【完結】断罪された神子様は、前世養父だった冷徹公子に溺愛される。

第一章 悪役神子様、改めラスボスです☆

４－２

　頼みの綱はもう貴方しかいない！とこの場で唯一助けを求められる人物を見ると彼は再び泣いていた。息子の狂ったような発言に悲しくて泣いているのだろう。激しく同意。


「カロにもそんな子が出来たんだね！！　良いよ！　その時が来たらいつでも捨てて二人で逃げるんだ！」
「え！？」


　お父様今なんて！？嘘だろ！蛙の子は蛙っていう奴だった！？

　全く別の感情で彼が泣いていたことを知ってしまい、愕然とする。うわああああどっちもやばい奴だったぁ！！！！

そんな俺を間に挟み、もう一度猊下は紙をお父様に渡す。


「ご理解いただき、ありがとうございます。ではサインを」


　猊下はひたすらにそれにこだわる。本当にこの人から離れるつもりなのだろうか。そんなのだめだ。
　猊下と二人で過ごすのはそれはそれで楽しそうだけど！！でも俺にはラスボスになって主人公達をくっつける義務があるので今度こそ猊下を巻き込むわけにはいかない！

　前世の神子時代を思い出して、頭が痛くなる。あんなのは望んでいた終わりじゃない。善良な人間は救われるべきだ。俺のように悪役として選ばれた人間に巻き込まれて死ぬべきじゃない。

　頼む！絶対に猊下を止めて俺だけ追い出してくれ！！！

　そんな俺の願いは叶えられお父様は目の前でそれを破り捨てた。


「それとこれとは話が別！！　容姿で僕は差別しません！！」


　流石善良な人間の親！素晴らしい思想をお持ちで！でもそこは別に差別して良いよ！？俺のことはそこら辺に捨てて良いんだけども！！

　俺はそう思いながらもひとまずこの場で猊下が縁を切られることはないだろうと安心する。猊下の年齢は分からないが、まだ親元を離れるには早いと思う。貴族なんだし、なんか学院とか通ってるんじゃない？このラスボスの俺も貴族の息子になりすましてお貴族様の学院に通っていたんだから！

　ゆくゆくは、国の中枢を担うような人物になりそうだもの猊下！だって前世枢機卿だぞ！教皇の次に偉い二十人のお偉いさんだぞ！？絶対あのまま生きてれば猊下教皇までのし上がったもん！猊下はそれ位のハイスペな登場人物なんだ！何でモブなのか分からない位すんばらしーい御方なんだからな！！

　だから俺みたいな悪役には構わないで欲しい！！貴方の人生をまた全て滅茶苦茶にしちゃうから！！

　またしても猊下のお父様に頼むぅ！俺を見捨ててくれぃ！と念を送る。善良な人間でも貴族という体裁があるのだから金髪金目の爆弾を抱えるリスクは負わない、はず。しかし、一抹の不安が胸をよぎる。貴族だから、俺みたいな爆弾、持たないよね？ね？


「その子もうちの子！　新しい僕の息子ちゃん！」


　ジーザス！！神友は俺を見捨てた！！おおい！仕事しろぉ！！！どこほっつき歩いてるのか、どこにいるのか分からないけどあんたの世界なんだからどうにかして！？


「……この子は私のです。私の子です」
「それだと結婚難しいよ？」
「……」


　猊下が何故か黙り込んだ。どうしてそこで黙るの？俺と結婚しても何も徳ないよ？いやそんなこと考えても意味なんだけどね？この人の息子になるか猊下の息子になるかの二択しか今俺にないんだよ。誰か、第三の選択肢を出してくれないかな？名門貴族にこんな薄汚れたくそガキは要らん！！みたいな。


「あ、あの、俺薄汚れたくそガキですけど……」


　誰も言わないから俺が言いました。俺は出来るラスボスなのだ。声が小さいとかそういうのは良いんで。声を上げることが大事なんでこの場合！！ええ！怖じ気づいていませんが！！ちょっとこの英雄、もしかしたら子煩悩なだけでその他には冷たいとか良くある設定かもって思ってびびってませんから！！

　きゅっと猊下の服を握ってそろそろとそちらを見る。彼の涼しげな瞳と目が合った。すると彼はその目をまん丸にして俺を見つめる。


「わあ！　ちいちゃくて可愛いのに、声まで愛くるしいなんて！　どんな徳積んだらこんな子にお目にかかれるの？」
「徳を積んでも欲しいものは手に入らないので無意味です」
「相変わらず厳しいこと言うなぁ」


　あんなに神に仕えていた猊下の口から徳が無意味なんて出るとは……。本当に記憶ないんだな。まあ俺も徳積んだら絶対に良いことが起きるとは言わないけども。

　そんなことを考えていたらお父様が少しかがんで俺と同じ目線になる。その美しい顔面に驚いて再び猊下の服を握りしめてしまった。そんな俺を安心させるようににこっと笑顔を見せると汚い俺の髪に触れて頭を撫でる。


「さて、賢い君の問いに答えようか。勿論、構わない。そんなことで家門に傷はつかないし、くそガキ具合だったらカロも負けてないからね！」
「お、お兄ちゃんはそんな人じゃないです！！」


　猊下がくそがきだったら俺はなんだって言うんだ！ゴミか！？
　思わず俺がそう言うとはっはっはっとお父様は笑い声を上げる。


「良かったねぇ、カロ。お前の一方通行ではないようだ」
「さあ？　単に初めて親切にしてくれたのが私だっただけかと」
「そういうところは後ろ向きなのね。おもしろー」


　そう言ったお父様の手を猊下ははたいて俺の頭の上からどける。そしてさっと俺を横にして距離をとり猊下はお父様を射殺さんばかりに睨んでいた。俺はその絶対零度の視線を向けられたら背筋が凍る思いをするのだが、流石父親、なんとも思っていないのか寧ろ愉快そうに引き続き笑っていた。強い……。子供に嫌われたって泣いてた人とは思えない……。