上 下
54 / 75
第四章 恐らく、人違いかと。

3

しおりを挟む
 大事になった。大事になってしまった。流石に皇太子を強靱扱いさせるのは良くないと思い、誰でも俺が見えるようにはした。


 まあそれでもだ。突然帰ってきた皇太子、に抱えられている子供。そしてつくや否や医者を呼べと叫ぶ皇太子……。皇宮は大騒ぎで、俺は居心地悪く今皇宮医に手を診て貰っている。


「これはひどい……」
「治るよな!?」
「ええ、大丈夫ですが、時間が掛かります。こんな小さな体に魔法を使うのはリスクが……」
「あ、俺13歳なので大丈夫かと……」
「じゅう、さん……?」


 見た目よりもずっと大人である事を伝えるために年齢を話すと皇宮医は目をぱちくりさせてそう言った。俺はその言葉に深く頷く。


「今すぐ保護するべきです。こんな小さいからだで13歳? ありえません!! 精密検査を行う必要があります!!」
「せ、成長がただ人より遅いだけ何で大丈夫です!!」


 皇宮医がそう進言をするので俺は慌ててそう言った。確かに俺の体は未だに小さいが日々ちょっとずつ大きくなっているのだ。多分。今のところ支障が無いから放置してるだけだけどそういうことだから!!ね!!


「お前、家で虐待でもされてんのか?」
「されてないです!! 今の家族は俺を引き取ってくれた良い人だから誤解を招くような言葉はやめて欲しい!!」


 お人好し一家だぞ!!猊下の家族を悪く言う奴は許さん!!


 じろっと皇太子殿下を睨みつけると、じーっと暫く見つめ合い彼はそうかと言って視線をそらした。


「なら、引き取られる前って事か?」
「……過去のことは忘れました」
「この、髪と瞳のせいか?」
「え……」


 ……あ!俺そういえばこの髪と瞳の色を変えてない!!猊下と悪人を倒すことに注視しすぎて何もしてなかったわ!!あほすぎるー!!


 今更隠すのも変だと思い黙ったままで、ぷいっとそっぽを向く。


「金の悪魔……くだらねえ言い伝えだな」


 おいおい、その国の王子様がそんなこと言って良いのか?


「その人のせいで魔法が使えなかったんでしょ?」
「それが本当である事実はない。何の根拠もないだろ」


 あれか。言い伝えを信じないタイプか君。


 俺はそれ以上言っても無駄だと思いそーですかっと適当に返事をした。


 そうこうしているうちに処置は終わった。魔法を使ってすぐに治すのは身体に影響があるかもしれないので少しずつ治療していく必要があるらしい。その何日かの治療をする前に俺の手は元通りになるだろうが、まあ言わなくても良いか。


「ありがとうございました」
「いえ、それよりもこんな傷、とっても痛かったでしょう? 我慢強くて良い子ですね」
「う、うん、いたかったけど、がまんできたよ」


 皇宮医によしよしと頭を撫でられた。俺は目をそらしそう言葉にする。多分一般的な子供であれば泣きわめくレベルだと思うけど、怪しまれずに済んで良かった。


「暫く手を使用は控えて下さい」
「ああ、はい」


 暫くすれば治るので皇宮医の言葉に何も考えずにそう返事をする。


 仮に手を使えなくても物の方を浮かしたり動かしたりすればいい話だ。簡単なことである。


「ご家族に連絡と説明をしたいのですが、お名前を伺っても……」
「こ、困ります! 約束もなしにこのようなことをされては……っ!!」
「どけ!!」


 何やら外が騒がしいと思ったその瞬間、荒々しく扉が開かれた。驚いて扉の方を見ると何故かそこには猊下がいた。


「え!?」
「ルド!!」


 猊下は皇宮の警備兵を押し切って強引に中に入ってくる。そして俺を見つけるとすぐに駆け寄ってきた。


「な、なんでここに……っ!?」
「お前が皇太子殿下に連れ去れたのを見てすぐに来た。何かされていないか?」
「だ、大丈夫」


 そーっと俺は手の包帯に気付かれないように後ろに回そうとした。しかし、ルドっと猊下にもう一度名前を呼ばれてしまう。


「その手は?」
「……ちょ、ちょっと怪我しただけ……」
「重度の火傷で暫く手が使えないそうだ」


 余計なこと言わないで!!


 皇太子殿下を睨みつけるが、彼は全く俺を見ていなかった。何故か、猊下を親の敵のような目で睨みつけている。


 な、なんでそんなに猊下を見つめているんだろう。その強い視線から猊下を遮りたくてもぞもぞと体を動かすとぐわっと視界が高くなった。


 猊下が俺を抱えて立ち上がったようだ。


「帰ります」
「待てよ。誰のせいでそうなったのか分かってないのか?」
「……」


 瞬間、空気が急速に冷えた。俺は冷や汗を流す。全面的に俺が悪いのだ。だからそれをつつくような真似をしないで欲しい!!


「お、俺が悪いの!」
「お前は悪くない」
「ルドは何も悪くない」


 何故そこで息ぴったりになるんだ君ら!!


 結局のところ、猊下と皇太子殿下の押し問答になったが俺がぽつりとおうちに帰りたいと言ったことにより収束した。猊下はとても得意げな顔をして皇太子殿下を嘲笑していた。皇太子は苦笑いをしながらも最後にわしゃわしゃと俺の頭をかき回した。


「仕方ねえ、今は引く」


 最後にそう言って俺を見送った。なんか知らんが高級な薬を貰ったが帰って早々猊下が全部捨てた。俺はそんなことして良いのかと悲鳴を上げたが、あいつと私は友達だから大丈夫だと言われた。


 とも、だち?本当に友達なの?


 猊下をあまり疑いたくはないがあまりにも似合わない関係性な気がして思わず変な顔をしてしまう。


 とはいえ追求する勇気も持ち合わせていないのでそのまま有耶無耶になった。
 

 なんだか皇室に縁がある人物が三人に増えてしまった。しかも最後の一人は王族って……。まあこれ以上会うこともないだろうと俺はその時思っていた。


 猊下の腕の中でぬくぬく眠りにつきながら次の日、俺はとんでもない騒動に巻き込まれてしまう。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! 時間有る時にでも読んでください

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで

二三
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

処理中です...