【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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「だ、大丈夫です。それより手、怪我しませんでしたか?」

「良い子!!こんな時も良い子なのね君!!」





……?



久臣さんの言葉に少し引っ掛かりを覚えるが、そこまで気にすることではないだろうと頭の隅に追いやる。この人には前にもあったことないから気のせいだろう。





「いっぱい食べるんだよ!!食後におやつでも食べて!!」

「い、いえ、大丈夫です」

「じゃ持ってって!!」

「いえ、大丈夫です」





盗んだとか言われるかもしれないし。



前の時に、清香さんから貰った勾玉を盗んだものだって勘違いされて大変なことが起きた。それを思い出してあまり自分のものは持たない方がいいと判断する。それに持って行ってもきっと取り上げられるから、ここで沢山味わって食べるのがいいだろう。



久遠から貰ったものも美味しいし、この魚の煮つけも美味しい。もう食べられないだろうからしっかり覚えて帰らなければ。





「ありがとうくーちゃん、美味しかったよ」

「! あげう!!」

「もう大丈夫だから。あ、そうだ今度は俺があーんしてあげる」





膳ごと俺に持ってこようとしていたので慌てて止めて、今度は俺が久遠に食べさせてあげる。すると彼は一瞬固まってばたばたと両手を動かした。





「あー! あー!!」

「そんなに慌てなくても大丈夫だよ」





とても喜んでいるようで、箸で食べさせてあげると目を輝かせながら齧りつく。そしてもぐもぐ口を動かして「おいし!」っと笑顔を見せた。



か、可愛い……。



思わずこちらの頬も緩むと、えへへ~っと嬉しそうに顔を綻ばせた。お気に召したようで何よりである。これで俺にあーんをする暇を与えることなく全部食べさせた。





「ごーそさま!」





そう挨拶するので、俺も慌ててご飯を食べ終わろうと箸を動かす。すると沙織さんが笑ってこういった。





「急がなくていいのよ。ゆっくり食べて」

「あ、す、すみません……」

「いいえ。謝ることはないわ。それに誰も取らないから大丈夫よ」





卑しいと思われただろうか。早く食べようとして優雅じゃないから。



思わずびくびくして沙織さんを伺うと彼女はのんびりとそう言った。勝手に身構えてしまって申し訳なく思いながら、味わうためにちびちびと食べる。



美味しい、美味しすぎる。只俺が食べている様子をずっと久遠が見つめている。





「しちゃ、おいし?」

「うん、美味しいよ。くーちゃんも食べる?」

「いなない!!」

「あ、そう?」





要らないってことだよね?そう思い、もぐもぐと食べ始める。



そして、久遠の家族に見守られながら夕飯をご馳走になった。そろそろさすがにお暇せねばならないと沙織さんと久臣さんに挨拶をしようと彼らに近寄るとべちゃっと誰かが転んだような音が背後から聞こえた。



慌てて振り返ると畳の上で顔から見事に転んでいる久遠がいた。





「くーちゃん!」





俺は駆け寄って彼を抱き起こす。彼はぽかんとしていて何が起きたのかいまいちわかっていないようだ。額が赤くなっており、何か冷やすものはないだろうかと思っていると、じわりじわりと久遠の瞳に涙がたまる。



あ、これは!





「ふああああああああんんっ!!!!!」

「い、痛かったね!大丈夫だよ!」

「ひ、うぅうううっ!ああああああんん!!」





ぎゅううっと力強く抱きしめられて俺は彼の頭を撫でたり、同じく抱きしめ返したりする。瞳が溶けそうなほどぼろぼろに泣いて、縋りつく久遠を宥めていると、二つの視線を感じた。



久臣さんと沙織さんだ。彼らは驚きの表情でこちらを、というよりは久遠を見ている。どうしたんだろう。もしかしてこうやって大泣きするのが珍しいとか?いやそんなことないよな。このぐらいの歳の子供ってよく泣いてると思うし。



そう思って二人を見つめているとはっと久臣さんが何かを感じ取ったような顔をした。

それから俺と一緒によしよしと久遠の頭を撫でる。





「そっかそっかぁ、大丈夫だよ―。しーちゃんがずっと一緒にいてくれるって!さあお部屋に戻って寝ようねー」

「え?」





え?



久臣さんは器用に俺と久遠をまとめて抱えた。久遠が落ちるのではないかとひやひやしたが、かなり鍛えているようで久遠が寝ているであろう部屋に連れていかれた。布団が二つ敷かれていて一つの布団の上に下ろされる。





「とともいるからねー」

「……とと、ない、や」

「え、そんなにいやなの?」





ぐすぐすと泣き止んだ久遠が横になった久臣さんの胸をどんどん手でたたく。どっかに行けという話だろうか。



むっと口をとがらせてじいいいっと久臣さんに視線を送る久遠に耐えかねた久臣さんが立ち上がった。





「しーちゃん、くーちゃんよろしくね」

「え。いや僕かえ……」

「ない!!ととない!!ばばい!!しーちゃねーね!!」

「主張激し。もうとと行くから静かにおやすみね」

「あ、え、あの、あ」

「ねーね!」





久臣さんがいなくなって、久遠は布団を被る。俺も早く入れとべちべち隣を叩くので仕方なくそこに入った。





「ねーねねー。しちゃねーねよー?」

「う、ん。そうだね、おやすみくーちゃん」





ねーね、というのは寝るって事だろう。こうなったら久遠が寝た後にこっそり抜け出せばいいか。そう思って久遠を寝かせることに注視していたらふわりとお香の匂いがした。



それを嗅いでいるとなんだか眠くなってくる。いけない、今寝たら起きれない。そう思ったが、隣にいる久遠の体温もちょうどよくていつの間にか眠ってしまっていた。
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