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第三章 君が考える最も美しい人の姿がこれなの?
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俺は一人で後悔に苛まれていると、猊下が俺を抱えた。お姫様抱っこだ。今の俺は子供の姿じゃなくて、元神子様の姿なので大分大きくて重い。
「お、お兄ちゃん!?」
「飛び降りるから捕まっていろ」
「え!?」
猊下はそう言い終わるや否や足でガラスの扉をぶち破り、テラスに出る。そしてそのまま縁に足をかけたと思えば俺を抱えたまま飛び降りた。
いやいや!俺を抱えたまま飛び降りるなんて!受け身なんかとれるはず無いから、猊下の足が骨折する!
俺はそう思って魔法を発動させようとするがその前にふわりと優しく風がなびいてゆっくりと猊下は地に下りた。俺を抱えているなんて全く感じさせない軽やかな着地に俺は唖然とする。魔法を使った気配もないのにあんな風に下りることが出来るなんて思わなかった。
「平気か?」
「うん……」
俺は猊下のその行動に呆気にとられた。
いや、本当、なんでこの人モブなの!?絶対に名前がついて、主人公達に関わるイケメン枠じゃない!?
猊下のかっこよさに全世界がむせび泣いて感動するレベル!!
「他に怪我は? 痛むところは?」
「何もな……」
「お前が、いなければ……」
猊下の言葉にそう返そうとして、不意に誰かの声が聞こえた。俺は弾かれたように声のする方へ視線を送ると、庭の木々の間から人影が現れた。
外套の被った明らかに怪しい男だ。こいつが恐らく今回の首謀者だろう。さっきの糸もやっぱりこいつの仕業か。
「あのままだったら、殺せたのに、お前が、お前が邪魔しなければ……っ!!」
あの騒ぎに乗じて目的を果たそうとしていたのか。そういう筋書きだったのかっと俺は呑気にそう思いながらじっと男を見る。外套被ってるし、周りも暗いからきちんと顔を見ることは出来ない。しかし、少しだけ覗く肌は焼けたような跡が見えた。
火って怖いよね。しかも、体の一部が燃えたわけだから相当痛いし、熱かったはずだ。そこで俺は、一人の子供を思い出した。
その子供には、可愛い弟がいたそうだ。しかし、その弟が成長すると自分よりも優秀で完璧で、劣等感に苛まれた。可愛いはずなのに妬ましく思うことがあると悩んでいたそうだ。
だから、俺はその子に、とっても人間らしくていいと言った気がする。弟が可愛くて、でも才能が羨ましい。そう思うのは当たり前だと。
『隣人を愛せなくても、人ですか?』
『そもそも、そうやって悩むのが人である証拠だと俺は思う』
あれだよね。宗教国家だから負の感情は良くないもの~ってされていた気がする。あほか。そんなもん絶対になくならないに決まってるじゃないかと俺は呆れていた。
あと、英才教育怖いって。
そのあと、その土地を管理している貴族の屋敷が火事にあって生きていたのがその子だった。お父さんかお母さんか、誰かが上に被さっていたお陰で彼だけは俺が駆けつけるまで生きていたのだ。しかし、状態は酷い。全身火傷。髪なんてものはほとんど無くて呼吸するのすら辛かったはずだ。
このまま生かしてあげていいものか、とちょっとばかし思ったけれど生きているならなんとかなるのが俺の力だ。看病して、徐々に徐々に傷を癒やす。全部治すと怪しまれるから、多少は火傷の跡を残し、人並みに動けるようにはなった。
どうなったかな、あの子。まあ、聖騎士になって、あのとき追い出した気がする。うん。
ともかく、火というのは怖いものだということだ。
さて、前世の記憶を思い出すと目の前の子はとても可哀想に見える。なんせ、前世のあの子は、火傷の跡で酷く怯えられていた時期があったが、何故か堂々と隠すことなく過ごしていた。化け物と仲間内で言われた事もあったけど、ボコボコに仕返ししていた。あの子強いんだよね。その度に仲裁に入る俺。
目の前のこの子も化け物と蔑まれて生きてきたんだ。普通はああなって世界を恨むのが筋だ。あの子は強固な心を持っていたんだな。凄い。あの時代に生きていたとは思えない!!
「お前だけでも、お前だけでも殺してやる……っ!!」
外套の下から小ぶりのナイフを男は取り出した。そのまま猊下に向かって走っていくので俺は慌ててそれを弾こうとして目の前に銀色の何かが飛んできた。
「ぐあっ!!」
男の手からナイフが落ちると同時に上からコイヨンがその男の腕を掴んでひねりあげる。そのまま背中を蹴るようにのし掛かるので簡単に男は地面に伏した。
次の瞬間、ごきっと骨を断つような音が聞こえた。
「ああああああああああああああっ!!」
「汚え声上げてんじゃねえよ!! この身のほど知らずが!!!」
ごきりっとまたしても鈍い音がすると、男はそのまま白目を剥いて気絶した。ちっとコイヨンは舌打ちをした後に殴ろうと拳を作るので俺が慌てて止める。
「もう良いと思う!!」
「……畏まりました」
うん!すぐにやめてくれてコイヨンは良い子!!死んでないよな?俺のコイヨンが殺人鬼になったらいやだよ俺。
一応男の容態を確認し、ただ痛みで気絶しているだけのようで安心する。コイヨンが乱暴に担ぎ上げた。
「どうしますか」
「好きにしろ」
「分かりました」
コイヨンと猊下がそんな言葉を交わす。俺は二人の言動を黙って聞いていた。本当は犯人だとつきだした方が良いのだろう。でも、話の流れ的にはしない方が良い。リィンが大丈夫だって言っても、少しばかり心配なのだ俺は。
ごめん、レオ。そういうわけなので、これから苦労してくれ。そうすればフレイに会えるからさ!!
「お、お兄ちゃん!?」
「飛び降りるから捕まっていろ」
「え!?」
猊下はそう言い終わるや否や足でガラスの扉をぶち破り、テラスに出る。そしてそのまま縁に足をかけたと思えば俺を抱えたまま飛び降りた。
いやいや!俺を抱えたまま飛び降りるなんて!受け身なんかとれるはず無いから、猊下の足が骨折する!
俺はそう思って魔法を発動させようとするがその前にふわりと優しく風がなびいてゆっくりと猊下は地に下りた。俺を抱えているなんて全く感じさせない軽やかな着地に俺は唖然とする。魔法を使った気配もないのにあんな風に下りることが出来るなんて思わなかった。
「平気か?」
「うん……」
俺は猊下のその行動に呆気にとられた。
いや、本当、なんでこの人モブなの!?絶対に名前がついて、主人公達に関わるイケメン枠じゃない!?
猊下のかっこよさに全世界がむせび泣いて感動するレベル!!
「他に怪我は? 痛むところは?」
「何もな……」
「お前が、いなければ……」
猊下の言葉にそう返そうとして、不意に誰かの声が聞こえた。俺は弾かれたように声のする方へ視線を送ると、庭の木々の間から人影が現れた。
外套の被った明らかに怪しい男だ。こいつが恐らく今回の首謀者だろう。さっきの糸もやっぱりこいつの仕業か。
「あのままだったら、殺せたのに、お前が、お前が邪魔しなければ……っ!!」
あの騒ぎに乗じて目的を果たそうとしていたのか。そういう筋書きだったのかっと俺は呑気にそう思いながらじっと男を見る。外套被ってるし、周りも暗いからきちんと顔を見ることは出来ない。しかし、少しだけ覗く肌は焼けたような跡が見えた。
火って怖いよね。しかも、体の一部が燃えたわけだから相当痛いし、熱かったはずだ。そこで俺は、一人の子供を思い出した。
その子供には、可愛い弟がいたそうだ。しかし、その弟が成長すると自分よりも優秀で完璧で、劣等感に苛まれた。可愛いはずなのに妬ましく思うことがあると悩んでいたそうだ。
だから、俺はその子に、とっても人間らしくていいと言った気がする。弟が可愛くて、でも才能が羨ましい。そう思うのは当たり前だと。
『隣人を愛せなくても、人ですか?』
『そもそも、そうやって悩むのが人である証拠だと俺は思う』
あれだよね。宗教国家だから負の感情は良くないもの~ってされていた気がする。あほか。そんなもん絶対になくならないに決まってるじゃないかと俺は呆れていた。
あと、英才教育怖いって。
そのあと、その土地を管理している貴族の屋敷が火事にあって生きていたのがその子だった。お父さんかお母さんか、誰かが上に被さっていたお陰で彼だけは俺が駆けつけるまで生きていたのだ。しかし、状態は酷い。全身火傷。髪なんてものはほとんど無くて呼吸するのすら辛かったはずだ。
このまま生かしてあげていいものか、とちょっとばかし思ったけれど生きているならなんとかなるのが俺の力だ。看病して、徐々に徐々に傷を癒やす。全部治すと怪しまれるから、多少は火傷の跡を残し、人並みに動けるようにはなった。
どうなったかな、あの子。まあ、聖騎士になって、あのとき追い出した気がする。うん。
ともかく、火というのは怖いものだということだ。
さて、前世の記憶を思い出すと目の前の子はとても可哀想に見える。なんせ、前世のあの子は、火傷の跡で酷く怯えられていた時期があったが、何故か堂々と隠すことなく過ごしていた。化け物と仲間内で言われた事もあったけど、ボコボコに仕返ししていた。あの子強いんだよね。その度に仲裁に入る俺。
目の前のこの子も化け物と蔑まれて生きてきたんだ。普通はああなって世界を恨むのが筋だ。あの子は強固な心を持っていたんだな。凄い。あの時代に生きていたとは思えない!!
「お前だけでも、お前だけでも殺してやる……っ!!」
外套の下から小ぶりのナイフを男は取り出した。そのまま猊下に向かって走っていくので俺は慌ててそれを弾こうとして目の前に銀色の何かが飛んできた。
「ぐあっ!!」
男の手からナイフが落ちると同時に上からコイヨンがその男の腕を掴んでひねりあげる。そのまま背中を蹴るようにのし掛かるので簡単に男は地面に伏した。
次の瞬間、ごきっと骨を断つような音が聞こえた。
「ああああああああああああああっ!!」
「汚え声上げてんじゃねえよ!! この身のほど知らずが!!!」
ごきりっとまたしても鈍い音がすると、男はそのまま白目を剥いて気絶した。ちっとコイヨンは舌打ちをした後に殴ろうと拳を作るので俺が慌てて止める。
「もう良いと思う!!」
「……畏まりました」
うん!すぐにやめてくれてコイヨンは良い子!!死んでないよな?俺のコイヨンが殺人鬼になったらいやだよ俺。
一応男の容態を確認し、ただ痛みで気絶しているだけのようで安心する。コイヨンが乱暴に担ぎ上げた。
「どうしますか」
「好きにしろ」
「分かりました」
コイヨンと猊下がそんな言葉を交わす。俺は二人の言動を黙って聞いていた。本当は犯人だとつきだした方が良いのだろう。でも、話の流れ的にはしない方が良い。リィンが大丈夫だって言っても、少しばかり心配なのだ俺は。
ごめん、レオ。そういうわけなので、これから苦労してくれ。そうすればフレイに会えるからさ!!
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