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第五章 金の神子様はジョブチェンジ

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 ここ数日で、俺は感じ取った。

 猊下、思いのほか俺のことを愛している気がすると!!俺は、猊下に多大な愛を貰っていると!!

 この問題はとてもデリケートだ。普通であれば両思いお付き合いハッピーエンドなのだが、なんせ俺はこれから死ぬ身。そんな無責任なことは出来ない。

 無責任なことは出来ない、のに……っ!


「ルド、おはよう。今日は何をするんだ?」
「きょ、今日はお散歩」
「分かった、じゃあ私も一緒に行こう」
「うん」


 そうして猊下は自然に俺の手を取りエスコート。前々から猊下スキンシップ多いな~とは思っていたがそれに拍車が掛かり俺の心臓は持たない。

 これが惚れた弱みというものらしく俺は猊下の全てに従順になってしまう……。

 こんな思わせぶりな態度をとるなんて最低だ。これが男を手玉にとる悪女って奴か!? 

 自分の優柔不断な態度に俺はいやになる。

 そうして今日も俺は猊下に甘やかされながら一日を過ごしてしまうのだ。

 このままではいけない。

 俺は自分を奮い立たせて、原点回帰という名の自分のたどるべきだった道を思い出す。そう、俺が猊下に連れてこられたあの日のことだ。

 あのときは色々とやるべき事があったはずなのに半分も出来ていない。そもそも猊下に拾われてしまった時点でなせないものばかりだからそれは仕方ないと思うべきか……。


「そういえば、猊下って俺と出会う前に誰かを亡くしてるんだよね……?」


 本人から直接聞いたわけでは無いが、あの風呂場の事件で何となくそんな事情を察した気がする。

 あ、あれ?も、もしかして俺、今その人の代わりだったり……?

 思えば最初から猊下はとても親切で優しかった。その理由を俺は未だに明確に知らない。というか、そうだ。その人の代わりで俺は今ここにいるんじゃないかって最初思っていたのにいつの間にか自分の家のようにくつろいでいた気がする。

 さーっと俺は血の気が引いた。今更ながらに自分の不安定な立ち位置を思い知らされた。無意識に今まで目を背けていた出来事だったからかもしれない。

 それならば、本当に猊下と俺は両思いと言えるのだろうか?


「あ、俺ってば凄い勘違いを……」


 その瞬間、自分でも気付かないうちに目から涙が流れていた。おかしな話だ。先ほどまであんなに頭を悩ませ、猊下に好かれて困るなんて思っていたのに、本当は違うから傷ついたなんて笑い草だ。


「……よし! ならやっぱり、死んだ方が良い」


 代わりなら、きっと死んでも大丈夫だろう。猊下の心の中にはもうとっくに決めた人物がいるのだから。
 なら俺は、その日まで代わりを勤めるだけである。


「頑張るぞー、おー!」


 涙を拭い、俺は気合いを入れる。ひとまず、俺は猊下と別の部屋にしたいとコイヨンに言うと彼はすぐさま別の部屋を用意してくれた。突然こんなことを言い出した俺に何も聞かずに準備してくれるなんて本当に頼りになる。

 流石にこんな気持ちで猊下の傍にいるのは申し訳ないので、物理的に離れることにした。今日は猊下に用事が出来て良かった。お陰で時間に余裕がある。


「よし、クズがどうなっているか見に行くか」


 勘違いクズ男は、やはりあのときからレオの事を嗅ぎ回っている。まだ学生という身分ではあるが、貴族なので金と権力があるのだ。こっちでも色々手を回しているとはいえ、レオが今、どんな状況なのかぐらいは把握しているはず。

 それなのに、ゴミという名の手紙ばかり贈りつけるクズ。もっとレオを困らせようと躍起になっているクズ。許すまじ。

 今そのジューノが何をしているのかを確認する為、適当な鏡を手にして外の映像を映す。

 ん……?

 学生のはずなのに、周りが学校の風景じゃない。どこかの酒場……かな?なんか、人相悪そうな人たちがいっぱいいるけど……。

 まさか、こいつレオを困らせるための策を……!?

 ばっと俺は、すぐに音も出るようにする。


『ふーん? 金髪の男を殺せって?』
『ああそうだ』
「何だ俺のことか」


 音声を出した瞬間、レオの邪魔ではなく俺の暗殺を依頼していたことに心底安心した。

 情報ギルドじゃなくて暗殺ギルドかぁ。でもまさか、あの子が俺を暗殺しようだなんて思っているとは……。

 前世もよくあったことだが、俺は割と命を狙われていたのである。まあ、神子なんて立ち位置からすれば当たり前だろう。今世はそんなことは起こっていなかったが、ジューノと会ってしまえばそうなるのも仕方ない。なんせあっちは前世持ち。俺が金の神子だと確信しているのである。

 原作は、別の貴族になりすましているため姿でばれるなんて事はなかったがこれはこれで早めにクズを始末できるチャンス。

 とりあえず、いつどこで俺を殺すつもりなのか確認しようとしたとき、鏡からどがんっと激しい音が聞こえた。


「アルカルド様、ご無事ですか!?」
「あ、違う違う!!」


 その音に釣られて外で待機していたフラウとジエンが扉を開けて中に入ってきた。声をかけるフラウと、警戒して剣を抜くジエン。俺はその二人に、この鏡からの音だと身振りで伝えると彼は、同じようにそれをのぞき込んだ。そして、さっと顔色を変える。

 二人の表情に、何かあったのだろうかと俺も鏡をのぞき込んで固まった。


「え、なん……?」
「見てはいけません!!」
「申し訳ありません!!」


 俺の目を隠すフレイと速攻で鏡をたたき割るジエン。二人の連携に驚きながらも、俺は身じろぎをしてフラウの拘束から逃れる。

 一瞬だったが確かに見た。彼らと対峙する猊下の姿を。

 どうしてそんなところに猊下がいるのか不明だが、助けにいかなければ。殺しに特化した人間達に、一応腕の立つ騎士もいるのだ。猊下一人では分が悪い!


「あ! お、お待ちくださいアルカルド様!!」
「今他の者が向かいます!! ええ、大丈夫ですから貴方自らいく必要は……っ!!」
「俺の方が早い!!」

 油断していた!まさか猊下がそんな危ないところに行っているなんて思いもしなかった!

 俺はジエンとフラウの制止を振り切って、すぐさまその場所に転移した。どおんっともう一度ひときわ大きな音と共に地面が揺れる。

 どうやら俺は焦りすぎて、ギルドの入り口の酒場に飛んでしまったようだ。この騒ぎで火が上がってしまったようで炎に包まれている。俺は煙を吸わないように服の裾を口で覆いながら奥に進む。
半壊している扉を見つけると下の方に階段が続いていた。中も炎が上がっていて、俺はその熱気に当てられ、一瞬怯んだ。

 熱い。けれど、まだ中に猊下がいるかもしれない!!

 自身を奮い立たせて一歩踏み出す。すると、びちゃりと水が跳ねたような音がした。


「あ……」


 足下を見れば血だまりと、ぐったりとした人……いや、死体があった。うっとその光景に口を押さえてしまう。

 こんな惨状を目にするのはあのとき以来だ。

 俺が死んだあのとき。
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