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第三章 君が考える最も美しい人の姿がこれなの?

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 これ、ぐらい、は……?


「ほ、本日は! こ、こ、こ、このような粗末な場所に足を運んでいただき、誠に誠にありがとうございます!!!」


 ぺこぺこと一人の眼鏡をかけた男性が床に膝をついてひたすらに平伏している。俺はその前でなんか豪華な一人がけ椅子に座っていた。机の上には沢山お菓子と果物が積まれている。中にはここら辺では手に入らない珍しいものがあった。


 香りの良い紅茶も一緒で、俺は困惑の表情を浮かべながら彼を見ている。


「いや、こっちこそ無理を言って……」
「はー、はー……っ!! あ、ありがたき、ありがたき幸せ……っ!!」
「……」


 俺はフラウを見た。この人こんなんだけど本当に大丈夫?いや君を疑うわけじゃないんだけど……っ!!


 そんな思いが通じたのかフラウは目が合うと微笑んだ。


「腕は確かですよ。何より情報通な奴がいて……」
「兄さ~ん。なんか良い匂いするんだけど、お菓子作ったの~。俺も食べ……」
「!?」


 俺はぎょっとして後ろを振り返った。そこには本棚が動いて明らかに秘密の部屋っぽい場所から人が出てきたからだ。人様の家を調べるのは良くないだろうと何もしていなかったんだけど、もしかして俺やばいお宅に来てる……?


 いやいやフラウの紹介だから大丈夫だ。大丈夫……だよね?


 ちらりとその男の向こう側を見ると階段が続いている。どんな部屋があるのか一旦確認した方が良いかな……?疑うのは良くないけど!予防線を張るのは良いよね!?


 そう思い、俺はこの屋敷を調べるためひっそりと魔法を発動させる。すると、がばっと本棚から出てきた男が同じように膝をついて平伏した。


「も、申し訳ありません!! このような形でこんな……っ!!」


 慌てていたのか大きな鞄に詰めたものがバサバサと落ちていく。本やらメモ帳やら、あれはカメラ?あれって昨日発表されたばっかりじゃなかった?何で持ってるんだあの人……。


 投資家だろうかと一瞬そう思ったが、持ち物がなんだか記者のように思える。


 さっき言ってた情報通っていうのはこの人のことかな……?


 それよりも何でこの人も俺に頭下げるの!?


「あ、あの、大丈夫なんで、頭を上げて貰っても良いですか……?」
「は、はい!!」
「し、し、失礼しまっしゅ!!」
「兄さん緊張しすぎだし何で教えてくれなかったのさ!!」
「う、う、き、緊張で……」
「それでもこういう大事なことは言えよ!!」
「ご、ごめん~」


 後から来た方が弟で、眼鏡の方が兄らしい。似たような顔で一瞬どっちか迷うけど慣れてきたら区別つくようになってきた。


「眼鏡がウィルで、じゃないほうがウィリです」
「あ! 自己紹介は俺からしたかったのに!! 勝手にするなよフラウ!!」
「しょ、紹介に、預かりました、ウィルです! み……っ!!」


 ウィリが不満そうに声を上げたが、それを気にせず丁寧に自己紹介をしてくれていたはずのウィルがすぱんっとウィリに頭を叩かれた。何か言いかけたようだけど、この様子だと聞かない方が良さそうだ。


「初めまして。俺はアルカルド・ラフィールといいます。暫くお世話になります、えーっと、ウィリ先生とウィル先生」


 ぺこっと頭を下げてもう一度あげたら、またしても彼らは平服をしていた。やめてくれ。


 そのあと、ウィリがどうして俺がここにいるのかという事を聞いており、簡単にフラウが説明していた。ここは依頼主の俺がいうものなんじゃと思ったが、主なんだからどっしり構えていてと言われてしまった。説明中はお菓子とお茶を楽しんでいた。美味しい~。


「依頼内容は分かりました。フラウのご依頼通り、その舞踏会までに作法をお教えいたします」
「よろしくお願いします!」
「いけません、アルカルド様。我々に敬語は不要です、でないと兄さんが死にます」
「あ、うんわかった」


 今にもウィルが死にそうだ。変わってるな~。こう言うのって敬語じゃないといやなもんじゃないの?そっちの方が良いって言うならそうするけど……。


「じゃあひとまず、明日からでも大丈夫ですか?」
「うん」
「ありがとうございます。教材は明日兄さんが用意して……」
「あ、あの!!」


 ウィリと話をしていたら、ウィルが手を上げた。俺とウィリは彼の方に視線を向ける。


「どうしたの?」
「! ぜ、是非とも来て欲しいところが!!」
「? うんわかった。どこにいけば良い?」


 俺の先生になる人だし、少しでも俺に対する緊張を解いて欲しいと言うこともあってその提案には二つ返事で了承した。するとぱあっと顔を明るくしたウィルはすぐに立ち上がって先ほどウィリが出てきた本棚を操作した。


 するとすーっとその本棚が動いて地下に続く階段が現れる。


「こ、こちらに! こちらにどうぞ!!」
「うん」
「あの、兄さんは変なことしないので大丈夫ですけど、初対面の人間にそう簡単について行くのは……」
「大丈夫。俺にはフラウがいるからね」


 後は自分の力もあるし!!


 俺がそういうとフラウがなんだかとっても誇らしげな表情を浮かべていた。こんなことで喜ぶなんて君はなんて安上がりなんだ……。


 俺はそんな失礼なことを考えながら、ウィルの後についていく。壁に掛けられたランプが反応して道を照らす。暫くその道を歩いて行くと大きな扉が現れた。


 その扉にはとても見覚えがある。


 俺が神子だった時代の大聖堂に続く扉に少しだけ似ている。この周りの壁とは別の素材で出来ているようで真っ白の石に百合の模様がついていた。それは前のものにとても似ていた。


 しかし、大きく違うところがある。


 両扉に各々、ローブを纏った人が象られているのだ。それらの像は向かい合っているが右の像が左の像に向かって大きな丸い器を捧げている。そして左の像の上には太陽のようなシンボルが掘られていた。


 この彫刻を見るに恐らく左の者の方が偉い、のだろう。多分。じっとそれを眺めているとウィルが右の器に触れた。するとごぼごぼと音を立てて器の中から金色の液体があふれ出す。それは床に落ちることなく扉の彫刻の溝広がっていき、最後、右の太陽のシンボルにそれが満たされると扉がひとりでに動いた。


 な、なんだこの技術!?前は重い扉を八人体制で開いてたぞ!?だから特別な行事にしか開かない大聖堂だった。俺も数回しか見たことない。


 その扉は重々しく完全に開くと、まず見えるのは大きな神の像……のはず……。


「……?」


 そこには俺がいた。前世の俺がそこに鎮座していたのだ。俺の見間違い、かな?いや、あんなでかいのみ間違えるわけ無いな、うん。


 これは流石に聴かなければいけないと思い俺はあの像を指さした。


「えーっと、あの像って、フラウが言ってたこの世で美しい人に似てるけど、何かモチーフとかあるの……?」
「あ、は、はい! こ、こちらに残っていた絵が!!」
「おぉ……」


 そういうとウィルは、壁を指さした。そこには額縁に飾っている俺の絵が。なんで残ってるんだ。軽く調べると羊皮紙なので古いものである事は明白。もしかして、この建造物自体も古いものか……?


「軽く整備はしたのですが、やはり劣化が激しく……」
「そうなんだ」


 俺の考えが読めているのかウィルがそう言った。やはりここも古い建造物なのだろう。まさかこんなものが地下にあるなんて思わなかったし、ましてや俺の絵が保管されて、彫刻が彫られているなんて思わない。


「近づいてもいい?」
「ど、どうぞ!」


 奥の彫刻に近づいていくと、想像より大きかった。この空間には壁に飾られた絵とその巨大な像以外には明かりのランプしかない。聖堂と言って良いのだろうか。いやしかし、それっぽいから教会の一部に違いない。俺の像には目をつぶって。


「この彫刻は、元々ここにあったの?」
「ありました」
「へー。繊細で、とても良い出来だね」
「あ、あ、ありがたき幸せ……っ!!」
「え、あ、うん」


 綺麗に保存できてるねって言う意味で言ったわけじゃないけど、まあ勘違いしてくれてるならそれでいいや。


 頭を切り替えよう。


 教会、ならばもしかしたらリィンが答えてくれるかもしれない!!


「お祈りしていい?」
「ど、ど、どうぞ! い、いくらでも!! あ、な、何か、必要なものは……っ!?」
「大丈夫。じゃあちょっと……」


 お祈りをするふりをして、リィンとの交信を試みようとタイルに膝をつく。すると「ひっ!」とウィルが短い悲鳴を上げた。


「お、お膝が!! お、俺の上着を……っ!!」
「俺も!!」
「俺のもどうぞ!!」
「え、あ、ありがとう……?」


 三人がそういって冷たくて硬いタイルに各々上着を敷いた。俺はお礼を言いながらその上に膝をついた。別に気にしないんだけど……。


「し、失敗しました。絨毯を用意するべきでした……っ!!」
「良い絨毯探してくる」
「ひとまず俺の家にあるやつ持ってくるよ」


 聞こえないふりをした。
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