【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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「しーちゃんは、刀に触ったことありますか?」

「多少は……」

「成程」



そう言って晴臣さんは俺の上から下まで観察をして、にっこりと微笑む。



「では早速持ってみますか?」

「はい!」



晴臣さんが腰から刀を取り出してそれから俺に持たせてくれる。

お、おおお!!やっぱり俺が持ってたあの刀よりは軽い。とはいえ、今は小さいので俺の身体の大きさからみれば大太刀に見えなくもない。

そう思ってまじまじと刀を見ていたら縁側で久遠と一緒に見ていた九郎が声をあげる。



「え!お、お前よくそれ持てんな!」

「え?」

「滅茶苦茶重いじゃんか!」



そうなのか?

きょとんとして九郎を見る。重いとは感じないけど、考えてみれば鉄の塊だもんな。これで何か不都合なことが起きたわけではないのであまり気にしていなかったが。



「分かった。お前あれだ。ばかぢからって奴だろ?見るからにぼんやりして頭悪そうだし!」



九郎がげらげら笑ってそう言った。

確かに俺はお世辞にも頭がいいとは言えない。字はどうにか独学で学んだが、難しい字が出ると途端に分からなくなるから間違いではない。

うんっと頷こうとして、隣にいた久遠に九郎が頭突きされた。



「しちゃ!あたまいくないない!!くろちゃあのがばか!!!」

「いってえ!何すんだよ石頭!!」

「くろちゃのがばか!!」

「そうですよ九郎?というかお前人の事言えるんですか?」



晴臣さんも擁護してくれたが、別にそれはどうでもよくないか?

そう思っていると九郎はむきになってこういった。



「い、いえるし!しーちゃんよりは頭いい!絶対!」

「うん、俺よりは頭いいと思うよ九郎」

「ほらな!!」

「お前というやつは……」



晴臣さんが額に手を置いた。九郎は得意げな顔をしている。それを見ながらふと、隣に久遠がいないことに気が付いた。



「くーちゃんは!?」

「え?」



九郎がきょとんとして隣を見る。俺は慌てて晴臣さんに刀を返して中に入ろうとすると、ばたばたと足音が近づいてきた。持ってきたのは一枚の紙。

それをびしっと九郎に押し付けて何やら言葉を捲し立てる。



「これしちゃのじのきえいなじでこれしちゃでこれくちゃ!しちゃはかきかきしてくちゃはぐちゃぐちゃして、しちゃはすーすーってかけてくちゃできないけどしちゃは……っ!!」

「何言ってるか分かんねえ!!」

「しちゃあ、くろちゃよりじきえい!!」

「う、うるせー!!」

「お、落ち着いて!!」



二人でぎゃんぎゃん騒ぎ出してしまい、慌てて二人の間に入る。

俺の字が綺麗だって褒められて嬉しいけど、今はそうじゃない。とりあえず興奮してふんふん鼻を鳴らしている久遠を頭を撫でて落ち着かせる。むっすうっとした顔だが、久遠を落ち着かせると九郎も黙ってくれた。助かる。



「くーちゃん、別に九郎は俺のことを貶めようとしていったわけじゃないんだよ?そうだよね?」

「しちゃばかにした!くろちゃわーいこ!!」

「だから馬鹿にしたわけじゃなくて……」

「……俺の言葉選びが悪かった、です」



え?

少ししか過ごしていないが、見たところ素直に謝るような人柄ではないと思っていた。だから驚いて九郎を見ると、久遠はきっと彼を睨んで叫ぶ。



「あややまう!!」

「ごめんなさい……」

「あ、いや大丈夫。ありがとう九郎、謝ってくれて」



ここは素直にそう受け止める。許す許さないの問題でもないんだが、そこを突っ込んだら抉れそうなので黙っておいた。

ぼそりと、「どっちが年上か分かんないなあれ」という晴臣さんの言葉聞こえたが、九郎には聞こえていなかったようで良かった。
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