マイペース元勇者の2度目の人生。

紫鶴

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23、元勇者、教会に向かう

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はっと目が覚めると天井が見えた。ばっとベッドから飛び起きて部屋を出ると、ご飯の良い匂いがする。出遅れた!
アシュレイはそう思い階下に降りてリビングに向かうとフライパン片手にレイチェルが目玉焼きを皿に移している。


「レイチェル!」
「あ、おはようアーシュ。もう少しでご飯できるから待ってね」
「俺がやるよ。いつも俺がやってたでしょ」
「いーの!今度は僕の番だから!」


アシュレイはでもっと食い下がるが、にこっと笑顔で黙殺され、コップやフォークを出すぐらいしかできない。今度は早く起きようとアシュレイはそう決めて大人しく席につく。それからご飯を作るレイチェルを見る。後ろ姿で、アシュレイが使っていたエプロンを身に着けている。この子が結婚相手かあっとアシュレイはふとそう思ってかっと顔を赤くさせた。心臓がバクバクとうるさい。アシュレイはがんっと机に額をくっ付けた。


「アーシュ!?どうしたのっ!?」
「し、心臓が痛い……」
「え!?」
「ドキドキしすぎて死にそう……」
「っ!」


アシュレイは今、今までにないほど緊張と嬉しさに軽くパニック状態である。レイチェルはそんなアシュレイに一瞬手を止めて同じように顔を赤くさせる。

この浮かれ気分の自分を落ち着かせるためにすーはーっとアシュレイは深呼吸をして、昨日の魔神の言葉を思い出した。そして一気に冷静になる。


「ねえ、レイチェル」
「え、な、なに?」
「どうしてあんな如何にも怪しそうなやつ信じたの?」


そしてやはりこの疑問が尽きない。いくらレイチェルが世間知らずで、いくら煽られようとアシュレイは確固たる意志を持った少年であり、仮にもアシュレイと対峙していたあいつをどうして信じたのだろうか。

アシュレイは素直にそう聞いた。レイチェルはえ?っと首を傾げた。


「だってアーシュが転生するって知ってたんだもん」
「あー、そう言えばそんなことも……レイチェルが手紙見せたんだっけ?」
「んーん。最初から」
「は?」


レイチェルがそう言って、焼けたパンとサラダ、目玉焼きをワンプレートに乗せたそれを持ってくる。アシュレイはレイチェルの答えに思わずそんな声を出す。

そうであれば、全く話は違くなる。

いや、勝手にレイチェルが教えたものとばかり思っていたアシュレイもアシュレイだ。
元々頭を使う方ではないのは自覚しているがそんな初歩的なミスをするとは思わない。

はーっと息を吐いて己の未熟さを痛感すると、レイチェルがどうしたの?と声をかけて水をコップに入れてくれる。


「んー。まあ、今はいいか。朝食ありがとう。いただきまーす」
「うん。いただきまーす」


もぐもぐと食パンに目玉焼きを乗せたそれを頬張り、スープをすする。美味しい。

アシュレイはそれを食べながら、他にも疑問がわく。レイチェルの成長具合から見ると10年ほどは経っているはずだ。それなのに、誰一人としてここに挑戦するものがいないというのもおかしい。放置するべきではないと国は思っているはずだ。それなりの時間があったのに、今この場は喧噪一つ聞こえない。

アシュレイはふむ、と考え込み、レイチェルに聞いても分からないだろうと確信して、早めに食事を終わらせる。


「ご馳走様」
「ん!?どこ行くのアーシュ!?」
「教会」
「なんで!」
「なんで?聞きたいことあるから」
「……ふぅん?」


アシュレイがそう言うと、レイチェルは面白くなさそうにそう呟く。アシュレイはそのレイチェルの反応に首を傾げつつ食器を下げて洗う。


「アーシュ」
「何?」
「裸足で行くの?」
「あ……」


そこでアシュレイは今でも裸足だということに気が付いた。


「まあ、裸足でも大丈夫だし」
「だめ!靴買いに行こう!」
「ええー……」


今はそんなことしてる場合ではないような。アシュレイは空気読めないとよく言われるがそこはちゃんとわかっていた。レイチェルはそんなアシュレイの気持ちに気付かずにそう言えば服も買ってあげないと!レイチェルがにこにこでそんなことを言う。

アシュレイは苦笑して要らないっと首を振るがレイチェルには聞こえないようだ。


「ストレージ、オン。暫くは僕のおさがりでいいかな?入る?」
「……」


レイチェルがそう言ってアシュレイが買ったレイチェルの服を出す。その魔術はアシュレイが使えていたものだ。勇者の加護によるもので、それを聞くとやはりレイチェルには勇者の加護があるんだろうと実感する。そして、アシュレイの一つの仮説が立てられた。やはり一度教会に行かないとどうにも確信が持てないと改めてそう考えながら、まだそんなものを持っていたのかと苦笑する。そう思いながらもアシュレイは、ありがとうっとお礼を言ってそれらに着替えるために今着ているワンピースを脱ぐ。レイチェルは驚いて慌てて後ろを見る。


「ア、アーシュ!僕の目の前で脱がないでよ!」
「え、ええ?」


アシュレイはわけわからんっと思いながら服に着替える。今の自分がいくつなのか分からないが、若干大きい。前は俺の方が大きかったのにっと若干悔しく思いながらアシュレイはレイチェルを見た。


「レイチェル、靴は?」
「要らないでしょ?僕が抱えるんだもん」
「え?」
「はい抱っこ」
「いや、靴……」
「抱っこ」


頑なにレイチェルが手を広げてそういうのでアシュレイは渋々彼に近づいて抱っこされる。アシュレイをひょいっと抱えたレイチェルは外套を羽織りフードで顔を隠す。

アシュレイが俺にはしなくていいのかというと、ああそうだねっとレイチェルはキャップをアシュレイに被せる。それからやぼったい黒縁眼鏡をかけさせた。


「可愛い~」
「それはレイチェルだけだと思う」


ハートが飛びそうな勢いでアシュレイをそう褒めた後に頬ずりをレイチェルはアシュレイにする。アシュレイは、ははっと乾いた笑みを浮かべながらレイチェルと一緒に転移をして近くの町に向かった。

その町というのはアシュレイとレイチェルが出会ったところだ。街並みも大して変わっていないようでレイチェルは迷うことなく服屋に向かおうとしてぴたりと歩みを止める。そして冷ややかに何かを見ていた。

そこには三人の男がいた。どこか誰かの面影のある顔立ちだ。見たことがある。じいっとアシュレイもその三人を見つめているとふいっとレイチェルが顔をそらし、今度こそ服屋に向かう。


「レイ……」
「何?あ、服屋の前に教会に行く?」
「いや、あの子たち……」
「知らない人だよ?」


レイチェルはそう言い切った。アシュレイは食い下がろうとしたが、レイチェルがひどく冷め切った表情であったので口を閉じる。

レイチェルは三人の男が言った方向とは真逆を歩き始め、先に教会に行こうかっと声を出した。

アシュレイはこくんと頷き、彼の嫌がることは極力避けるとする。その為、記憶を探ることはしなかった。

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