マイペース元勇者の2度目の人生。

紫鶴

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29、元勇者、一日限定大人になります。

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節々が痛い。声がかすれる。アシュレイはううっと唸りながら最終的に気絶するように眠っていたようでいつの間にかベッドにいた。起き上がり下に行くと既にレイチェルが朝ご飯を用意していてアシュレイはむすっと不機嫌そうにレイチェルを見た。


「あ、おは……あー」
「……」
「ごめんなさい」
「うん、おはよう」


素直に謝ったレイチェルにアシュレイはそう挨拶をして席に着いた。またしても起きることが出来ずに朝食を作れなかったアシュレイは、どうやったらもっと早く起きれるかを思案する。とはいえ、あの行為の後はどうしてもだるくて疲れる。

そうこう悩んでいる内にレイチェルが今日の朝ご飯のホットサンドとサラダにオレンジジュース、カボチャのスープが置かれる。ついでに、ぼんやりとしているように見えたアシュレイにちゅっと触れるだけのキスをして。


「レ、レイチェル!!」
「ん?おはようのちゅう」
「ひえ……」


アシュレイは顔を真っ赤にしてそれを隠すように俯いた。
ふふっとレイチェルはそれを見て笑い、もぐもぐと食べ始める。アシュレイも落ち着いてから食べ始めて、今日の予定を聞く。


「今日って何かする予定でもある?」
「ん?んー、特には……」
「じゃあ今日こそ教会に行こう」
「うん!」


昨日の出来事は完全になかったことにしてアシュレイはそう提案する。昨日のあれは、運が悪かったとしか言いようがない。それにレイチェルを巻き込んでしまったこともあり、アシュレイはそこは反省している。これからは不用意に他人に近寄らないということを誓おう。


「あの冒険者たちに鉢合わせても面倒だから、レイチェル、何か一時的に俺を成長させるとか、顔変えるとかできない?」
「できるよ!」
「す、すごいね……」


アシュレイは適当にそう言ったのだが、レイチェルはあっさりとそう答えたので驚く。アシュレイにはそういう魔術は無駄だと切り捨てたのでそういう魔術は覚えていない。


「じゃあじゃあ、大きくするね!」
「え?い、今っ!?」


その瞬間アシュレイの体が大きくなった。大きくなったためにレイチェルのワイシャツを着ていただけの彼は下を隠す為に引っ張った。それから恥ずかしそうに涙目になりながらレイチェル!っと叫ぶ。

レイチェルはじいっとアシュレイが隠している下を見て、そっと来ていたカーディガンを膝の上にかける。違う、そうじゃないっとアシュレイはそう思ったが、レイチェルはそれから自分の服を持ってきたのでアシュレイはため息をつくだけで収まった。

レイチェルの魔術は一日で切れるらしい。つまり、24時間はこのマンであると考えていいだろう。アシュレイはレイチェルの服を身に包んで朝ご飯を食べ始める。

アシュレイはレイチェルより少し低いくらいで服は少し大きいくらいでちょうどいい。じいいっとレイチェルは成長したアシュレイを見てにこにこと笑顔を見せる。


「……レイチェル、どうしたの?」
「んーん、なんでもなーい」


レイチェルはそう言って、朝食を食べ始める。アシュレイも同じように食べ始めた。そして、アシュレイが食器洗いをして、二人でまた街に出る。

アシュレイは丸眼鏡と伸びた髪を適当に結わえ、サロペットとシャツ、ジャケットを肩に羽織っている。レイチェルは同じくシャツにカーディガン、ズボン、ストールで口元を隠し帽子を被っている。昨日の今日で外套は目立つと判断したためだ。

そんなある意味目立つ格好の二人は町に繰りだす。

すると、アシュレイは沢山の視線を感じた。ちらっと周りを見渡そうとしたがその前にレイチェルに腕を取られそちらに気を取られる。


「いきなり何?」
「別にー?」


アシュレイはレイチェルが突然腕を組んだ事に文句を言うがレイチェルはそっぽを向いている。何か拗ねているのだろうか。アシュレイはそう思ったが何が機嫌を損ねたのか分からずに、そのまま教会まで向かう。

教会に行くと、そこには人だかりができていた。アシュレイがなんだろうと思っていると、レイチェルが傍にいるご婦人達に話を聞く。


「失礼ですが、これは何かの催しが……?」
「え?ああ、あんた最近来た人たちかい?今日は勇者様のパーティーに参加していた祭司様が来ているんだよ」
「へー、そうなんですか」
「そうそう!綺麗な人でねー。ご利益もあるっていうからみーんなこぞって礼拝に来てるのよ」
「成程」


勇者パーティーで今祭司となるとリナだろうかっとアシュレイはぼんやりとそう思いながら、なぜこんなところに来ているのかと疑問がわく。一応勇者がやられたから来ているのだろうか。勇者パーティーだからってなんてことを。
アシュレイは、父親は何を考えているのだろうかっと頭を抱える。もう好きにしていいというのに、まだ勇者に縛られる人生を歩んでいるのかと思うと申し訳ないと思う。

とはいえ、ここでアシュレイがどうこうしてもどうにもならないだろう。

やれることといえば、やはりあの魔神と早めに蹴りをつけなければならない。

その為に、この教会に訪れ聞きたいことがあったのだがこの状態では無理だろう。

アシュレイはくいっとレイチェルの腕を引き、目で帰ろうと伝える。すると伝わったのかレイチェルは頷いて、その婦人にお礼を言おうとした時、閉じられていた教会の扉が開いた。


「あんたら折角来たんだから参加しなよ!」
「え、いえ僕たちは……」
「いいからいいから!」
「そうそう、こんな機会はきっとないわ。行きましょう?」


初めて来たというだけでご婦人方はレイチェルとアシュレイをぐいぐい教会の中に連れていく。というのもご婦人たちにとってはこの目の保養の二人をここで逃してなるものかっという思いが強い。この界隈の男であるとは思えないその美貌にメロメロである。

その魅力に気づいていないのはアシュレイだけで、レイチェルはというとどうだ、僕のアーシュは美人だろうとでもいうように鼻高々に僕のもの自慢をするために腕を組んで肩に頭をのせている。

一部どよめきだって気絶する者が出たおかげで今日の参拝者はいつもより若干少なかったとか。
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