マイペース元勇者の2度目の人生。

紫鶴

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28、冒険者の評価

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今や、勇者アシュレイは落ちぶれたなどという風評被害が出ているがそんなことを言い出したのは冒険者である。

この世界で、冒険者という存在は嫌われている。

というのは知識も力も礼儀もなく、夢と希望のみを抱いた者ばかりのならず者の集まりで、冒険者ギルドなんてものが立ち上がっても素人の集まりでは利益が上がらない。

魔物退治も別段冒険者がやらなくったって腐っていない国であればその国の兵士がそれなりに対応をするので、冒険者という家業に転職しても大して金は手に入らない。

彼らの唯一の財源としては、魔物を狩った後の毛皮などのパーツである。そしてこれにも技術がいる。まず、毛皮を綺麗に剥がすために無駄な創傷を避け綺麗なままで殺すこと。剥ぐ時もパーツに傷がつかないようにすること。
素人がいきなりこのような技術を持っているわけがなく、ぼろぼろのパーツを売りつけるがどうにか食い扶持を稼げるくらいの値段しかつかない。それに不服申し立てをして問題を起こし犯罪者行きというのもよくある話だ。

そのように、冒険者は素行が悪く一攫千金、名誉と地位を求めてやってくるが現実は厳しいものである。

そんな中、勇者の加護を受けた者がどこぞの王子、しかも年が若いとなれば苦労している冒険者たちにとって面白くないのである。しかも、勇者が魔王退治の為に各地を練り歩くと同じように魔物も殲滅され、その上綺麗な状態の毛皮などを我が物顔で売られ、大金を手にする。

彼らにとっては勇者の加護を持っただけの運のいいガキがバカすか魔物を狩りつくし自分たちの食い扶持を減らしている害悪であるという認識だ。

そして、まさに今回、その勇者が魔王に乗っ取られたという情報が流れ、妬みにまみれた冒険者たちは鬼の首を取ったように勇者の加護を持っているものは当てにならない、冒険者の時代だ!っと名乗りを上げ無謀な挑戦をしている。

つまるところ、勇者アシュレイは落ちぶれたなどと言っているのは世間に嫌われている冒険者たちだけである。

はあっと冒険者が変なことをしないようにと監視と管理の為に置かれた兵士、ケニーはため息をつく。

ここ数年では少なくなってきた冒険者だが、一日に10組ほどの冒険者がこの塔に挑戦しに来る。大体は、塔に入った瞬間悲鳴と叫び声が聞こえ、ぼろっぼろで傷だらけの状態でぽいっと追い出される。

そして、こうアナウンスが流れるのだ。


「勇者を連れてこーい!無能無謀のお前らはとっとと帰れー!」


魔神は勇者を所望している。だから勇者がいないとそこで門前払いされるのだ。

ケニーは今日も追い出されたパーティーを見ながら、それでも死んでいないところを見ると魔神はだいぶ優しいとケニーはそう思いつつ、暫くたつとまたしてもその無謀の冒険者はやってきた。

今度は男二人、子供、女三人の不思議なパーティーだ。とはいえ、長年ここに挑んでくる人を見ているケニーは男一人と女三人のパーティーと臨時で子連れの男が入ったのだとすぐに見抜く。

子どもが入って大丈夫だろうか、とケニーは心配した。見たところなんだか仕立てのよさそうな服を着ている。その服とはアンバランスなブーツを履いているがどう考えても戦闘向きの格好ではない。

そう心配していたが、その子供、よく見ると注意深くこの記録と管理の為に書いてもらうこの紙と、一瞬だけケニーを見て考え込む仕草をする。その様が妙に大人びていて、ケニーが少しばかり観察しているとその子供、四人パーティーのものが見ている前ではにこにこ無邪気さを装い、見ていないところでは労力の無駄とばかりに無表情である。
ケニーはそういう子供を見たことがあった。

約十年前、そう、勇者がこの地を訪れた時のあの幼く愛らしい勇者にその様子が似ている。その時はこの国は危機に陥っていた。幾たびの統率のとれた魔物の進軍により防衛機能は落ち、首都陥落とまで言われていた。しかし、その大軍をあっさり根絶やしにし、此方も唖然、顔面真っ青になる非情と、惜しみなく力を振るい自国でもなくましてや同盟を組んでいる訳でもないこの国の民を救うために勇者は現れた。

その戦争にはケニーも参加していた。運よく生き延びたが、最後に王族を逃がすという使命の元肉壁になれっと指令を出された彼はそこで死ぬ予定であった。

勇猛果敢に自身の数倍もある魔物を一刀両断。大地を割り、草木を狩り、勇者はその名に恥じることない勇者であった。

あの姿を見ていれば、運よく勇者の加護を手にしただけの子供だなんて言えるはずがない。寧ろ崇拝し尊敬に値する存在だ。

そこまでケニーは考えてぐっと涙が流れそうになった。本当はすぐにでも塔に挑戦したいのだが、勇者を救いたいと思っている国が多すぎてもめているのだ。今でも。

とはいえ、前までは数々の国での精鋭たちが挑戦していたのだがやはり勇者がいないと追い出される。その為、今では勇者の加護を持つ者をいち早く手にしたものが挑戦権を得る!ということになっていた。

残念なことにこの国の教会で運よく見つけたのだが、何を思ったのか子供を盾にしてしまったためにあえなく消えてしまう。その男はどこぞの貴族の三男で成果を上げたくてやったという。その男の行く末は、ケニーは知らないがろくでもないことは確かだ。

そんな事を思い出してふと周りを見渡すと既にその一行は居なかった。意識が違うところに向いていた時に塔に入ったのだろうか。しかし、いつもの叫び声や悲鳴が聞こえない。

そして、勇者を連れてこいっというあの声と先ほどの勇者アシュレイのような子供を思い出す。


「……まさか、ね」


ケニーはそう呟いて塔の中に入る為の扉に手をかける。そしていつもは誰かが入っていれば固く閉じられているその扉が簡単に開き、中を覗くと報告にない螺旋状の階段が現れていた。

それが、あの外套の男が教会で確認された勇者の加護を持った男であることが容易に考えられた。其方の方が可能性的に高いからだ。


「おーい、ケニー交代の時間……」


タイミングよく交代の時間で同僚であるミケがやってきた。ケニーはその呑気にやってくる同僚に興奮気味に早口に話し出す。


「勇者の加護を持った男が今挑戦している!外套の男だ!間違っても女三人に囲まれた男だと思うなよ!?」
「は?何言って……扉が……っ!?」
「ほ、報告してくる!!」
「早く行け!ここは見ておく!」


二人はすぐに行動に出た。しかし、もう既に勇者はそこから消え、数秒も経たずに扉から飛び出して来たバカな冒険者たちにとんちんかんな話を聞かされることになるとは思いもしないのである。
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