上 下
6 / 75
第一章 悪役神子様、改めラスボスです☆

3-2

しおりを挟む
 なーんて、息巻いていた俺でしたが大変場違いな家に潜り込みました。


「ここだ」
「へ……?」


 なんということでしょう。

 猊下が住んでいる場所はここらで知らない者はいない、かの有名な公爵様のおうちではありませんか!

 奉仕活動の一環として、孤児院の寄付、医院の設立等々模範的なノブレスオブリージュを行っている大貴族。その上、俺が生まれる前、この王国に突如として現れた竜を倒したとされる英雄が当主である。

 きゅっと俺は口を閉じる。広い庭を馬車で通り、漸く屋敷の玄関が見えた。御者が扉を開いて、猊下が先に降りる。そして慣れたようにすっと手を差し出した。


「少し高いから気をつけろ」

 はー、貴族として育てられてるから所作が美しいですね!まあ、昔から猊下は気品溢れる御仁ではありましたが!お陰で猊下に憧れる人たちが後を絶たなかった。猊下は容姿もさることながら、まさしく聖人君子を笠に着た御方である。

 そんな御方の様になっている行動に、思わず惚けてしまうがはっとして首を振る。


「俺の手汚いので……」


 そう、忘れてはいけないのが俺は今汚い孤児。こんな綺麗な馬車に乗せて貰っているだけで過分なのに、猊下の綺麗で玉のような肌を汚したらいけない。

 だから俺は、彼の手を取れないことを伝える。するとじっと俺を見つめた猊下がこてんと首を傾げた。
 何それ、可愛いんだが。俺を悩殺してどうするの!!


「じゃあ、どうやって降りるんだ?」


 至極真面目に彼がそういうもんだから、一瞬そんなに特殊な降り方が必要なのかと勘違いしそうになる。ただ単に、馬車から降りるだけなのにそんなものがあるわけがない。作法とかは分からないのでそこは目をつぶって貰いたいが……。


「普通に降りられます!」
「そうか」


 猊下に俺はそう言って手を貸す必要がない事を伝える。すると、思いのほかあっさりと猊下は引き下がった。まあ、単に親切心から手を差し伸べてくれたのだろう。そういうのは、猊下が好きな人にやってくれ。
それに、今年で一応俺も12、3歳くらいの男の子だ。人より小さいとはいえ、これぐらいの馬車一人で降りられる。

 俺は軽く猊下の心遣いに苦笑をしつつ、一歩足を踏み出す。その瞬間がくっとバランスを崩した。何故かって?自分の予想よりも遙かに地面が遠かったのである。

 まじか!こんなに馬車高かったのか!

 予想できる衝撃に身を固くする。すると、俺が転ぶ前に猊下の手が伸びて俺を抱きしめた。簡単に彼の細腕にすっぽり収まる。

 俺よりも背が高く年上で、俺がガリガリで痩せ細っているからってこんな簡単に受け止められるものなのか……?もしや、猊下ハイスペでは……?
 困惑でそんなあほなことを考えつつも、お礼を言おうと口を開き体が浮いた。


「!?」
「行くぞ」
「いや、え!?」


 肩に俺は担がれていた。この運び方には大変覚えがある。いつも猊下が俺をかっぱらうための運び方だ。主に、面倒な相手に呼び止められてくどくどと説教を受けているときに発動する。

 「この者に話がありますので失礼」と持ち上げるのだ。いつもいつも俺は、待って、成人男性の運び方じゃない。お姫様抱っこしてとは言わないが肩痛くするかもしれないから今すぐやめた方が良い!!と心の中で思っていた。

 それがなぜか、今行われている。抵抗して俺が落ちるのはかまわないが、猊下に怪我をさせてしまうかもしれない。そう考えてがちっと固まってしまうと、ふっと猊下が少し笑った。


「変わらないんだな。そういうところは」


 彼がそう言ってくすくすと笑い声を上げる。なんで笑っているか知らないが、貴重な一面な気がすると俺の勘が囁いていた。

 そして俺は、その格好のまま綺麗なお屋敷に連れて行かれるのである。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

処理中です...