上 下
60 / 75
第五章 金の神子様はジョブチェンジ

しおりを挟む
 さて、何をしようにも可哀想な子を探すのが最善だ。それが子供だったら尚よし。前世の経験を頼りにすれば楽勝だ。

 俺はそんなことを考えながらひとまずこの国全土でそういう人物を探す。そして気がついた。

 この国平和でそういう子いないんだが……っ!?

 災害、飢饉もなく、幸せに暮らしている世界。人身売買、なんかの実験施設とかは全く無い。神子時代が相当酷かったと考えるべきか……。

 これでは信者が集まらない!!

 国ではなく、世界に目を向けようと範囲を広げようとしたとき、「離して下さい!!」と悲鳴が聞こえた。

 誰かの助けを呼ぶ声がする!!


「ちょっといってくる!!」
「どちらに……っ!!」


 行き先を告げないまま俺は二人の前から消えた。外套で身を隠し、その声の場所に現れると学院の制服を着た男と、そうでない男の二人が何か揉めている。こんな薄暗い路地で学生らしき男が嫌がっている男を壁に押しつけた。


「そんなこと言わないで下さい。私達は前世から結ばれているのに……っ!」
「何を言ってるんですか! 知りません! 離して、離して下さい!!」
「せいや!!」


 無理矢理顔を近づけてキスをしようとしていた。嫌がる相手にだめ絶対!!後頭部を思いっきりぶん殴って昏倒させる。地面に適当に転がしてついでに転がしておいた。

 ふんっと鼻を鳴らして最後に蹴って、俺は嫌がっていた男の方を見る。


「大丈夫?」
「は、はい……」
「そう、じゃあ俺に感謝してる?」
「! 勿論です!」


 ふむふむ、やはりこの手段が一番だな!俺はにいっと笑みを浮かべてそれからきゅっと彼の手を握る。


「リィン教をよろしくお願いします!!」
「リィン教……ですか?」
「そうです! リィン教を信じれば救われます! リィン教を信仰し……っ!」


 そこで俺は改めてその生徒を見た。柔らかい緑色の髪の男の子。俺は彼の姿をよく目にした事がある。

 れ、れ、れお!?なんでこんなところにいるんだ!?いや待て、てことはもしかしてこの足蹴にしてる子って……っ!?

 ばっと足下を見て伸びている男を見てあちゃあっと頭を抱える。先ほどまで何となく思い出していた男、ジューノだ。なんでやねん!!なんでこんなところで迫ってるんだよお前!!まだ学生時代は何もしないはずだよなお前!?

 というか、接点がないはず!!俺が変えちゃったから!?それは申し訳ない!


「と、とりあえず逃げよう!!」
「あ、は、はい! 天使様!!」


 天使様!なんだか久しぶりにその言葉を聞いた気がする。何だっけ?まあ今はこの主人公君を遠くの安全なところに避難させなければ!!

 主人公君の手を握り、俺達は別の所に移動した。今の主人公君は家門立ち直しのために色々頑張っているのだ。そんなときに邪魔するジューノは本当にどうしようもない。


「ここまでくれば良いか……」
「あ、あの、天使様……」
「俺は天使ではありません。リィン教を布教し、迷える子羊を導く神官なのです!!」


 はじめのインパクトが大事だろう。俺はポーズを決めて、とりあえず記憶に残るように努力した。少しでも興味を示してくれるのが大事だ。これから徐々に徐々に落としていけば……。


「はい、天使様。私はリィン教の信者になります」
「……なるの?」
「はい」


 う、そ、だ、ろ!?ちょっとこの主人公もチョロすぎない!?俺は何もかも心配!!だってどっからどう見ても怪しいのに何でそんなすぐうなずけるんだ!?俺だったら何言ってんだこいつと思うけど!?


「そ、そう、じゃ、俺はこれで……」
「! 天使様お待ちください!」
「え?」


 俺は主人公君に腕を捕まれて足を止めた。どうしたんだろうと俺は彼を見つめると彼は真剣な表情で俺を見つめていた。


「また、会えますか?」
「あー、うん。会えるよ」


 主人公君を虐めるのが俺だからね。嫌がっても俺たちは出会う運命なのさ。えーっと、確か今度のパーティーで正式にフレイが皇太子に任命されるからそこで会える。

 今までは情報規制やらでその情報が広がっておらず、ライをもう一度皇太子にしようと躍起になっていた第一王子派がいた。王様も第一王子の方を可愛がっていたようで(原作でもそう書かれていた)出来ればライに引き継いで欲しいと思い延ばし延ばしで今日まで遅らせていた。

 しかし、ライの頑なな態度に折れて任命式兼舞踏会が開かれるのである。

 そうかー、そろそろ原作が始まる時期か。俺も色々準備をしなければいけないな!!色々計画は狂っているけど、俺がレオを虐めて最終的にフレイとくっつけば良いんだ!

 よーし、悪役神子改め、ラスボス!頑張ってさくっと二人に殺されるぞ~!

 主人公君とはそこで別れて俺はさっさと屋敷に戻ろうとした。見つからないように路地裏の奥で発動しようとして「待て」っと声がした。

 何となく俺に声をかけたような気がしたのでくるりと振り返ると、そこにはジューノがいた。

 おお、一応俺の護衛騎士を務めていたからか復活が早い。レオと鉢合わせすることはなさそうだが、俺に一体何の用だろうか?


「何?」
「何、だと? 人を殴っておいてその態度は何だ!」
「嫌がる相手に無理矢理迫っていたくせに?」
「嫌がってない! あれは恥ずかしがってただけだ!!」


 妄想は健全だな。俺はふむっと頬に指を添える。どうすれば効果的に怖がらせることが出来るだろうかと考えていると、ジューノの手が伸びる。それを軽く躱そうとしてその前に俺の後ろから手が伸びた。


「い……っ!」
「この御方に気安く触れるな」
「だ、誰だ……っ!?」


 ジューノの手首を強く握ってひねあげる。俺は慌てて後ろにいる人物を確認した。

 ジエンだ。行き先も言わずに来たのによく見つけたな。


「ぐ、ぐあ……っ!」
「ちょ、ジエン手離してあげて!?」
「分かりました」


 ジューノが悲鳴を上げるので俺は慌ててそう言った。ジエンは不満そうにしながらも乱暴に手を離す。ジューノは捕まれて腫れた手首を押さえながらきっと俺を睨みつけた。


「自分で何も出来ない卑怯な奴め……っ!!」


 おお、久しぶりに聞いたなそれ。よくジューノが神子の俺に大して隠れて言っていた言葉だ。

 何も出来ないお飾り。卑しい孤児のくせにみたいなことだ。

 だからこそ、新たにやってきた心優しいレオに強く惹かれたのだろう。勘違いストーカーだ。


「……」
「ジエン待って」


 忠誠心が高いのか、俺が侮辱されてジエンが剣を抜こうとした。流石にそれはやり過ぎだ。そもそもジューノは俺が侯爵の養子である事も知らないし、今の俺はただの怪しい人だ。彼の妄想だけど、逢瀬を邪魔した悪者だからね。


「行こ」
「はい」
「ま、待て! 僕にこんなことしてただで済むと思ってるのか!? 必ず見つけ出してこの屈辱を晴らして……っ!」


 その時、ぶわりと強い風が吹いた。慌ててフードをかぶり直したが、少しだけ髪が見えたかもしれない。肩ぐらいまであった髪が今ではかなり伸びて胸あたりまである。慌ててかぶり直したけど見えたかも。

 ちらりと軽くジューノを見るとジューノは驚愕の表情から忌々しげに俺を睨みつけていた。


「金の悪魔……っ!!」


 あ、バッチリ髪色見られてた。

 面倒なことにならなければ良いけどと俺はひっそりとそんなことを思いつつ、レオではなく自分に対してヘイトが向けばそれはそれで良いかもしれないと思うことにした。

 あんまりレオにベタベタしないで欲しいよね。原作見ててもこの屑!近寄るな屑!!と罵倒していた。

 前世の時のように護衛騎士だったらまだ使い道はあったが、もう使えない屑なので俺は全力で君を潰すぜ!

 手始めに、プレゼント攻撃を阻止しよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら異世界で魔法使いだった。

いみじき
BL
ごく平凡な高校球児だったはずが、目がさめると異世界で銀髪碧眼の魔法使いになっていた。おまけに邪神を名乗る美青年ミクラエヴァに「主」と呼ばれ、恋人だったと迫られるが、何も覚えていない。果たして自分は何者なのか。 《書き下ろしつき同人誌販売中》

最終目標はのんびり暮らすことです。

海里
BL
学校帰りに暴走する車から義理の妹を庇った。 たぶん、オレは死んだのだろう。――死んだ、と思ったんだけど……ここどこ? 見慣れない場所で目覚めたオレは、ここがいわゆる『異世界』であることに気付いた。 だって、猫耳と尻尾がある女性がオレのことを覗き込んでいたから。 そしてここが義妹が遊んでいた乙女ゲームの世界だと理解するのに時間はかからなかった。 『どうか、シェリルを救って欲しい』 なんて言われたけれど、救うってどうすれば良いんだ? 悪役令嬢になる予定の姉を救い、いろいろな人たちと関わり愛し合されていく話……のつもり。 CPは従者×主人公です。 ※『悪役令嬢の弟は辺境地でのんびり暮らしたい』を再構成しました。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ

秋空花林
BL
「ヴィラトリア嬢、僕はこの場で君との婚約破棄を宣言する!」  ワタクシ、フラれてしまいました。  でも、これで良かったのです。  どのみち、結婚は無理でしたもの。  だってー。  実はワタクシ…男なんだわ。  だからオレは逃げ出した。  貴族令嬢の名を捨てて、1人の平民の男として生きると決めた。  なのにー。 「ずっと、君の事が好きだったんだ」  数年後。何故かオレは元婚約者に執着され、溺愛されていた…!?  この物語は、乙女ゲームの不憫な悪役令嬢(男)が元婚約者(もちろん男)に一途に追いかけられ、最後に幸せになる物語です。  幼少期からスタートするので、R 18まで長めです。

不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに

はぴねこ
BL
美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。 金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。 享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。 見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。 気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。 幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する! リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。 カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。 魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。 オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。 ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

余四郎さまの言うことにゃ

かずえ
BL
 太平の世。国を治める将軍家の、初代様の孫にあたる香山藩の藩主には四人の息子がいた。ある日、藩主の座を狙う弟とのやり取りに疲れた藩主、玉乃川時成は宣言する。「これ以上の種はいらぬ。梅千代と余四郎は男を娶れ」と。  これは、そんなこんなで藩主の四男、余四郎の許婚となった伊之助の物語。

もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。

処理中です...