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最終章 断罪された神子様は、前世養父だった冷徹公子に溺愛される。

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 朝、目が覚めると猊下が俺の隣にいた。いつもはきっちり服を着て優雅に新聞紙を読んでいるのに今日は違うようだ。

 しかも、俺の方が早起きだった!

 猊下は瞼を閉じて、小さく寝息を立てている。まつげが長い、寝てても美しすぎるなんて罪作りな人だ。

 前までは、こんな近くで彼の顔を見ることは出来なかったのでまじまじと観察していると、ふっと笑い声が聞こえた。


「! あ、ごめんなさい! 起こしちゃった?」
「いいや、今起きたところだ。おはようルド」
 猊下はそう言って目を開けると軽くキスをする。こ、これが俗に言うおはようのキッス!!
 BL小説みたいだと感動しながらも、俺も自分から猊下にキスをした。
「えへへ、おはよう」
「……ああ」


 嬉しすぎて常に顔がにやける。ずっと夢の中にいるようだ。いかんいかん。俺にはまだやるべき事があるんだった。


「よし、フレイとレオにコンタクトを取らないと!」
「ああ、すでに書簡を送っている。そろそろ返事が来るだろう」
「い、いつの間に……?」


 昨日のうちに終わらせたって事だけど、それってつまり俺が寝ちゃった後に猊下は仕事をしていたということですか?

 申し訳ない気持ちとありがたい気持ちがせめぎ合う。


「ありがとう、お兄ちゃん。でもこれは俺の問題で……」
「お前の問題は私の問題でもある。だから一緒に解決しよう」
「! はい!」


 そうだった。もうこれは俺の問題じゃない。

 俺は猊下と結婚して幸せになるんだ。そして俺が猊下を幸せにするんだ!

 金の神子時代の俺に、出来なかったことをしてあげたい。


「すぐ終わる。その後はゆっくりしよう」
「え、あ、頑張る!!」


 猊下はなんて事ない些細なことだと言わんばかりの態度だ。これが大人の余裕何だろうな。俺はこれから二人とであってどうなるか分からないから心臓がバクバクだよ。

 ひとまず着替えと朝ご飯を食べた。それから猊下は、コイヨンから二通の手紙を貰い俺の方を見る。


「二人から承諾の手紙が来た。出かけよう」
「う、うん」


 昨日の今日で本当に?

 もう片方は王族だよ?これから皇太子になる人間だし、こんな簡単に会えるものなんですか……?

 こ、これも、猊下の手腕ということ……?

 俺は非常に困惑しながらも、問題は早めに解決した方が良いと意気込んで猊下の手をしっかりと握り、その待ち合わせの場所に向かった。

***

 貴族御用達の個室レストランだ。密会にちょうど良い場所である。猊下と二人でその約束の場所の扉の前に立つ。非常に緊張してきた。

 こ、ここにフレイとレオがいるんだ。落ち着け。俺とは顔を合わせるだけで良い。髪色も瞳も金色に戻してよし、深呼吸だ。

「入って良いか?」
「ちょ、ちょっと待って!」


 そのまま猊下が入ろうとするので俺は慌てて彼を止めた。

 もしかしたら前世のことを思い返せばフレイに飛びかかられる危険性があるので猊下、とついでに俺に念入りに魔法をかけておいた。これで初手は絶対に防げる。不意打ちでなければ大丈夫だ。最悪、猊下だけでも生き残れば……。


「ルド」
「はい」
「代わりはいるから大丈夫。それから、私は全てから逃げ切れる自信がある」
「……? そ、そうなんですね?」


 猊下が脈絡もない事を言い出して俺は首を傾げながらそう言った。すると猊下はそっと俺の頬を撫でる。


「ああ、だから安心して良い」
「あ……。うん、ありがとう」


 俺が保護魔法を何重にもかけたから猊下が心配して話をしたのだと気付いた。俺はその心遣いにじぃんと胸が熱くなり、ふわりと笑みを浮かべる。

 弱気になったらだめだ!俺も生き残るんだ!主人公なんだもの、きっと分かってくれる。大体にして、まだ俺は罪を犯していないんだし!

 よしっと気合いを入れて俺は猊下に向かって頷いた。猊下はそれに軽く応えるように目を合わせ、それからドアノブに手をかけて扉を開けた。

 そこには二人がけのソファに並んで座っている二人の男がいる。レオとフレイだ。本当に来ていた。
 目が合った瞬間、何が起こるか分からないので警戒していると、俺たちに気付いた彼らは揃って床に膝をつき額を地面にこすりつけた。


「このたびは、私の弟子が大変申し訳ありませんでした!!」
「申し訳ありませんでした!!」
「……え?」


 二人は大きな声で何故か俺たちに謝罪を口にしたのだった。
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