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8、町デビュー 靴屋さん編
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町は活気づいていた。そう、初めてここに来た時とはまるで違う。屋台は並び、店は開店していて人が行きかっている。
アシュレイは思わず、おう、っと声が出た。間違えてワープを使い他の町に行ってしまったんじゃないかと思うほど。
レイチェルも沢山の人に怯えているのかぎゅうっとアシュレイに縋りつく。アシュレイはそんなレイチェルの背をポンポンっと叩きながらきょろきょろと周りを見渡した。
「さあて、靴屋さんはどこかなぁ。レイチェル。靴の絵があるお店見つけたら教えてねー」
「うん!お靴の絵……」
この国は識字率が大して発展していないので絵だけでどんな店なのかが分かる。レイチェルも絵は分かるようで一生懸命探している。アシュレイも一緒になってその絵を探すしていると、角から子供が飛び出してきた。
「おわっ!」
「―――っと」
アシュレイは避けると子供が怪我をすると思い、レイチェルを片手に抱えながらその子供を受け止める。子供はばっと顔をあげてそれからうおっと声を出し、顔を青くする。
「あ、あの、すみません……」
「いいえ。怪我無かった?」
「う、うん……。あ、はい」
「あはは、無理に敬語使わなくてもいいよ。ただここら辺は人通り多いから気を付けてね」
アシュレイはそう言ってそっと子供の頭をなでて離れた。その様子をぽかんとして子供たちは見ていた。
アシュレイはレイチェルを抱えながら暫く歩いていると、「あ!」っとレイチェルが声をあげた。
「アーシュ!お靴!」
「ん?おお!レイチェルすごい!」
レイチェルが指さしたところに靴の看板が見えた。レイチェルはえへへっと嬉しそうに笑う。アシュレイはそんなレイチェルに頬ずりをしながら靴屋の扉を開けた。
からんっとベルが鳴った。
「いらっしゃ……」
一瞬、店主の男が驚きに顔を見開き途中で言葉を止める。アシュレイはその事に気にすることなく、その店主のところに歩いていく。
店主は一瞬びくりと委縮する。
「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件で……?」
「この子のブーツが欲しいんです。お金はいくらかかってもいいので丈夫で軽くて履きやすいものを一つ作ってほしいのですが……」
「え、ええっと、坊ちゃんの靴ですか?」
「そうです」
店主はひきつり気味な笑顔を見せながらそう言った。アシュレイはこくこくと頷いた。
「えー、じゃあ坊ちゃんの足のサイズを測らせてもらっても?」
「レイチェル。サイズ測ってもらっていい?」
「……ん」
レイチェルがこくんと頷いて、アシュレイは椅子にレイチェルを座らせる。店主はサイズを測るメジャーをとってレイチェルの靴を測る。
アシュレイはその様子を見つつ、そう言えばっとストレージ内の素材を確認する。
一番いい素材のものといえば、ドラゴン関係だろうか。
ふむ、っと画面を見つめながらぽんぽんドラゴンの皮を出していく。サイズを測っていた店主がぎょっとしながらこちらを見ているのに気づかずに、あれ?靴の皮ってどれくらい出せばいいんだ?と適当にバカすか取り出す。しかも靴は皮だけじゃ作れないっと気づいて糸も出す。それもポイズンスパイダーという蜘蛛の糸で作られたものだ。
他にも装飾が欲しいなぁっとアシュレイが他にも出そうとした時、「待て待て待てっ!?」っと店主が焦ってアシュレイを止める。アシュレイはえ?っとぽかんとした。それからはっとする。
「もしかして要らなかったですか?」
「いや、どこから出して、それよりも、これまさかドラゴン……?」
「はいそうです。加工できますか?」
「で、できますが、えっと、俺、じゃない、私のところでいいんですか?」
「……?他の靴屋さんを知らないんですけど、もしかして加工が難しいですか?じゃあ、既製品を……」
「そう言うわけじゃねえ!そういうわけじゃねえが……」
「じゃあお願いします。レイチェルと初めてこの街で見つけた靴屋さんなので」
「初めて?」
アシュレイがそう言うと、店主が首を傾げる。アシュレイも同じように首を傾げて、まだ足りないのか?っとそっとドラゴンの皮を取り出す。
「いや、もういい!素材はもう要らねえ!それより、もしかして、貴族じゃないのか?」
「貴族ではないですね」
アシュレイは嘘は言っていない。アシュレイは王子だから正確に言うと王族である。嘘は言っていない。
ただ、アシュレイの返答に心底ほっとしたのか店主がそうだったのかーっと胸をなでおろした。
「あんた見たことないし、綺麗な顔してるからてっきりお貴族様かと思ったぜ。最近来たばっかなのか?どのあたりに住んでるんだ?」
「はい、最近来たばかりで南区外に住んでます」
「は!?南区外!?確かにあそこは安い物件だが、買っちまったのか?兄ちゃん」
「え、ああいや、賃貸です。この子と一緒に住んでて」
「そうか、あそこには変な奴いるから気をつけろよ」
「変な奴?」
測り終わったらしいレイチェルを抱えたアシュレイは首を傾げて店主を見る。店主は腕を組んで神妙な顔をする。
「あそこの場所に住んでるやつ結構な頻度で変わってるんだけどな、昼間っから酒飲むわ、女癖は悪いわ、怒鳴り散らすわと変な奴がよく来るんだよ」
「へー」
「だから気をつけろよ、兄ちゃん」
「はい、あ、俺はアシュレイです。こっちはレイチェル。またどこかでお世話になるかもしれないでのこれからもよろしくお願いします」
「おう、俺はガイドだ。よろしくな」
店主、ガイドはそう言った。アシュレイはペコっと頭を下げる。それから自分の家の近くはほとんど更地だったような、と思いながらその変な人にはレイチェルに近づけさせないようにしようと思う。
皮と糸を置いて、お出かけ用のローファーをレイチェルに買って、それを履いたレイチェルと一緒にアシュレイはその店を後にした。
「靴は一週間後に出来るって」
「これだけでいいよ?」
「金はあるから大丈夫!今度は服だレイチェル。お洋服の絵の看板見つけよ」
「……」
手を繋いで歩いていたレイチェルがぴたりっとまる。アシュレイは止まったレイチェルを見て彼の方に近寄り、座り込んだ。
「レイチェル、どうしたの?」
「……お洋服とか要らない」
「どうして?」
「アーシュのお仕事増えちゃうから」
「俺の?増えないよ?」
アシュレイは疑問に思いつつも即答した。するとレイチェルが本当?というようにじいっと見つめてくる。
「うん、だから服買お?俺、レイチェルの服選びたいなー」
「……うん」
ぎゅっと手を握り締めたレイチェルがふわっと笑った。それにアシュレイも笑いかけながら今度は服屋を探した。
アシュレイは思わず、おう、っと声が出た。間違えてワープを使い他の町に行ってしまったんじゃないかと思うほど。
レイチェルも沢山の人に怯えているのかぎゅうっとアシュレイに縋りつく。アシュレイはそんなレイチェルの背をポンポンっと叩きながらきょろきょろと周りを見渡した。
「さあて、靴屋さんはどこかなぁ。レイチェル。靴の絵があるお店見つけたら教えてねー」
「うん!お靴の絵……」
この国は識字率が大して発展していないので絵だけでどんな店なのかが分かる。レイチェルも絵は分かるようで一生懸命探している。アシュレイも一緒になってその絵を探すしていると、角から子供が飛び出してきた。
「おわっ!」
「―――っと」
アシュレイは避けると子供が怪我をすると思い、レイチェルを片手に抱えながらその子供を受け止める。子供はばっと顔をあげてそれからうおっと声を出し、顔を青くする。
「あ、あの、すみません……」
「いいえ。怪我無かった?」
「う、うん……。あ、はい」
「あはは、無理に敬語使わなくてもいいよ。ただここら辺は人通り多いから気を付けてね」
アシュレイはそう言ってそっと子供の頭をなでて離れた。その様子をぽかんとして子供たちは見ていた。
アシュレイはレイチェルを抱えながら暫く歩いていると、「あ!」っとレイチェルが声をあげた。
「アーシュ!お靴!」
「ん?おお!レイチェルすごい!」
レイチェルが指さしたところに靴の看板が見えた。レイチェルはえへへっと嬉しそうに笑う。アシュレイはそんなレイチェルに頬ずりをしながら靴屋の扉を開けた。
からんっとベルが鳴った。
「いらっしゃ……」
一瞬、店主の男が驚きに顔を見開き途中で言葉を止める。アシュレイはその事に気にすることなく、その店主のところに歩いていく。
店主は一瞬びくりと委縮する。
「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件で……?」
「この子のブーツが欲しいんです。お金はいくらかかってもいいので丈夫で軽くて履きやすいものを一つ作ってほしいのですが……」
「え、ええっと、坊ちゃんの靴ですか?」
「そうです」
店主はひきつり気味な笑顔を見せながらそう言った。アシュレイはこくこくと頷いた。
「えー、じゃあ坊ちゃんの足のサイズを測らせてもらっても?」
「レイチェル。サイズ測ってもらっていい?」
「……ん」
レイチェルがこくんと頷いて、アシュレイは椅子にレイチェルを座らせる。店主はサイズを測るメジャーをとってレイチェルの靴を測る。
アシュレイはその様子を見つつ、そう言えばっとストレージ内の素材を確認する。
一番いい素材のものといえば、ドラゴン関係だろうか。
ふむ、っと画面を見つめながらぽんぽんドラゴンの皮を出していく。サイズを測っていた店主がぎょっとしながらこちらを見ているのに気づかずに、あれ?靴の皮ってどれくらい出せばいいんだ?と適当にバカすか取り出す。しかも靴は皮だけじゃ作れないっと気づいて糸も出す。それもポイズンスパイダーという蜘蛛の糸で作られたものだ。
他にも装飾が欲しいなぁっとアシュレイが他にも出そうとした時、「待て待て待てっ!?」っと店主が焦ってアシュレイを止める。アシュレイはえ?っとぽかんとした。それからはっとする。
「もしかして要らなかったですか?」
「いや、どこから出して、それよりも、これまさかドラゴン……?」
「はいそうです。加工できますか?」
「で、できますが、えっと、俺、じゃない、私のところでいいんですか?」
「……?他の靴屋さんを知らないんですけど、もしかして加工が難しいですか?じゃあ、既製品を……」
「そう言うわけじゃねえ!そういうわけじゃねえが……」
「じゃあお願いします。レイチェルと初めてこの街で見つけた靴屋さんなので」
「初めて?」
アシュレイがそう言うと、店主が首を傾げる。アシュレイも同じように首を傾げて、まだ足りないのか?っとそっとドラゴンの皮を取り出す。
「いや、もういい!素材はもう要らねえ!それより、もしかして、貴族じゃないのか?」
「貴族ではないですね」
アシュレイは嘘は言っていない。アシュレイは王子だから正確に言うと王族である。嘘は言っていない。
ただ、アシュレイの返答に心底ほっとしたのか店主がそうだったのかーっと胸をなでおろした。
「あんた見たことないし、綺麗な顔してるからてっきりお貴族様かと思ったぜ。最近来たばっかなのか?どのあたりに住んでるんだ?」
「はい、最近来たばかりで南区外に住んでます」
「は!?南区外!?確かにあそこは安い物件だが、買っちまったのか?兄ちゃん」
「え、ああいや、賃貸です。この子と一緒に住んでて」
「そうか、あそこには変な奴いるから気をつけろよ」
「変な奴?」
測り終わったらしいレイチェルを抱えたアシュレイは首を傾げて店主を見る。店主は腕を組んで神妙な顔をする。
「あそこの場所に住んでるやつ結構な頻度で変わってるんだけどな、昼間っから酒飲むわ、女癖は悪いわ、怒鳴り散らすわと変な奴がよく来るんだよ」
「へー」
「だから気をつけろよ、兄ちゃん」
「はい、あ、俺はアシュレイです。こっちはレイチェル。またどこかでお世話になるかもしれないでのこれからもよろしくお願いします」
「おう、俺はガイドだ。よろしくな」
店主、ガイドはそう言った。アシュレイはペコっと頭を下げる。それから自分の家の近くはほとんど更地だったような、と思いながらその変な人にはレイチェルに近づけさせないようにしようと思う。
皮と糸を置いて、お出かけ用のローファーをレイチェルに買って、それを履いたレイチェルと一緒にアシュレイはその店を後にした。
「靴は一週間後に出来るって」
「これだけでいいよ?」
「金はあるから大丈夫!今度は服だレイチェル。お洋服の絵の看板見つけよ」
「……」
手を繋いで歩いていたレイチェルがぴたりっとまる。アシュレイは止まったレイチェルを見て彼の方に近寄り、座り込んだ。
「レイチェル、どうしたの?」
「……お洋服とか要らない」
「どうして?」
「アーシュのお仕事増えちゃうから」
「俺の?増えないよ?」
アシュレイは疑問に思いつつも即答した。するとレイチェルが本当?というようにじいっと見つめてくる。
「うん、だから服買お?俺、レイチェルの服選びたいなー」
「……うん」
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