ごせるように俺は話題を作りに勤しむ。あまり会話は得意ではないが、少しでも興味を引くような話を仕入れて帝に楽しんでもらおう。



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