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16歳の俺
第4王子16歳 13
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ユアン兄さまの用事はその間にも終わらなかった。アルトの目がある為、孤児院出身者に声をかけることが出来ずにうろうろと教室を覗くだけになっている。不審者じゃん。
お腹すいてきたし、ルチアーノ置いてきてるし。早く帰りたいんだけど。というか、ユアン兄さま、なんで俺が出ようとしたの分かったんだろう。何か、ユアン兄さまの魔術か?それがなければ、と言うかそれが分かれば対策が練れるのに。なんだろう、気になってきた。ユアン兄さまを研究しようかな。楽しそう。
そして、昼休みを迎えてしまった。教室から生徒がどかどか出ていく。ローブの俺とアルトはかなり目立つ。主に、アルトの顔のせいで。まあ、中にはこのローブの事をよく知っているのか恭しく頭を下げてくる。このローブには俺には知らない何かがあるのだろう。
とはいえ、かなり時間を食った。
これはいけない。ルチアーノがお腹を空かせて待っている。帰ろう。ユアン兄さまには自分で帰ってもらおう。
「アルト、俺帰……」
「アルト!」
そこで、誰かが声をかけた。その声が聞こえた瞬間、ざわりっとアルトの雰囲気が変わる。
敵意だ。殺気ともいえるそれに、俺は唖然とするしかない。
俺の前に出たアルトはその声をかけてきた人物を睨みつけた。
「何の用でしょうか?ティファ―ニアさん」
ティファ―ニア!あの!例の彼だってぇ!!
アルトの言葉に彼を俺は二度見した。くすんだ赤色のくせ毛に潤んだ青色の瞳。守ってあげたくなるような可愛い容姿。
ほあー!可愛いー!
そんな事を思いながら、観察していると一瞬だけちりっと黒い靄が見えた。よくよく見るとそれが人の形に見えてくる。髪の長い女性だろうが、顔が髪に隠れていて、怖い。
びくっと体震わせ悪く思われないように兎に角挨拶をしておく。
「あ、は、初めまして」
「え?」
思わずその人に挨拶をしてしまう。ティファ―ニア君が驚いて声をあげた。ごめん、違うの。君じゃないの。いや、君も初めましてなんだけど俺にとっては。
「あ、えーっと、違くて、その、彼女の名前は?」
「か、彼女……?」
え?何その反応。
ティファ―ニア君もきょとんとしてるし、アルトもは?みたいな顔してるし。いやいや、いるんじゃんそこに。ティファ―ニア君の肩に顔のっけて、ねえ!?いるよね!!??
やめてよ!こんな真昼間から幽霊出るとか!
面白すぎて君から離れられない!!
「……ごめん、気のせいだった!ねえねえ君、名前はなんていうの?俺はキルト!」
このサンプルを逃がしてはならないと俺の研究者魂がそう叫んでいる!!
がっしりと手を掴んで明るい声を出す。警戒心を持たれるだろうが、絶対に友人までにはこぎつける。フードを取りたいが、ここで俺が王子様だって知られるとティファ―ニア君の立場も悪くなるだろうからここはアルトの友人ってことで通す!!
キルト!今だけ名前借りるぜ!
念話で彼にそう告げるといいよ~っと間延びした声で了承を得た。へっへっへ。逃がさない、この面白サンプル!
実際幽霊なんか見たことがない。いや、これを幽霊と断定するのはまだ早いがそうした方が楽しいので暫定として幽霊として、名前を仮に髪長っ子ちゃんとする。後々この認識を改めればいいのだ!実験ってそんなもん!
こてんっと顔が見れなくてもそれなりに可愛い仕草をして相手の気を引く。これ、顔が見えない今だからこそ俺でも可愛く見えるが顔見えたらは?というような顔をされるだろう。全力媚媚モードの俺なんか見ても頭おかしくなったんじゃねーか?って思われるだけ。
「あ、ええっと、ティファ―ニアです。アルトのお友達ですか?」
「うん!俺もティファって呼んでいいかな?」
「ど、どうぞ」
「嬉しい!そうだ、これからお昼ご飯食べようと思ってたんだけど一緒にどうかな?」
「で……キルト様、それは……」
「いいよね?」
アルトに圧をかける。アルトは静かに口を閉じて頭を下げる。俺に逆らおうなんて思わないことだ!なんせ俺は第四王子だからな!肩書は!!
「ダメかな?」
「あ、い、いえ!ぜひとも一緒に食べましょう、キルトさん」
「キルトでいいよ、ティファ。アルト、席取って置いて?」
「承知しました」
「あ、なら僕も……」
「アルトに任せていいよ。俺たちはゆっくり行こう?俺君に興味あるんだ」
ティファ―ニア君の肩に手を回す。アルトはちらっと俺を見たがそのまま食堂に向かった。俺は、二人になったところでティファ―ニア君を見る。
「ここでは何を勉強してるの?」
「え?あーっと、剣術とか、魔術とかを勉強します」
「へー!ここを出たらティファもそういうところに就職したりするのかな?」
「いや、僕は……」
そう言ってティファ―ニア君は目を伏せた。まあ、人それぞれの事情があるのだろう。君には今まで王子を代わってくれた恩があるからそれなりに対処ぐらいはしてあげてもいいけど。まあ、相手が話し始めたらでいいか。
「俺も魔術系には結構興味があってね。学院ではどんな事を学んでるのかなー?って見学しに来たんだ」
「そ、そうなんですか」
「そうそう。因みにティファはどんな授業をうけてるの?」
「ぼ、僕ですか?僕はえーっと、魔術の基礎とか、実際に使ってみたりとかしてます」
「へー!」
この事話して分かったことは、俺の事をひどく怯えているということ。アルトにはアルトー!って気さくだったのに二人きりになった瞬間俺苛めてる感じがする。なんか、びくびく怯えられてる。そろそろ俺に対しての警戒心を緩めてほしいんだけど。フード被って怪しいと思うだろうが!
「ティファーっ!!」
すると、彼の名前を呼ぶ声が。其方を見れば暫定的に決めつけたマイクがいる。俺に気付くとあっと声をあげて頭を下げた。マイクの登場にティファは少し表情が和らぐ。
しかしマイクは慌ててティファに近寄って頭を下げさせた。ティファが驚いて声をあげるが構わずマイクも頭を下げた。
「も、申し訳ありません殿下!その、こいつ、誰にも物怖じしないっていうか、悪気はないんです!!」
「え?あ、ああ、気にしないで?アルトの友人だって知ったから俺が話しかけてたんだ。ついでにお昼一緒に食べようって食堂に向かってたんだよ。良ければ一緒にどう?」
「え!?あ……」
マイクが迷ったような顔をして俺とティファを見る。
多分ティファが心配だけど俺が王族だからビビってるんだろうな。でも安心して。
「非公式だから気にしないでいいよ。あと俺第四王子だから大した権限も権力も持ってないから、成績に響く~みたいなことないから」
顔の前で手を振るが、マイクの顔はこわばっている。まあ、普通はそうとは思えないよね。俺もたとえ誘われたとしても絶対行かねえ。
とはいえ、来てもらわないと困る。この完全に緊張しているティファをリラックスさせるためにも。まあ面倒見良いから来ると思うけど。
あははっと笑い声をあげると、不意にフードがとられた。
へっとぽかんとしていると、クリアになった視界でティファと目が合った。その瞬間、彼の周りに黒い靄がかかり彼の肩にいた女性が消えた。呆気に取られているとティファが、がしっと俺の手首を掴む。そして、黒い炎がその手から溢れた。
「っ!?」
これはっ!
「ティファっ!?おい、何してんだよ!!」
「触るな!!」
マイクが触れようとするのでそれを制す。俺のきつい声にびくっと体を震わせて固まる。
すまん、怯えさせるつもりはなかったんだけどこれは触れたら移る呪い火。死霊系魔術で悪魔の炎と呼ばれる。
その所以は黒い火に覆われたところから徐々に黒くなって腐っていくものだ。悪魔の攻撃と似たような効果から素呼ばれているのだ。
じりじりとその部分が徐々に熱く痛くなっていく。しかしそれよりも俺の手首を掴む彼の手が震えていたことの方が気になった。
「ティファ……」
「し、失敗できない……いやだ、いやだ……来ないで、やめて、できるから……っ!」
「ティファっ!」
ぶつぶつと何か呟き虚ろな目の彼の名前を叫んだ。それから掴まれていない手で肩を掴み揺さぶり、強く彼の名前を叫ぶ。彼は弾かれたかのように俺の目を見て何か呟いた。
しかしその瞬間俺とティファの周りに風が巻き起こり、周りにいた人が吹き飛ばされ、扉や窓が割れる。
俺とティファの周りには黒い竜巻のようなものが発生し、それがどんどん膨張していく。
はっ、はっ、と激しい風に息がしずらいのかティファの呼吸が荒くなる。俺は一先ず呪い火の進行を止めつつ、今度は腕を掴んで座らせる。
「っ!は、離して……っ!」
「落ち着いて。君の魔術は発動してるから」
「離して!!いやっ!!」
「落ち着いて、落ち着いて。ほら、深呼吸」
興奮しているが、依然として俺の手首を離そうとせずに握りしめている。俺は兎に角目の前のその子を宥めるように腕を摩ったりしつつ、足を払い転ばせた。
ぐらっと突然体が傾いてティファが悲鳴を上げ、手が離れた。呪い火の移っている手ではない方で彼の体を支えつつゆっくりと床に降ろす。不意を突けばこの竜巻も消えるかと思えばそうではない。
そのまますとんと床に降ろして、ティファが落ち着くのを待つ。
「ぅ、うぅ……」
「大丈夫……?」
声をかけると、ティファがはっとしたように俺を見て、戸惑いの表情に変わり自分の顔を触る。
「あ、あれ……?なんで僕まだ起きてるの……?」
「……?一先ず落ち着いた?」
「あ……」
そしてびくりと体を震わせて俺から距離を取ろうとするが周りの竜巻にひっと声をあげて慌てて近寄る。それからおどおどと真っ青な顔で俺と床を交互に見て俯く。
「えーっと、どうして俺にこんなことしたのかなー?……なんて」
「……」
まあ、話さないよね。俺としてはこの呪い火受けた腕でどんな実験しようかワクワクしてるけど。あと、あの女性がどこに言ったのかも気になる。あとこの竜巻、どうやったら収まるんだ?
さっさと蹴りつけないとこの腕の実験すらできなくなる。
よくある逆回転させて相殺していく方法で打ち消そうと魔法の準備を行うと突然奇声が響き渡った。
「ギギィャアアアアアッ!!」
「ひっ!」
「ティファっ!」
不愉快気に眉を顰めティファの方を見ると竜巻から黒い手が伸びている。それから逃れるようにティファの腕を掴んで引き寄せ、溜めていた魔力をただ放出する。ずがんっと激しい音を立ててぽっかりと竜巻に穴が開いた。壁やら何やらが貫通していたがそれは見ないふりをする。ユアン兄さまがどうにかしてくれる。
ただ、その穴はすぐに塞がれてしまった。うーん、これ誰が起こしてんの?
というか、折角落ち着いてきたのにティファがまた呼吸が荒くなってる。大丈夫か君。
そう思っているとまた声が聞こえた。ノイズ交じりのその声にびくりと腕の中にいるティファの体が震える。
「―――レ」
「は?」
「―――ワレ」
「なに?良く聞こえない」
「―――カワレ!!!」
「……え?」
その瞬間また手が伸び、先ほどまでティファの肩にいた女性が上半身の姿を現す。
まさかこの竜巻、この女性が出したのか!えー!すっごぉい!死んでるのによく干渉できるね!怨霊とかいうやつ?東洋呪術はあまり詳しく知らないんだけどそう言う事例ってあるのかな?待って待って。俺霊媒師じゃないけど声聞こえてるからもしや対話できる?
とはいえ、ここは要求を呑むべきだろう。サンプル……被験者に不快な思いをさせずに協力してもらわなければ。
んんっと咳払いをしてにっこりと笑顔を見せる。
「こんにちは、初めまして。俺はアズールって言うんだけど、君はなんていう名前かな?」
「カワレ!カワレカワレ!!オマエハフヨウ!ムノウ!シネヤクタタズガアアアアアッ!」
「……えーっと、俺の言葉通じてる?」
「コロセ!ジャマモノハコロセ!アノカタノハドウノジャマニナルモノハコロセ!!」
「……うーん、俺は彼女の言葉が分かるけど逆は分からないってことだなこれ。霊媒師じゃないと会話が成り立たないのか……。じゃあ生かして捕らえて、俺が霊媒師になるまで保存するか。それから色々実験しーよお!」
時間を停止させてカプセルかなんかに入れておけばいいだろう。今までも似たようなものを保存したことがある。
霊媒師スキルをどうにか習得したいな。東洋の国に行けばいるかな。俺王子だし留学できそう。その前に交友があるかどうかか。それは俺のパパにどうにかしてもらおうかね。
うんうんっと頷いて準備をしようとするとその瞬間竜巻に一閃の刃が入り霧散した。そしてまばゆい光と共に女性の悲鳴が沸き上がる。彼女の体が見事に霧散してしまった。
ひえっと俺は真っ青になって小さく声をあげた。
「殿下!」
「弟!ちょとこれどういうことっ!?」
アルトとユアン兄さまの声が聞こえる。
確実にアルトがその刃で竜巻をぶった切り、ユアン兄さまの神聖魔術で弱らせたのだろう彼女を。幸いなことにワンパンではなかった。それほどまでに彼女は強かったのか、アルトたちが俺たちを考慮しての力加減だったからなのかは分からない。どちらでもいいが兎に角彼女が生きているだけでこの瞬間に感謝。
しかし、二人は俺のことを背後に黒い霧から体を形成していく女性に攻撃態勢を取っていた。
あああああああああああっ!!
「やめてえええええっ!その人貴重な俺のサンプルなのおおおっ!!」
思わずそう叫んで黒くなった方の手を出してしまう。それを見た二人が動きを止めた。そして、その瞬間空気が重く冷え切る。
「……アルト分かってるよな?」
「ええ勿論です」
ユアン兄さまの周りに魔力が集まりローブがなびく。そしてアルトは持っている剣に魔力を乗せて刃から冷気が発せられていた。
誰がどう見ても本気ぶち切れモード。
やめてよおおおおっ!何かよく分からないそれを観察して実験して何なのか見極めたいのにいいいいっ!!
お腹すいてきたし、ルチアーノ置いてきてるし。早く帰りたいんだけど。というか、ユアン兄さま、なんで俺が出ようとしたの分かったんだろう。何か、ユアン兄さまの魔術か?それがなければ、と言うかそれが分かれば対策が練れるのに。なんだろう、気になってきた。ユアン兄さまを研究しようかな。楽しそう。
そして、昼休みを迎えてしまった。教室から生徒がどかどか出ていく。ローブの俺とアルトはかなり目立つ。主に、アルトの顔のせいで。まあ、中にはこのローブの事をよく知っているのか恭しく頭を下げてくる。このローブには俺には知らない何かがあるのだろう。
とはいえ、かなり時間を食った。
これはいけない。ルチアーノがお腹を空かせて待っている。帰ろう。ユアン兄さまには自分で帰ってもらおう。
「アルト、俺帰……」
「アルト!」
そこで、誰かが声をかけた。その声が聞こえた瞬間、ざわりっとアルトの雰囲気が変わる。
敵意だ。殺気ともいえるそれに、俺は唖然とするしかない。
俺の前に出たアルトはその声をかけてきた人物を睨みつけた。
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ティファ―ニア!あの!例の彼だってぇ!!
アルトの言葉に彼を俺は二度見した。くすんだ赤色のくせ毛に潤んだ青色の瞳。守ってあげたくなるような可愛い容姿。
ほあー!可愛いー!
そんな事を思いながら、観察していると一瞬だけちりっと黒い靄が見えた。よくよく見るとそれが人の形に見えてくる。髪の長い女性だろうが、顔が髪に隠れていて、怖い。
びくっと体震わせ悪く思われないように兎に角挨拶をしておく。
「あ、は、初めまして」
「え?」
思わずその人に挨拶をしてしまう。ティファ―ニア君が驚いて声をあげた。ごめん、違うの。君じゃないの。いや、君も初めましてなんだけど俺にとっては。
「あ、えーっと、違くて、その、彼女の名前は?」
「か、彼女……?」
え?何その反応。
ティファ―ニア君もきょとんとしてるし、アルトもは?みたいな顔してるし。いやいや、いるんじゃんそこに。ティファ―ニア君の肩に顔のっけて、ねえ!?いるよね!!??
やめてよ!こんな真昼間から幽霊出るとか!
面白すぎて君から離れられない!!
「……ごめん、気のせいだった!ねえねえ君、名前はなんていうの?俺はキルト!」
このサンプルを逃がしてはならないと俺の研究者魂がそう叫んでいる!!
がっしりと手を掴んで明るい声を出す。警戒心を持たれるだろうが、絶対に友人までにはこぎつける。フードを取りたいが、ここで俺が王子様だって知られるとティファ―ニア君の立場も悪くなるだろうからここはアルトの友人ってことで通す!!
キルト!今だけ名前借りるぜ!
念話で彼にそう告げるといいよ~っと間延びした声で了承を得た。へっへっへ。逃がさない、この面白サンプル!
実際幽霊なんか見たことがない。いや、これを幽霊と断定するのはまだ早いがそうした方が楽しいので暫定として幽霊として、名前を仮に髪長っ子ちゃんとする。後々この認識を改めればいいのだ!実験ってそんなもん!
こてんっと顔が見れなくてもそれなりに可愛い仕草をして相手の気を引く。これ、顔が見えない今だからこそ俺でも可愛く見えるが顔見えたらは?というような顔をされるだろう。全力媚媚モードの俺なんか見ても頭おかしくなったんじゃねーか?って思われるだけ。
「あ、ええっと、ティファ―ニアです。アルトのお友達ですか?」
「うん!俺もティファって呼んでいいかな?」
「ど、どうぞ」
「嬉しい!そうだ、これからお昼ご飯食べようと思ってたんだけど一緒にどうかな?」
「で……キルト様、それは……」
「いいよね?」
アルトに圧をかける。アルトは静かに口を閉じて頭を下げる。俺に逆らおうなんて思わないことだ!なんせ俺は第四王子だからな!肩書は!!
「ダメかな?」
「あ、い、いえ!ぜひとも一緒に食べましょう、キルトさん」
「キルトでいいよ、ティファ。アルト、席取って置いて?」
「承知しました」
「あ、なら僕も……」
「アルトに任せていいよ。俺たちはゆっくり行こう?俺君に興味あるんだ」
ティファ―ニア君の肩に手を回す。アルトはちらっと俺を見たがそのまま食堂に向かった。俺は、二人になったところでティファ―ニア君を見る。
「ここでは何を勉強してるの?」
「え?あーっと、剣術とか、魔術とかを勉強します」
「へー!ここを出たらティファもそういうところに就職したりするのかな?」
「いや、僕は……」
そう言ってティファ―ニア君は目を伏せた。まあ、人それぞれの事情があるのだろう。君には今まで王子を代わってくれた恩があるからそれなりに対処ぐらいはしてあげてもいいけど。まあ、相手が話し始めたらでいいか。
「俺も魔術系には結構興味があってね。学院ではどんな事を学んでるのかなー?って見学しに来たんだ」
「そ、そうなんですか」
「そうそう。因みにティファはどんな授業をうけてるの?」
「ぼ、僕ですか?僕はえーっと、魔術の基礎とか、実際に使ってみたりとかしてます」
「へー!」
この事話して分かったことは、俺の事をひどく怯えているということ。アルトにはアルトー!って気さくだったのに二人きりになった瞬間俺苛めてる感じがする。なんか、びくびく怯えられてる。そろそろ俺に対しての警戒心を緩めてほしいんだけど。フード被って怪しいと思うだろうが!
「ティファーっ!!」
すると、彼の名前を呼ぶ声が。其方を見れば暫定的に決めつけたマイクがいる。俺に気付くとあっと声をあげて頭を下げた。マイクの登場にティファは少し表情が和らぐ。
しかしマイクは慌ててティファに近寄って頭を下げさせた。ティファが驚いて声をあげるが構わずマイクも頭を下げた。
「も、申し訳ありません殿下!その、こいつ、誰にも物怖じしないっていうか、悪気はないんです!!」
「え?あ、ああ、気にしないで?アルトの友人だって知ったから俺が話しかけてたんだ。ついでにお昼一緒に食べようって食堂に向かってたんだよ。良ければ一緒にどう?」
「え!?あ……」
マイクが迷ったような顔をして俺とティファを見る。
多分ティファが心配だけど俺が王族だからビビってるんだろうな。でも安心して。
「非公式だから気にしないでいいよ。あと俺第四王子だから大した権限も権力も持ってないから、成績に響く~みたいなことないから」
顔の前で手を振るが、マイクの顔はこわばっている。まあ、普通はそうとは思えないよね。俺もたとえ誘われたとしても絶対行かねえ。
とはいえ、来てもらわないと困る。この完全に緊張しているティファをリラックスさせるためにも。まあ面倒見良いから来ると思うけど。
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へっとぽかんとしていると、クリアになった視界でティファと目が合った。その瞬間、彼の周りに黒い靄がかかり彼の肩にいた女性が消えた。呆気に取られているとティファが、がしっと俺の手首を掴む。そして、黒い炎がその手から溢れた。
「っ!?」
これはっ!
「ティファっ!?おい、何してんだよ!!」
「触るな!!」
マイクが触れようとするのでそれを制す。俺のきつい声にびくっと体を震わせて固まる。
すまん、怯えさせるつもりはなかったんだけどこれは触れたら移る呪い火。死霊系魔術で悪魔の炎と呼ばれる。
その所以は黒い火に覆われたところから徐々に黒くなって腐っていくものだ。悪魔の攻撃と似たような効果から素呼ばれているのだ。
じりじりとその部分が徐々に熱く痛くなっていく。しかしそれよりも俺の手首を掴む彼の手が震えていたことの方が気になった。
「ティファ……」
「し、失敗できない……いやだ、いやだ……来ないで、やめて、できるから……っ!」
「ティファっ!」
ぶつぶつと何か呟き虚ろな目の彼の名前を叫んだ。それから掴まれていない手で肩を掴み揺さぶり、強く彼の名前を叫ぶ。彼は弾かれたかのように俺の目を見て何か呟いた。
しかしその瞬間俺とティファの周りに風が巻き起こり、周りにいた人が吹き飛ばされ、扉や窓が割れる。
俺とティファの周りには黒い竜巻のようなものが発生し、それがどんどん膨張していく。
はっ、はっ、と激しい風に息がしずらいのかティファの呼吸が荒くなる。俺は一先ず呪い火の進行を止めつつ、今度は腕を掴んで座らせる。
「っ!は、離して……っ!」
「落ち着いて。君の魔術は発動してるから」
「離して!!いやっ!!」
「落ち着いて、落ち着いて。ほら、深呼吸」
興奮しているが、依然として俺の手首を離そうとせずに握りしめている。俺は兎に角目の前のその子を宥めるように腕を摩ったりしつつ、足を払い転ばせた。
ぐらっと突然体が傾いてティファが悲鳴を上げ、手が離れた。呪い火の移っている手ではない方で彼の体を支えつつゆっくりと床に降ろす。不意を突けばこの竜巻も消えるかと思えばそうではない。
そのまますとんと床に降ろして、ティファが落ち着くのを待つ。
「ぅ、うぅ……」
「大丈夫……?」
声をかけると、ティファがはっとしたように俺を見て、戸惑いの表情に変わり自分の顔を触る。
「あ、あれ……?なんで僕まだ起きてるの……?」
「……?一先ず落ち着いた?」
「あ……」
そしてびくりと体を震わせて俺から距離を取ろうとするが周りの竜巻にひっと声をあげて慌てて近寄る。それからおどおどと真っ青な顔で俺と床を交互に見て俯く。
「えーっと、どうして俺にこんなことしたのかなー?……なんて」
「……」
まあ、話さないよね。俺としてはこの呪い火受けた腕でどんな実験しようかワクワクしてるけど。あと、あの女性がどこに言ったのかも気になる。あとこの竜巻、どうやったら収まるんだ?
さっさと蹴りつけないとこの腕の実験すらできなくなる。
よくある逆回転させて相殺していく方法で打ち消そうと魔法の準備を行うと突然奇声が響き渡った。
「ギギィャアアアアアッ!!」
「ひっ!」
「ティファっ!」
不愉快気に眉を顰めティファの方を見ると竜巻から黒い手が伸びている。それから逃れるようにティファの腕を掴んで引き寄せ、溜めていた魔力をただ放出する。ずがんっと激しい音を立ててぽっかりと竜巻に穴が開いた。壁やら何やらが貫通していたがそれは見ないふりをする。ユアン兄さまがどうにかしてくれる。
ただ、その穴はすぐに塞がれてしまった。うーん、これ誰が起こしてんの?
というか、折角落ち着いてきたのにティファがまた呼吸が荒くなってる。大丈夫か君。
そう思っているとまた声が聞こえた。ノイズ交じりのその声にびくりと腕の中にいるティファの体が震える。
「―――レ」
「は?」
「―――ワレ」
「なに?良く聞こえない」
「―――カワレ!!!」
「……え?」
その瞬間また手が伸び、先ほどまでティファの肩にいた女性が上半身の姿を現す。
まさかこの竜巻、この女性が出したのか!えー!すっごぉい!死んでるのによく干渉できるね!怨霊とかいうやつ?東洋呪術はあまり詳しく知らないんだけどそう言う事例ってあるのかな?待って待って。俺霊媒師じゃないけど声聞こえてるからもしや対話できる?
とはいえ、ここは要求を呑むべきだろう。サンプル……被験者に不快な思いをさせずに協力してもらわなければ。
んんっと咳払いをしてにっこりと笑顔を見せる。
「こんにちは、初めまして。俺はアズールって言うんだけど、君はなんていう名前かな?」
「カワレ!カワレカワレ!!オマエハフヨウ!ムノウ!シネヤクタタズガアアアアアッ!」
「……えーっと、俺の言葉通じてる?」
「コロセ!ジャマモノハコロセ!アノカタノハドウノジャマニナルモノハコロセ!!」
「……うーん、俺は彼女の言葉が分かるけど逆は分からないってことだなこれ。霊媒師じゃないと会話が成り立たないのか……。じゃあ生かして捕らえて、俺が霊媒師になるまで保存するか。それから色々実験しーよお!」
時間を停止させてカプセルかなんかに入れておけばいいだろう。今までも似たようなものを保存したことがある。
霊媒師スキルをどうにか習得したいな。東洋の国に行けばいるかな。俺王子だし留学できそう。その前に交友があるかどうかか。それは俺のパパにどうにかしてもらおうかね。
うんうんっと頷いて準備をしようとするとその瞬間竜巻に一閃の刃が入り霧散した。そしてまばゆい光と共に女性の悲鳴が沸き上がる。彼女の体が見事に霧散してしまった。
ひえっと俺は真っ青になって小さく声をあげた。
「殿下!」
「弟!ちょとこれどういうことっ!?」
アルトとユアン兄さまの声が聞こえる。
確実にアルトがその刃で竜巻をぶった切り、ユアン兄さまの神聖魔術で弱らせたのだろう彼女を。幸いなことにワンパンではなかった。それほどまでに彼女は強かったのか、アルトたちが俺たちを考慮しての力加減だったからなのかは分からない。どちらでもいいが兎に角彼女が生きているだけでこの瞬間に感謝。
しかし、二人は俺のことを背後に黒い霧から体を形成していく女性に攻撃態勢を取っていた。
あああああああああああっ!!
「やめてえええええっ!その人貴重な俺のサンプルなのおおおっ!!」
思わずそう叫んで黒くなった方の手を出してしまう。それを見た二人が動きを止めた。そして、その瞬間空気が重く冷え切る。
「……アルト分かってるよな?」
「ええ勿論です」
ユアン兄さまの周りに魔力が集まりローブがなびく。そしてアルトは持っている剣に魔力を乗せて刃から冷気が発せられていた。
誰がどう見ても本気ぶち切れモード。
やめてよおおおおっ!何かよく分からないそれを観察して実験して何なのか見極めたいのにいいいいっ!!
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こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。
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