上 下
34 / 208

しおりを挟む
非常にまずい。俺は使用人の皆さんに危険分子だと思われて去っていったのでそんな俺がまたしてもこの

屋敷にいると知れば久臣さんたちに迷惑がかかるかもしれない。

そう思い、震える体を動かして久臣さんの腕から離れようとすると「旦那様?」と聞いたことのある声がした。





「どうされ……、しーちゃん様!?」





……しーちゃん様?

顔をあげると、警備の確か久遠によしちゃと呼ばれていた人物だ。

先ほどの騒動の中にもいて、俺のことを危ないと言っていた人に同意するようにうなずいていた。まずい、これで久臣さんと使用人さんの中がこじれたら困る。





「あの……っ!!」

「旦那様!若君はまだ力の制御が出来ておりません!若君のお傍にしーちゃん様は危ないですよ!!何連れてきてるんですか!!貴方は頑丈だから大丈夫ですけど!しーちゃん様は小さな子供なんですよ!?」





……俺は聞き間違いでもしただろうか?

ぴたりと動きを止めて彼を見る。彼の表情は到底雇い主に向けるようなものではなく、視線は誘拐犯を見るような蔑みのようなものを感じる。



……見間違いだろうか?





「……くちゃわーいこ?」

「そんなことないよ!?」

「くーちゃんは良い子です!!大体、くーちゃんがしーちゃんを傷つけることはないから大丈夫!!それよりも風呂用意して!しーちゃんが寒くて震えてるから!」

「それ早く言ってください!!」





彼の言葉を多少理解したのか自分のせいで俺が離れることになったと思い込んでしゅんっと久遠が泣きそうな顔をする。それを全力で俺と久臣さんが否定した。すると久遠はそっかーっとすぐににこにこになった。良かった。



そんなことを思っていたら彼はすぐに走ってどこかに行ってしまう。



あれ?



自分の予想外の反応にやはり目の錯覚か何かだろうかと思っていると久臣さんが俺の顔を覗き込む。





「しーちゃん、流石にその刀はお風呂場には持っていけないから預かっていいかな?」

「あ」





言われてずっと刀を抱えていたことに気付いた。はっとその刀を見るとどういうわけかきちんと鞘の中に入っている。



盗んだも同然の刀だが今回も手に入って俺はほっとした。この刀があるだけで安心感が違う。

だからすぐに手放すとなると少し不安だ。でも風呂場に刀を持って行くのはだめであるということも理解している。





「……はい、お願いします」

「うんありが……おわあっ!?」





風呂場の近くで久遠と一緒に下ろされた後に俺は刀を久臣さんに預けようとして久臣さんが悲鳴を上げた。



何事だと思ったら俺の袖口からひょっこりと小さな蛇が現れたからだ。その蛇は今しがた久臣さんに渡した刀の鍔近くでぐるりと体を巻き付けるように居座る。





「え!?何!?なにこれ蛇!?」





久臣さんがそう言って驚いている中、俺は冷や汗が止まらなかった。

見たことがある白い蛇。先ほどは気づかなかったが、少しばかり桃色がかった鱗を持っている。チロチロと小さく赤い舌を出しながら同じ紅色の瞳を俺に向けており何を考えているか分からない。





「……お、怒ってますか?」





俺は恐る恐るそう聞いた。聞いても言葉が分からないので意味がないのだが何となく表情を見ていれば分かるかもしれないという希望を持つ。



じっとその蛇を観察していると蛇は緩く首を振った。そしててしてしっと刀を叩いた後にぶんぶんっと小さい尻尾を振ってまるで刀は任せて行ってらっしゃいと言っているような行動をとる。



この蛇は明確に意思を持っている。



下手なことをしたら殺されるかもしれないと思ったが、兎に角怒っていないようでほっとしたがはっと我に返る。





「尻尾の怪我は!?」





そうだそうだ。血を流していたとじっとその尻尾を見るときれいさっぱり無くなっていた良かった。





「あの、久臣さん。その子も……」

「え?ああ、うん大丈夫任せてお風呂に入っておいで」





久臣さんはそう言ってくれた。恐る恐る俺はその子の頭を撫でて風呂場に入ろうとしてぐいっと腕を掴まれた。





「くーちゃんもはいる!!」

「え?」

「くーちゃんもはいる!!!」

「あ、えーっと……」





久遠はまだ幼いから俺と二人で入るのは危険だ。だからそう言ってくる久遠に何も言えずに困った顔をしているとすぐさま久臣さんが行動してくれる。





「ちょっと君これ持ってて俺も風呂入るから」

「かしこまり、え、蛇?」





蛇付きの刀に思わずそんな声が漏れていた。



申し訳ないけどその蛇も大事なものなので丁重に扱ってください……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。 村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。 攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。

純情Ωの願いごと

豆ちよこ
BL
オレの幼なじみは銀河一可愛い! オメガの松永理央の世界の中心は幼なじみの久住七央。同じオメガでも七央は別格。可愛くて可憐で儚げで…。オレが守ってあげなくちゃ!彼の幸せの為ならどんな事も頑張れる。そんな理央の前に、あるパーティで七央に一目惚れしたアルファが現れた。アルファ御三家の一つ、九条家の三男、流星だ。この人ならきっと七央を幸せにしてくれる。そう思い二人を応援しようとするのだが、どうにも上手くいかなくて。おまけに何だかもやもやもする。七央の幸せを願ってるはずなのに、日増しにもやもやは募るばかりで……。 ▷▷▷▷▷▷▷▷▷ 自己解釈&自己設定盛り込みまくりのオメガバースです。 全年齢考慮の健全なオメガバースをコンセプトに創作しました。エロ無しオメガバ……難しかった。

【完結】無自覚最強の僕は異世界でテンプレに憧れる

いな@
ファンタジー
 前世では生まれてからずっと死ぬまで病室から出れなかった少年は、神様の目に留まりました。  神様に、【健康】 のスキルを貰い、男爵家の三男として生まれます。  主人公のライは、赤ちゃんですから何もする事、出来る事が無かったのですが、魔法が使いたくて、イメージだけで魔力をぐるぐる回して数か月、魔力が見える様になり、ついには攻撃?魔法が使える様になりました。  でもまあ動けませんから、暇があったらぐるぐるしていたのですが、知らない内に凄い『古代魔法使い』になったようです。  若くして、家を出て冒険者になり、特にやることもなく、勝手気儘に旅をするそうですが、どこに行ってもトラブル発生。  ごたごたしますが、可愛い女の子とも婚約できましたので順風満帆、仲間になったテラとムルムルを肩に乗せて、今日も健康だけを頼りにほのぼの旅を続けます。 注)『無自覚』トラブルメーカーでもあります。 【★表紙イラストはnovelAIで作成しており、著作権は作者に帰属しています★】

ポメラニアンになった僕は初めて愛を知る【完結】

君影 ルナ
BL
動物大好き包容力カンスト攻め × 愛を知らない薄幸系ポメ受け が、お互いに癒され幸せになっていくほのぼのストーリー ──────── ※物語の構成上、受けの過去が苦しいものになっております。 ※この話をざっくり言うなら、攻めによる受けよしよし話。 ※攻めは親バカ炸裂するレベルで動物(後の受け)好き。 ※受けは「癒しとは何だ?」と首を傾げるレベルで愛や幸せに疎い。

処理中です...