入れ替わりの少年と王子様

紫鶴

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王子様の一目ぼれ

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「第三王子殿下って何考えてるか分からないわよね」
「ねえ、なんか人形に話しかけてるの見ちゃった」


王子様がそう言われるのいつもの事でした。無表情でお人形みたいだと。だからか、その事を国王陛下と王妃はひどく気にしていました。王子である以上人との関わり方は慎重にならないといけませんが、関わりすぎないというのも問題でした。

上の兄二人が優秀で誰とも仲良くなれるのに対し、その王子様は無口で内気、人と目を合わせることもできませんでした。

人と話す機会がなかったからか、人に対して過剰にびくびくと震えて話になりません。

そんな王子様を気にして、王様は護衛という名の年の近い子供をつけるようになりました。

とはいえ、それなりに実力のあるものではないといけません。王様はとある基準にのっとって子供を収集しました。

誤算は、その子供の中に確実に国の脅威となるものがいた事でしょう。

その子供は貴族の三男でした。そして、歳にしては大人びていて、王様の見たことのない武器を使うものでした。王様だけではなく、その場にいたもの全員がでありましたが。後にそれはライフル銃というものであると王様達は知ります。

選定に参加した騎士団の団長がその子供に尋ねました。


「それは誰に作らせたんだ?」


すると子供が言いました。


「私が作りました」


次の瞬間、その武器が霧のように消えました。それからその子供は頭を下げます。そして、こう言いました。


「私は魔法を使えませんが、幻術を使うことができます。そして、それを現実に干渉させることができます」


幻術を現実に干渉させる、そんなものは聞いたことがありません。しかし現に、その少年によっておわされた傷は幻術を解いた今でも残っています。

それが、脅威以外の何物でもありません。

王様には見えました。彼が兵を作り、未知の武器で敵を殲滅する様が。その彼にとっての敵が一瞬でも自国の兵であると錯覚を起こし身震いをしました。

この子供を放置するわけにはいかない。どうにか目の届く場所で管理する必要がある。そう王様は思いました。
勿論、彼は応募されたものの中で匹敵する強さでしたが第三王子の護衛にするにはあまりにも危険でした。

それはその場でいる誰もが同じでした。


「結果は追って報告致します。ご苦労様でした」
「失礼いたします」


そうして子供会場を後にしました。しかし、その子供の目的はそれではありません。子供は使用人に案内されながら角で幻覚の自分と入れ替わり、別れました。それから、ポケットに入れている人形を取り出し、目的の男の子を探します。

そう、その子供は前に行われたパーティーで拾った人形を男の子に渡すために来たのです。

子どもはそのパーティーで落ちている人形を見つけました。それは泥の中で落ちていたので子供はそれを軽く払いながら、そこでこちらを伺っている第三王子様を見かけ返そうとしましたが、王子さまはびゃっと逃げてしまいました。子供は汚れた人形をそのままにしておくわけにもいかず、また、寒空の下放置するのも気が引けて持ち帰ってしまいました。ぶっちゃけ、またパーティーで出会えると軽く思っていたのです。後に、その王子さまは変わり者の第三王子であることを知り、今の今まで人形の世話をすることとなっていたのでした。


「いやはや、ごめんね、今ご主人様のところに返すからね~」


子どもは新調した服を着せたその人形を、抱きながらきょろきょろと周りを見渡す。幻術を使って誤魔化しているとはいえここは王宮下手をすると捕まってしまうことがわかるので子供の警戒は厳重でした。とはいえ、子供はただの子供ではありません。

信じられないと思いますが彼には前世がありその時の職業はスパイ。そう簡単には捕まらない自信はあるのでした。
さて、子供はどうにか第三王子の部屋を探ります。侍従たちが話をしているのを注意深く聞きながらようやくたどり着いた部屋は角部屋で陽のあまり入らない暗い部屋でした。ここが本当に第三王子の部屋?そう子供は疑いましたが、しかし、かなり検証をして得た情報なので信憑性は高いはずです。子供はうーんと悩みながらも窓の端で幻術の子供が外に出ていくのを見て慌てて人形を置きました。それからその近くの窓から下に降りようとすると、「エディ!」っと声がしました。

うっと子供は思わずそう呟いて後ろを見るとそこには両手に人形を持った男の子、第三王子様がいました。

王子様は一目散に扉の前に置いた人形を手に取りました。それからぎゅっと抱きしめました。

その人形の名前はエディっと言うらしく、嬉しそうに王子さまはその人形に話しかけます。


「どこに行ってたの?新しいお洋服も可愛い。えへへ、戻って来てくれて嬉しい」


にこにこっと王子様は一生懸命話しかけます。それを見た子供は気づかれないようにそろっと離れていこうとしました。しかし、話しかけていた王子さまははたっと子供の存在に気付いてしまいました。それからぶるぶると震えだしてぎゅうっと人形を握り締めました。その様子を見てあっと子供は声をあげる。


「そんなに抱きしめたらエディが苦しいよ」
「あ……」


すると王子様はそっと人形から手を離しました。それを見て子供はそっと人形の頭をなでる。


「あの、ごめんなさい。ずっと君の人形持ったままで、服は汚れちゃってて新しいの着せちゃったけど……」
「お兄ちゃんが作ったの……?」
「え、あ、うん。ちょっと下手くそだけど……」


子どもがそう言うと、ふるふるっと王子さまは首を振りました。それから大事そうにその人形を抱えます。


「新しいお洋服ありがとう。僕はお洋服、うまく作れなくて……」
「そう?じゃあ、また何か作ってあげるよ」
「いいの?」
「うん」


そこまで答えてはっとしました。既に子供はここにいてはいけない人間です。


「じゃあ、またね!」
「え!こ、ここ三階……」


ひらりっと子供は窓から華麗に飛び降りてささっと誰にも見つかることなく王宮の外に出ることが出来ました。

その様子をほあっと王子様は見つめ、「かっこいい」っと呟いたことを子どもは知りません。

そして、初めて人に興味を持った王子様が彼をねだるのはすぐの事でした。
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