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第一章 悪役神子様、改めラスボスです☆

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 綺麗な洋服を身にまとい、猊下に抱っこされて俺は廊下にいる。この服はどうやら猊下のお下がりらしい。猊下、こんな可愛い服着てたのか。見たかったな。絶対可愛い。


「ルドはいくつだ」


 ルド、というのは俺の愛称だ。アルカルドだからルド。まあ名前は割とどうでも良いけど、まだ慣れないから一瞬反応に遅れちゃう。だから呼ばれて、ん?と首を傾げてしまったのは目をつぶって欲しい……。


「あ、え、えーっと、多分14?」
「じゅう、よん……?」


 どうせ俺の年齢を正確に知る人物なんていないので普通にさば読んだ。大人に思われた方が色々都合良さそうだし!そう思って口にしたが猊下がじっと俺の真意をといている。流石に年齢と身体の成長はアンバランスすぎて疑われちゃうか。いや、でも1、2歳しかさば読んでないしそこまで違いはないだろう。


「本当か」
「うん。御飯あまり食べさせてもらえなかったから、背が伸びなかったの!」
「……そうか。じゃあこれからはいっぱい食べろ」
「うん!」


 どうやら乗り切ったようだ。俺の骨が浮き上がった身体を見て信憑性が増したようだ。あのとき掬い上げられて良かった!外見だけで言えばまじで6歳前後の子供だしな。多分俺あまり身長も伸びない子供だと思うんだよね。作中でもこの子の背が高いことは特に書かれていないし、確か印象は可愛らしいって書いてたから小さいと予想。前の神子で高身長美人だったので低身長でも構わんよ俺は。

 最後になでなでと猊下に頭を撫でられむふんと少し得意げになる。猊下に頭なでなでされるの好きだわ。優しい手つきで安心する。そう思いながら堪能していると不意にバタバタと慌ただしい足音が聞こえた。


「あー!! その子が弟君!? 可愛い~!!!!」
「!」
「……兄さんうるさい」


 猊下とも猊下のお父様とも違う声が響く。猊下はすぐにさっと俺を見られないように抱え直した。お陰で俺の前には猊下の胸板が見える。そんな俺たちの周りをうろうろと誰かが回って気になった俺がそっと顔を上げると目が合った。

 ふわふわで白銀の髪、落ち着いた深い緑色の瞳をした男である。すごい、こっちは猊下のお父様に激似だ。俺と目が合うとにこーっと笑顔になってむにっと俺の頬を両手で包み込んだ。


「きゃわわ~。父さんから聞いてた以上のきゃわいさ!!」
「離れろ。勝手に触るな。失せろ」
「怒るなよ~。カロも構ってあげるから!」
「そういう問題じゃない。触るな」


 お兄さん?はテンション高く俺の頬をむにむに動かした後、猊下のほっぺをツンツンする。今俺を抱えている猊下が抵抗できるのは顔を背け身体をひねらせることぐらいだ。恐らく、いつもなら手が出ていたのではなかろうか。あ、今猊下お兄さんの足踏んだ。


「いだっ!? え、なに!? 靴底に何か仕込んでる!?」
「ふん」
「あ、ちょっと待ってよ。僕も呼ばれてるんだ。行き先一緒だから……」
「後ろを歩け」
「えー!」


 猊下は冷たくあしらってそれにショックを受けたのかしくしくお兄さんが泣いている。顔だけではなく、性格も猊下のお父様によく似ているな。そう思って後ろからとぼとぼ歩いてくるお兄さんの方を見る。気づいた猊下がすぐに俺を抱え直すがぱああっと顔を明るくさせたお兄さんが横に来た。


「かーわーいーいー!! 僕、リュネシェーンっていうんだ。リュネって呼んで君は?」
「あ、アルカルドです……」


 思わず借りてきた猫みたいに小さい声で自己紹介。未だにこれが俺の名前だという実感は薄いと言うこともあるし、このお兄さんのテンションに押されていると言うこともある。どちらにせよ彼に慣れるのはもう少し時間がかかるかも……。

 そんなこんな時にコミュ障を発揮している俺に気にすることもなく上機嫌に彼はこう言う。


「じゃあアルだ! よろしく!」
「は、はい。リュネお兄様」
「リュネお兄様!! 良い響き!! あ、弟の名前は聞いた?」
「あ、いえ、まだ……」


 そういえば、お兄ちゃんとだけ言って名前を聞きそびれた。聞かなくてはと思っていたのだがタイミングが合わずに今まで聞けなかった。この機会を逃すわけにはいかないと俺はすぐにリュネお兄様の言葉に食いついた。そしてちらっとお兄ちゃんを見上げると彼は少し考え込んだ後に自己紹介してくれる。


「カロシェーン」
「カロお兄様って呼んであげて。喜ぶから」
「余計なこと言うな」
「カロお兄様?」


 リュネお兄様がそう言うので俺は素直に猊下をそう呼ぶと彼はぐっと眉間にしわを寄せた。あれっとリュネお兄様が予想外の反応に困って俺を見る。


「もしかして、今までなんか別の呼び方してた?」
「お兄ちゃんって言ってました」
「じゃあそっちの方が良いみたい。ごめんごめんカロ。機嫌直して」
「肩を組むな」


 へらへらとリュネお兄様はごめんねっとジェスチャーをとりながらそう言った。それから猊下の肩に腕を回したが、すぐに猊下がそれを払って冷たく睨んだ。

 兄弟同士だから猊下もなんか気安い関係だ。その関係性が少しうらやましくてじっと二人を見つめていると猊下がこちらに顔を向ける。


「私のことはお兄ちゃんと呼んで欲しい」
「分かった!」
「良かったねぇ、カロ」
「お前は黙ってろ」


 猊下はどうやらお兄ちゃん呼びの方が良いようだ。それだと今の猊下の名前が一つも入らないけど良いのだろうか。まあ、本人が良いと言っているなら良いのだろう。ただ、呼ぶ機会がないとまた俺猊下の名前忘れそう……。前も猊下猊下ばっかり呼んでたからさっぱり覚えてないんだよね。今度は頑張って覚えていよう。

 俺はそう心に決めてカロシェーン、カロシェーンと何度も心の中で唱えたのだった。
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