【完結】断罪された神子様は、前世養父だった冷徹公子に溺愛される。

紫鶴

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第一章 悪役神子様、改めラスボスです☆

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「ひとまず、その子の養子縁組の書類を作るとして名前は?」


 お父様がそう聞いてきた。俺に聞いてきたんだろうと思い名前はないと答えようと口を開く。しかし――。


「アルカルド」


 猊下が、そう答えた。

 それは、もしや俺の名前として考えてくれたのか……?いやいや、それとも前の人の代わりとか……?

 どちらにせよ、今の俺にも名前がないのでありがたく使わせて貰うことにしようと思う。後者だった場合申し訳なさ半端ないが、決めたのは猊下なので!!
 それにしても、猊下から貰った名前の羅列だと「アルカのもの」になるな……。

 金の悪魔がいた時代の聖王国で使われていた文字の発音に則るとそういう意味になる。今の時代、魔術を使えるようになった成り立ちとして記録は残っているだろうが原本は風化してほぼ無くなっていると思われる。古い歴史を保護するような力はこの世界にないのだ。それに昔の記録はない方が何かと都合が良い。残って貰っても困る。物語の矛盾が発生する確率が上がるしね!

 一応、その時代に生きていた人物なので思わずそう翻訳してしまったが、まあ猊下が意図してつけたわけではないだろう。アルカって誰?って話だし。


「アルカのもの? それだったらカロルドにしてカロのものにしたほうがよくない?」
「!」


 あれ!?このお父様遙か昔の文字を正確に訳したな!もしや普通の騎士様じゃなくて聖騎士とかそういう奴!?だったら納得なんだけど……。

 驚いてお父様の内情を探ってしまうとぐっと眉間にしわを寄せた猊下が不愉快そうに声を出す。


「……なんで分かったんですか」
「息子のことは知りたいから」


 猊下は、ため息をつくことで次の言葉をどうにか抑えていた。俺もこんな父親はいやだな。過干渉で過保護すぎる……。猊下が必死で調べてつけた名前なのにあっさり父親に見破られたと考えると本当に気の毒。親にエロ本見つかった時と同じくらい恥ずかしくていやな思いをしている気がする。気持ちが分かる。

 うんうんっと一人で頷いていると、猊下はすっと表情を変えてまっすぐにお父様にこういった。


「それでいいんです。ずっと考えて呼べる日を楽しみにしてたんですから」


 そして、優しい表情を俺に向ける。彼の慈愛の目で見つめられたら、胸がきゅってなる。ドキドキして、彼と、そう彼とキスしたことを思い出してしまうじゃないか!!!

 ばっと赤くなった顔を見られないようにそっぽを向いて、猊下の胸に顔を埋める。何で俺にそんな慈悲深い笑みを浮かべられるのかまるで見当がつかない。そんなにこの金が気に入ったということだろうか。金が、好きだから……。

 そう考えたら胸がチクチクし始めた。

なんてことだ、猊下と関わると俺の胸は変になる!!どうにかして欲しい!!


「ふーん? まあいいや! 分かったから後処理はお父様に任せて、アルカルドを休ませてあげて。突然色々起きて疲れてるだろうから。頼んだよ、お兄ちゃん」
「はい。それでは失礼します」

 そう言って猊下は俺を連れて部屋を出ようとした。結局俺はこの家の子になってしまったようだ。強引に手続きを進められたが、まあ、後で抜け出せば良いかと考える。俺はラスボスなのでそういうのは得意、のはず!!

 しかし、これからお世話になるのは変わらない事実。ならばきちんと挨拶をするべきだ。


「え、あ、こ、これからよろしくお願いします!!」
「ええ! そんなことも言えるの!! 良い子じゃん!! あー! もっとおしゃべりしたいぃ!!!!」


 そんな悲壮感漂う声を出すお父様を無視して猊下はすぐに扉を閉める。猊下は無情だ。誰にでも容赦ない。
 そう思っているとじっと猊下が俺を見つめてくる。なんだろうかと思っていると彼は一言。


「私の部屋に行く」
「あ、えーっと、よろしくお願いしますお兄ちゃん……?」
「敬語は要らない」
「え、あ、う、うん」
「うん、良い子」
「!!」


 猊下にそんなこと言われるとは思わなかったので、動揺しながらそう俺は答える。すると彼はまたしてもふわりと柔らかい笑みを浮かべた。前世では全く見たことのない顔だ。いつも彼は険しい顔か、無表情かで近寄りがたい雰囲気の御方だった。だからこんな顔をされて驚かないわけがない。

 い、いや、前の洗礼された美しい猊下が嫌いとかそういうわけではないんだけど、でもこっちの雰囲気の猊下も良いというかなんというか。

 つまるところ俺は、またしてもぎゅうんっと胸が締め付けられるような思いをしたと言うことだ。
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