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第一章 悪役神子様、改めラスボスです☆
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二度寝をしたらお昼になっていた。猊下に揺り起こされて目をこすりながら身体を起こすと猊下の他に誰かがいることに気がついた。びくっと驚いて目の前に立っている猊下にしがみ付いてしまう。そんな俺に猊下はすぐにその人を外に追いやった。
「すまない。怖かったか?」
「あ、ううん。ちょっとびっくりしただけ」
「そうか。立てるか?」
「うん」
猊下が手を俺に差し出してくる。おお、エスコートしてくれるのか。もう俺の手は汚くないのですぐにその手を取った。ぴくりと一瞬猊下がその手を震わせたが、優しく俺の手を握った後に手を引いてくれる。こんな子供でも丁寧に扱ってくれる。流石猊下。
「お兄ちゃん、よく寝れた?」
「ああ」
「そっか! 良かった!!」
だよね!バッチリ寝てたの見たし俺。一時だけだけど少しぐらいは寝られたようで良かった。とりあえず、俺の寝相が悪くて猊下を蹴ったかどうかは聞かないでおこう。何を言われても困るので知らないふりをした方が良いに決まっている。寝てたし本当かどうかは分からないしね!!
「お腹すいてるだろう? 今使用人に御飯を持ってこさせたからいっぱい食べろ」
「お、おおおおっ!!」
猊下がそう言って俺をソファまで連れて行く。そして、少し背の高いソファに抱っこされてそこに下ろされた。おお、お尻が沈む!!それに感動しながらも、目を奪われるのは目の前の豪華な食事だ。温かいスープにふかふかで柔らかそうなパン。野菜たっぷりのサラダに、オレンジジュースの入ったピッチャーなどが机いっぱいに置かれている。
美味しそうで温かそうなその食事に俺のお腹はくうっと音を鳴らして空腹を知らせた。
「食べて良いの!」
「ああ」
「わーい!! いただきまーす!!」
向かい側の一人用ソファに腰掛けた猊下が優雅に足を組む。猊下は紅茶を飲むためにポットからカップにそれを注いでいた。猊下は紅茶派のようだ。俺はコーヒー飲みたいかな。ブラックは無理だけど、牛乳で割ってカフェラテにして飲みたい。
確か、この時代にはコーヒーがあったはずなので大人になったら飲みたいな。今は出されたオレンジジュースを飲む。大きなピッチャーに手を伸ばしてジュースを飲もうとすると俺がそれを取る前に猊下が手に取った。そしてコップに注いでくれる。気が利くなぁ。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「ああ」
俺は猊下の淹れてくれたオレンジジュースを飲んで、他のものに手を伸ばす。ソーセージ美味しい!スクランブルエッグ美味しい!スープは三種類ぐらいあってコーンスープを飲んだ。これも当然美味!
あぐあぐと公爵家の美味しい御飯を堪能していると、ふと猊下が紅茶以外口にしていないことに気がついた。ぴたりと食べ物に手を伸ばしていた手を止めてじっと猊下を見つめる。すると、同じように俺を見ていた猊下と目が合って彼は首を傾げた。
「どうした。もう要らないなら下げさせるが」
「お兄ちゃん食べてないよね?」
「私のことは気にするな」
「……」
猊下!!だからあんた精神不安定になるんだよ!!食べ物食べないと力でないでしょ!?心が弱くなっちゃうんだよ!?
俺は持っているクロワッサンをちぎってソファの上から飛び降りる。そして猊下に駆け寄ってちぎったクロワッサンを猊下に差し出した。
「食べて」
「え、い、いや、こんな……」
「食べないなら俺も、ずーっと御飯食べない」
事実、あの孤児院にいた時は一週間に一回御飯をくれるかくれないかぐらいだった。貰っても残飯の寄せ集めみたいな御飯で食べない方がましと思うぐらいにはまずいものだった。だから俺は、魔術を使い食事をしなくても餓死しないように調整をしていた。お陰で今の今までほとんど水生活である。
猊下も似たような手法をとって今まで生きてきたのだろう。しかし、俺みたいな食事もまともに食えない子供から言わせればなんていう贅沢!である。とはいえ、猊下にも猊下の事情があるのは百も承知。ならば、俺も彼に合わせて食べない方が良いだろう。口惜しいが、拾ってくれた人が食べていないのに俺だけバクバク食べるわけにはいかない。普通に気まずいし!!
出来れば、これで猊下が少しでも御飯を食べてもらえればいいがと少しばかりの希望を持っていると指に何かが触れた。
「ひゃっ!!」
驚いてそちらを見ると猊下が俺の指ごとクロワッサンを食べている。おおい!!それは俺の指ぃ!!!
「お、俺の指まで食べないで!!」
「す、すまない……」
ぱっとすぐに食べられた指を自分の元に引き寄せる。すると、猊下は申し訳なさそうな声を出して謝った。
いや、うん。確かにびっくりしたが今猊下は俺のクロワッサンを食べてくれたのだ。これは大きな一歩じゃないか?指まで食べられたのは予想外だけど。
「でも、食べてくれてありがと!! もっといる?」
「いる」
食い気味で猊下がそう言ってきた。なーんだ!お腹すいてたんじゃん!
俺は猊下の返答ににっこにこになってもう一度クロワッサンをちぎって彼の口元に寄せる。ついでに足の上によじ登った。
「分かった! はい、あーん」
俺の声に反応して猊下が口を開く。今度は慎重に俺の指を食べないようにクロワッサンを咥えて食べた。俺はそれを見て面白くってクスクス笑ってしまう。
「いいよ、俺の指ごと食べても」
「え」
すんごい気を遣っているのが分かるので俺はそう言ってもう一度ちぎってクロワッサンを渡す。一瞬猊下が動きを止めた後、すーっと瞼を閉じた。それから暫くして目を開けるといったん紅茶を飲み干す。喉が渇いていたらしい。
ずいっと飲み終わった彼の口元にそれを寄せると猊下は口を開いた。そして、彼は勢いよく俺の指ごと食む。思わず俺は吹き出してしまい、笑ってしまった。
まあ猊下みたいな人があーんなんかされるわけないもんな。緊張するのも当たり前だ。可愛い。もう少しからかっちゃお。
猊下の意外な面を見た気がして俺は調子に乗ってずーっと猊下が要らないと言うまであーんをした。そして俺は大満足で御飯を食べ終えたのである。
「すまない。怖かったか?」
「あ、ううん。ちょっとびっくりしただけ」
「そうか。立てるか?」
「うん」
猊下が手を俺に差し出してくる。おお、エスコートしてくれるのか。もう俺の手は汚くないのですぐにその手を取った。ぴくりと一瞬猊下がその手を震わせたが、優しく俺の手を握った後に手を引いてくれる。こんな子供でも丁寧に扱ってくれる。流石猊下。
「お兄ちゃん、よく寝れた?」
「ああ」
「そっか! 良かった!!」
だよね!バッチリ寝てたの見たし俺。一時だけだけど少しぐらいは寝られたようで良かった。とりあえず、俺の寝相が悪くて猊下を蹴ったかどうかは聞かないでおこう。何を言われても困るので知らないふりをした方が良いに決まっている。寝てたし本当かどうかは分からないしね!!
「お腹すいてるだろう? 今使用人に御飯を持ってこさせたからいっぱい食べろ」
「お、おおおおっ!!」
猊下がそう言って俺をソファまで連れて行く。そして、少し背の高いソファに抱っこされてそこに下ろされた。おお、お尻が沈む!!それに感動しながらも、目を奪われるのは目の前の豪華な食事だ。温かいスープにふかふかで柔らかそうなパン。野菜たっぷりのサラダに、オレンジジュースの入ったピッチャーなどが机いっぱいに置かれている。
美味しそうで温かそうなその食事に俺のお腹はくうっと音を鳴らして空腹を知らせた。
「食べて良いの!」
「ああ」
「わーい!! いただきまーす!!」
向かい側の一人用ソファに腰掛けた猊下が優雅に足を組む。猊下は紅茶を飲むためにポットからカップにそれを注いでいた。猊下は紅茶派のようだ。俺はコーヒー飲みたいかな。ブラックは無理だけど、牛乳で割ってカフェラテにして飲みたい。
確か、この時代にはコーヒーがあったはずなので大人になったら飲みたいな。今は出されたオレンジジュースを飲む。大きなピッチャーに手を伸ばしてジュースを飲もうとすると俺がそれを取る前に猊下が手に取った。そしてコップに注いでくれる。気が利くなぁ。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「ああ」
俺は猊下の淹れてくれたオレンジジュースを飲んで、他のものに手を伸ばす。ソーセージ美味しい!スクランブルエッグ美味しい!スープは三種類ぐらいあってコーンスープを飲んだ。これも当然美味!
あぐあぐと公爵家の美味しい御飯を堪能していると、ふと猊下が紅茶以外口にしていないことに気がついた。ぴたりと食べ物に手を伸ばしていた手を止めてじっと猊下を見つめる。すると、同じように俺を見ていた猊下と目が合って彼は首を傾げた。
「どうした。もう要らないなら下げさせるが」
「お兄ちゃん食べてないよね?」
「私のことは気にするな」
「……」
猊下!!だからあんた精神不安定になるんだよ!!食べ物食べないと力でないでしょ!?心が弱くなっちゃうんだよ!?
俺は持っているクロワッサンをちぎってソファの上から飛び降りる。そして猊下に駆け寄ってちぎったクロワッサンを猊下に差し出した。
「食べて」
「え、い、いや、こんな……」
「食べないなら俺も、ずーっと御飯食べない」
事実、あの孤児院にいた時は一週間に一回御飯をくれるかくれないかぐらいだった。貰っても残飯の寄せ集めみたいな御飯で食べない方がましと思うぐらいにはまずいものだった。だから俺は、魔術を使い食事をしなくても餓死しないように調整をしていた。お陰で今の今までほとんど水生活である。
猊下も似たような手法をとって今まで生きてきたのだろう。しかし、俺みたいな食事もまともに食えない子供から言わせればなんていう贅沢!である。とはいえ、猊下にも猊下の事情があるのは百も承知。ならば、俺も彼に合わせて食べない方が良いだろう。口惜しいが、拾ってくれた人が食べていないのに俺だけバクバク食べるわけにはいかない。普通に気まずいし!!
出来れば、これで猊下が少しでも御飯を食べてもらえればいいがと少しばかりの希望を持っていると指に何かが触れた。
「ひゃっ!!」
驚いてそちらを見ると猊下が俺の指ごとクロワッサンを食べている。おおい!!それは俺の指ぃ!!!
「お、俺の指まで食べないで!!」
「す、すまない……」
ぱっとすぐに食べられた指を自分の元に引き寄せる。すると、猊下は申し訳なさそうな声を出して謝った。
いや、うん。確かにびっくりしたが今猊下は俺のクロワッサンを食べてくれたのだ。これは大きな一歩じゃないか?指まで食べられたのは予想外だけど。
「でも、食べてくれてありがと!! もっといる?」
「いる」
食い気味で猊下がそう言ってきた。なーんだ!お腹すいてたんじゃん!
俺は猊下の返答ににっこにこになってもう一度クロワッサンをちぎって彼の口元に寄せる。ついでに足の上によじ登った。
「分かった! はい、あーん」
俺の声に反応して猊下が口を開く。今度は慎重に俺の指を食べないようにクロワッサンを咥えて食べた。俺はそれを見て面白くってクスクス笑ってしまう。
「いいよ、俺の指ごと食べても」
「え」
すんごい気を遣っているのが分かるので俺はそう言ってもう一度ちぎってクロワッサンを渡す。一瞬猊下が動きを止めた後、すーっと瞼を閉じた。それから暫くして目を開けるといったん紅茶を飲み干す。喉が渇いていたらしい。
ずいっと飲み終わった彼の口元にそれを寄せると猊下は口を開いた。そして、彼は勢いよく俺の指ごと食む。思わず俺は吹き出してしまい、笑ってしまった。
まあ猊下みたいな人があーんなんかされるわけないもんな。緊張するのも当たり前だ。可愛い。もう少しからかっちゃお。
猊下の意外な面を見た気がして俺は調子に乗ってずーっと猊下が要らないと言うまであーんをした。そして俺は大満足で御飯を食べ終えたのである。
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