【完結】断罪された神子様は、前世養父だった冷徹公子に溺愛される。

紫鶴

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第四章 恐らく、人違いかと。

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 学院に侵入した。学校って大体似たような構造だ。普段授業を行う教室に、専門的な事を行う教室、後は体育館とか中庭とか……。俺は一つ一つ確認しながら、目的の人物がいる場所を突き止めた。


 生物学準備室に奴はいる!!


 授業の準備だろうか。それだったら良いのだが、何となく違う気がする。そろっとその教室に近づくとがしゃんっと何かを壊したような音が聞こえた。


「くそっ!! 今更やめろだと……? そんなこと出来るか!! 俺は、証明するんだ。あの傲慢な貴族達に思い知らせてやる……っ!!」


 苛立ったような声が聞こえてきた。恐らく、これがあの事件の首謀者だろう。やる気だ!とってもやる気!!


 来て良かったぁっと俺はほっとしながら、そっと扉を開けて中に体を滑り込ませる。そして後ろ手でそっと閉めながらこそこそとお目当てのものを探した。


 卵、卵はどこに……。


「これがあれば、これさえ……っ!!」


 ぶつぶつと男はそう言いながら鞄を取り出した。それを開けると中には何の変哲のない白い卵がある。あれだ。きっとあれの中にやばい生物が眠っている。


 男は最後の仕上げとばかりにその卵に何かを仕掛けた。俺はそっとその卵に手を伸ばし壊そうとしてぴきっと卵にひびが入った。


 微々たる変化であったが、すぐに男は気付いて卵から一気に離れる。


「!? ど、どうして!? これは皇太子の魔力にしか反応しないはず……っ!?」


 その設定は聞いてない。


 もしや抱えられたときに仕掛けられたのだろうか。そうであれば俺が近づいて事によって発動したのかもしれない。やばい、早く殺さないと!!


 卵が徐々に割れていき、中から異様な匂いが漂う。男は悲鳴を上げてすぐさま教室を出ようとした。お前!!ふざけんなよお前!!自分が作った生物だろうがぁ!!


 そう思ったが、次の瞬間「ぐあっ!」と言う声と共にごきっと骨を断つような鈍い音がした。


「なんだこの臭い……」
「来ちゃだめ!!」


 男を伸びさせたのはまさかの皇太子殿下だった。鼻を押さえながらこちらに近づいてくるので慌ててそう言うが彼は顔をしかめる。


「その卵か……?」
「来ちゃだめだって! 今俺が処理するから!!」


 死亡フラグ!!あんたの死亡フラグだからこれ!!流石に目の前で死なれたら困るよ!?


 不意にばきんっと今までに無い音が聞こえた。視界の端で何かが飛び出してそれはまっすぐに皇太子殿下に向かっていく。俺はそれを追いかけるようにして机を蹴り背後からそれを掴んだ。


 じゅうっと熱した鉄板に手を置いたような音がして軽く煙が発生する。痛みを感じないから何の効果もないが、確実に掌は火傷を負っているだろう。


 そんなことを頭の隅で考えながら、俺は素早くそれを遠くに放り投げて凍らせる。そしてそのまま粉々にした。これであの生物は完全に息絶えたということだ。


 腐った卵みたいな匂いはまだ残っているのでとりあえず近くの窓を開けようとしてがっと手首を捕まれた。


「何してるんだお前!!」
「え? いや臭いから窓を開けようと……」
「そんなことより傷の手当てが先だ!!」
「あ、ああ……」


 うっかり忘れていた。痛みがないからつい……。今更痛がるのも変だと思い、実はもう治りかけです~と嘘をつこうとしてひょいっと抱えられた。そのまま廊下を駆けて一直線に保健室に向かう。


「先生!!」
「? どうしたんで……」
「怪我した子供が!!」
「怪我!? どこですか!?」


 あれ、この人も俺のこと見えてる?目が合ってるし、がっちり手捕まれたし……。


 皇太子の膝の上で逃げられずにいるとそのまま掌を彼に見せる形になった。少し赤くなっている程度だと思っていたが、思った以上に酷かった。これはもう大丈夫なんて言えない……。


「こ、こ、こんな……っ! 一体何があったんですか!?」
「生物学の臨時教師が変な生き物を持ち込んで、それを素手で触ったんだ!!」
「どうしてそんな危ないことをっ!!」


 いや、この子が来なければ完璧だったんだよ?この傷だってすぐに治したし……。


 心の中でそんな言葉を思い浮かべる。勿論口にはしない。


「こんなに火傷が酷いとここで処置するのは難しいです。設備が整った場所でないと……」
「分かった。応急処置だけしてくれ。後は俺がなんとかする」
「あ、い、いたーい」
「! 申し訳ありません!!」
「あ、いや……」

 応急処置といって、俺の手を軽く布で巻く。怪しまれるのでとってつけたように痛がってみた。すると顔面蒼白で謝られてしまい、罪悪感で変な顔になってしまう。本当は痛くないのに痛がって、無駄に薬品を使わせる。とっても申し訳ない気持ちになる。


「急ぎ皇宮に戻る。首謀者は生物学室前で伸びてるから守衛につきだしてくれ」
「畏まりました!!」
「ちょ、ちょっと待って!?」


 皇宮!?俺皇宮まで連れて行かれんの!?流石にまずい!!慌てて大丈夫です!家に行けば主治医がいますと嘯くがじろりと睨まれてしまった。


「お前は黙ってろ!」
「お、おう……」


 皇太子殿下の気迫に思わず俺は怯んだ。何だろ、この既視感。


 前もこんな風にすごまれたことがあるようなないような……。


『正真正銘の馬鹿かあんた。指が切れたら普通は痛いんだよ。それが大人でも、子供でも!』
『お、お、お前! よくもこの姿の俺に馬鹿って言ったな!?』
『馬鹿に馬鹿って言って何が悪いんだよ!?』
『こ、こ、このくそがきー!!』


 よし。いやな思い出が蘇ったからこれ以上考えるのはやめよう。なんだか小生意気な子供に説教された気がするけど、うん、思い出さなくて良いな!!


 そんなことを考えていると俺はいつの間にか皇太子殿下に抱えられながら外に出ていた。そしていつの間に用意したのか一頭の馬が現れて手綱を引き、俺を抱えたまま跨がった。


「少し揺れるぞ」


 そう皇太子殿下は言うと、大きく手綱を引いて馬を走り出した。乗馬経験なんて今までに無いので高くて揺れるし怖い。


 何で俺がこんな目に!!


 俺はそう思いながら徐々に近づいてくる皇宮が見えてきて頭を抱えたくなった。
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