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第二章 やめてー!!俺の屑を連れて行かないでぇ!!!

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 次の日。昨日と同じで猊下を見送り、ロズリーに物置に閉じ込められた。そして昨日のことも考えてみて俺は昼ではなく夜に悪徳魔術師に接触することを決意した!!

 あの兵士達はきっと昼間に子供を保護していると思う。それに考えて見れば悪いことするのは夜中って相場が決まっているんだ。昼より夜の方がきっと悪徳魔術師に接触できるはず!!

 ということで、俺はロズリーの後始末をする事に注力する。とりあえず、コイヨンに接触して、仕事を少しでも減らし彼の疑いも晴らして……。

 不意にかちゃんと鍵が開く音がした。ロズリーではない。ロズリーは今、宝石の加工のために店に行っているのだ。だから違う誰かなのだが……。


「掃除しないと……。はあ、またロズリーさんはどこかに行っちゃったし……」


 聞こえてきた声はコイヨンだった。がちゃがちゃと掃除用具がぶつかり合う音がして彼が部屋の中に入ってくる。やばいっと反射的に近くの物陰に隠れる。俺の体が小さいのとものが多いことが幸いした。

 隠れておいてだが、魔術でどこかに移動すれば早かった。今更身じろぎをしようとすると音が出るのでじっとしているしかない。今度は隠れるんじゃなくて逃げよう。


「あ……。道具忘れたみたい。取りに戻らないと」


 コイヨンがそう言って、扉が閉まる音がする。コイヨンがどこかに行ったようだ。今のうちにここから出よう。ロズリー、俺を隠す場所適当すぎるよ。掃除の予定があるなら別の場所にしないと。俺じゃなかったらコイヨンに見つかってそのままロズリーの職務怠慢がばれてたよ?

 ふーやれやれっと物陰から出ようとして、はっとする。

 まって、扉が閉まる音がしたけど足音はしてないよね!?

 そう思った瞬間、すっと俺の首筋に冷たいものが置かれる。わざわざ下を見て確認しなくても分かる。刃物だ。
し、しまったあああああああああああ!!!サイコパス診断みたいな古典的な罠に引っかかってしまったああああああああああっ!!!

 今の俺は完全に物置に隠れていた不届き者として判断された。このまま殺されるわけにはいかない!コイヨンには悪いが少し眠って貰うしかなさそうだ。

 そう考えること数秒。素早く睡眠の魔術を彼に使おうとした瞬間、俺の首から刃物が離れた。それ幸いと俺はすぐにコイヨンから離れてちらっと後ろを見る。すると彼は絶望の表情を浮かべていた。

 刹那、目にもとまらぬ早さで自分の首を切ろうと刃物をひっくり返す。それを見た俺はどうにか刃物を弾いて彼の手から遠ざけた。我ながらよく対応できたなと思えるくらいの反射速度だった。


「な、何してるの!?」


 何が彼をそうさせたのかまるで分からないのでそう聞くと彼は膝から崩れ落ちる。そして震える手でもう一度服の中からナイフを取り出すので俺が悲鳴を上げた。


「し、死んでお詫びを……っ!!!」
「何言ってんの!? やめて!!」
「止めないでください!! 私は、許されないことをしました!!」


 状況から考えるに俺に危害を加えようとした事をとても後悔しているということだろう多分。なんだろう。子供に刃物を向けるのは自分の信条に反するとかそういう奴かな!?それなら俺にだって非はある。こんなところにこそこそ隠れていたのが悪いもの。

 だから俺は必死で彼を説得しようとする。


「謝ったら許すよ!」
「で、ですが! ですが……っ!!」


 わー!!刃物が彼の首に食い込むぅ!!俺の不用意な行いで人一人の命が簡単に散る!
 ロズリーの一件もあり死なせるわけにはいかないと俺はすぐに別の手立てを考える。


「じゃ、じゃあ、君の財産、二割ちょうだい!!!」


 恐らくわかりやすい罰を与えれば死のうとしないだろう。それに財産とだけでお金とは言っていない。彼のさじ加減でどんなものでその二割であれば条件に当てはまる。

 そんなことを考えながら、これで死のうとするのはやめて欲しいと思っているとコイヨンは、わっと目に涙をためて声を上げた。


「私の財産は全て貴方のもの! 罰でも何でもありません! やはりここは死んで詫びを……っ!!」
「ま、ちょ、おいこら!!」


 ナイフから手が離れないコイヨンに俺は思わず声を荒げた。だってこんなに話通じないとは思わなかったんだもん!!

 だから俺は頭に血が上ってその衝動のまま言葉が出る。


「お前の財産が全て俺のものならお前の命は俺のものだ! 俺の許可なく勝手に死ぬな!!」


 言ってからさっと俺は顔を青くする。

 何言ってんだお前!どの立場からそんなことが言えるんですか!?

 売り言葉に買い言葉みたいなものでついつい考えずに言ってしまった。吐いた唾は飲み込めない。当たり前だが、しっかりばっちり目の前の男は俺の言葉をその両耳で聞いてしまった。

 相手の反応が怖くて思わず目をそらしていると、不意にからんっと音がした。ちらりとそちらに視線だけ寄越すとコイヨンが持っていたナイフを落としている。どうやら死んでお詫びをする気持ちは無くなったようだ。そのことにほっとするが、次の瞬間彼はボロボロ泣きながら深々と頭を下げてくる。

 何故頭を下げる!?ここは怒り狂うか、悲しむところでは!?泣いているから悲しいんだろうけどなんか違うよね!?


「も、勿論です。私のものは貴方のもの。例外なんてございません。この命もあなたのものです。う、ううう……っ!」


 か、悲しんでるんだよね?そうだよね?俺の勘違いでも何でもないよね……?

 俺はそうだと信じて恐る恐る彼に謝ろうと、さっきのは勢いで言っただけだと弁明しようと口を開きかけ、そして閉ざした。


「こんな、夢のような事があって良いのでしょうか? 私の粗末で矮小な命すら全て、貴方様に捧げる事が出来るなんて……っ!! こんな、幸福が……うぅっ!!」
「……ぇ?」


 ずっと頭を下げたまま興奮気味にコイヨンはそう言った。声からよく分かるのだが、とても嬉々として明るく力がこもっている。聞き間違いでもない。彼の、意思のようだ。

 ああ、これは俺がロズリーという扱いやすい悪人を利用しようとした罰なのでしょうか?都合の良い屑に利用されている可哀想なこの子を救ってあげなかったのがいけなかったのでしょうか?


「これぞまさに至高の喜び!!」


 そっと俺はそんな彼から目をそらす。そして、天井を仰いだ。
 俺の神様おともだちぃ!!心を入れ替えるのでこの子どうにかしてくれませんかぁっ!?助けて!へるぷみー!!!

 そう訴えかけるが天からの応答はなく、俺は今日この日、一人の盲信者を手に入れてしまったのだった。
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