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前の話1
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この世には妖魔と呼ばれる存在がいる。
どうしてそんな存在がいるのかどうやって発生するのかは不明。
ただわかることは、奴らは人を襲うという事。
人々は法術を使い彼らを退治してきた。
元々自警団であったその集まりは年月が経つにつれて大きくなり、今では霊峰院という組織名で妖魔退治を行っている。
時代の中で、都を守る為七宝という結界が作られた。完全に妖魔が入れず、はじき出すもので帝を核とした七人の法術師がその役割を担っている。
七宝のお陰で法術がない人々も安心して暮らせるようになったという。
七宝の役割を担う七つの一族がある。
恵比寿、黒天、毘沙門、弁財、福禄、寿老、袋尊。
その七つの一族は特に法術が強く生まれる可能性が高いとされているが、今代、毘沙門一族に法術がまるでない子供が生まれた。
それが俺。
名門である毘沙門一族に法術の持たない人間が生まれたが、初めての男の子であったため殺されることはなかった。
しかし、その翌年に法術がどの一族よりもあってしかも幼いころから操れる天才な弟が生まれたため、俺の扱いは空気となった。
一先ず何かあった時の代わりで育てるみたいな立ち位置。
物心ついた時は弟ばかりに構う使用人や両親と彼らが俺を見る冷たい視線を受けすべてを諦めていた。
口さがない言葉に何度も何度も泣いていた時もあった。
けれどある日、ぷつんと何かが切れたように何もかも期待しないでただ黙って全てを受け入れることができた。
弟と比べられようと、暴力を受けようと、人格を存在を全て否定されようとも何も感じなくなった。
そのはずだった。
***
「凄いねお兄ちゃん!」
ある日、法術がなくても妖魔のある場所を壊せば殺せることに気付き、一人で生きていくため結界の外側に行って妖魔退治をしていたら俺よりも小さな男の子がいた。
小さい男の子というだけで弟を連想し、苦手意識が強かったが褒められたのは初めてだった。
だから思わず固まって、あ、と変な声を出した後にどうもだなんてかわいくない返事をしてしまう。
そんな俺に気分を害することなくその子供はにっこりと花咲くように笑顔になった。
「助けてくれてありがとう!」
「あ、う、うん」
ぎゅっと小さくて温かくて綺麗な手が俺のたこが出来た汚い手に触れるので反射的にそれを払ってしまう。
はっとして何かを言い募ろうとしたが、言葉が出ない。ぐっと唇を噛んでその場を立ち去ろうとすると、ぐいっと裾を掴まれる。
「急に触ってごめんなさい。嫌だった?」
「あ、え、えっと、ち、がくて……」
「ん?うん」
「その、お、おれの手あんまり綺麗じゃないから……」
「うん、頑張り屋さんの手だね!あ、僕は久遠!君は?」
「あ、え、えっと、し、ずき、です」
「静紀君!じゃあしーちゃんだね!僕の事は久遠って呼んで!」
「久遠……」
生まれて初めて名前を呼ばれた。生まれて初めて誰かの名前を呼んだ。
こんな気持ちになるんだと思ったらぼろっと目から何かが溢れた。
「え、ど、どうしたの!?しーちゃん呼び嫌だった!?」
「ううん。ううん違、くて……」
「そ、そうなの?泣き止んで?」
「うん、うん」
小さな男に子に貰った手拭い。
桜の刺繍があって肌触りの良い手拭い。
洗って返そうとしたらあげると言われて今でもずっとそれをお守りにして持っている。
俺の生まれて初めてのお友達で仲が良かった唯一の男の子。
ほぼ毎日と言っていい程小さい頃は一緒に遊んでいたがある時を境に来なくなった。きっと俺に飽きたのだろう。悲しかったが仕方ない事だと思った。だって俺は、法術のない役立たずでごく潰しな子供だから。
だから、また、蓋をした。
そうすればきっと前のように過ごせると思ったから。
***
どうしてそんな存在がいるのかどうやって発生するのかは不明。
ただわかることは、奴らは人を襲うという事。
人々は法術を使い彼らを退治してきた。
元々自警団であったその集まりは年月が経つにつれて大きくなり、今では霊峰院という組織名で妖魔退治を行っている。
時代の中で、都を守る為七宝という結界が作られた。完全に妖魔が入れず、はじき出すもので帝を核とした七人の法術師がその役割を担っている。
七宝のお陰で法術がない人々も安心して暮らせるようになったという。
七宝の役割を担う七つの一族がある。
恵比寿、黒天、毘沙門、弁財、福禄、寿老、袋尊。
その七つの一族は特に法術が強く生まれる可能性が高いとされているが、今代、毘沙門一族に法術がまるでない子供が生まれた。
それが俺。
名門である毘沙門一族に法術の持たない人間が生まれたが、初めての男の子であったため殺されることはなかった。
しかし、その翌年に法術がどの一族よりもあってしかも幼いころから操れる天才な弟が生まれたため、俺の扱いは空気となった。
一先ず何かあった時の代わりで育てるみたいな立ち位置。
物心ついた時は弟ばかりに構う使用人や両親と彼らが俺を見る冷たい視線を受けすべてを諦めていた。
口さがない言葉に何度も何度も泣いていた時もあった。
けれどある日、ぷつんと何かが切れたように何もかも期待しないでただ黙って全てを受け入れることができた。
弟と比べられようと、暴力を受けようと、人格を存在を全て否定されようとも何も感じなくなった。
そのはずだった。
***
「凄いねお兄ちゃん!」
ある日、法術がなくても妖魔のある場所を壊せば殺せることに気付き、一人で生きていくため結界の外側に行って妖魔退治をしていたら俺よりも小さな男の子がいた。
小さい男の子というだけで弟を連想し、苦手意識が強かったが褒められたのは初めてだった。
だから思わず固まって、あ、と変な声を出した後にどうもだなんてかわいくない返事をしてしまう。
そんな俺に気分を害することなくその子供はにっこりと花咲くように笑顔になった。
「助けてくれてありがとう!」
「あ、う、うん」
ぎゅっと小さくて温かくて綺麗な手が俺のたこが出来た汚い手に触れるので反射的にそれを払ってしまう。
はっとして何かを言い募ろうとしたが、言葉が出ない。ぐっと唇を噛んでその場を立ち去ろうとすると、ぐいっと裾を掴まれる。
「急に触ってごめんなさい。嫌だった?」
「あ、え、えっと、ち、がくて……」
「ん?うん」
「その、お、おれの手あんまり綺麗じゃないから……」
「うん、頑張り屋さんの手だね!あ、僕は久遠!君は?」
「あ、え、えっと、し、ずき、です」
「静紀君!じゃあしーちゃんだね!僕の事は久遠って呼んで!」
「久遠……」
生まれて初めて名前を呼ばれた。生まれて初めて誰かの名前を呼んだ。
こんな気持ちになるんだと思ったらぼろっと目から何かが溢れた。
「え、ど、どうしたの!?しーちゃん呼び嫌だった!?」
「ううん。ううん違、くて……」
「そ、そうなの?泣き止んで?」
「うん、うん」
小さな男に子に貰った手拭い。
桜の刺繍があって肌触りの良い手拭い。
洗って返そうとしたらあげると言われて今でもずっとそれをお守りにして持っている。
俺の生まれて初めてのお友達で仲が良かった唯一の男の子。
ほぼ毎日と言っていい程小さい頃は一緒に遊んでいたがある時を境に来なくなった。きっと俺に飽きたのだろう。悲しかったが仕方ない事だと思った。だって俺は、法術のない役立たずでごく潰しな子供だから。
だから、また、蓋をした。
そうすればきっと前のように過ごせると思ったから。
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