兄に魔界から追い出されたら祓魔師に食われた

紫鶴

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SIDEジュリアス

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その日、俺は天使を見たのである。

「え、か、可愛い。誰あの子」
「? 誰のことですか?」
「ほら、あの、金色の髪の……」

来る日も来る日も悪魔の仕業で~だの、悪魔が起こしたもので~だの明らかに害悪なそれが行ったには生ぬるすぎる事件に駆り出され疲れ切っていた俺は見た。
ガラス越しに店内を見れるカフェテリアで笑顔を見せる一人の男性。
天使の如く輝かしく、愛らしいその人を。
偶々一緒に任務を行っていた部下。アルドがああっと声を出した。

「最近雇ったっていうカナン君ですよ。お陰であそこのカフェ商売繁盛してるそうです」
「カナン……。名前まで可愛らしい……」
「……まじか。この外面男が一目ぼれって……」
「なんか言った?」
「いいえ、何でもありません」

カナン、カナン君。その外見にふさわしい名前だ。ずっと言いたくなる。
入りたい。お話したい。

「あー、あの、一応言っておきますけどそのままで入るのは……」

部下の言葉に耳を傾ける余裕もなく、欲望のまま俺は店内に入ってしまった。

「いらっしゃいま……」

―――と、彼が満面の笑みを浮かべたと思えばその表情が凍り付く。そしてぶるぶると顔色悪く震え始めたではないか。
生まれてこの方、そんな反応を見せられたのは初めてで思わず驚いてしまうと慌ててあとから入ってきた部下が「武器!武器!!」と耳打ちする。

しまった。そのままで来たから銃剣をそのまま肩に背負ったままだし、腰や足に銀のナイフやら爆発物やらを付けたまま。こんな天使の前で凶悪な姿を晒してしまい、その上怯えられてしまった事実に頭を抱えたくなる。
第一印象は最悪だろう。

その予想通り、すーっと視線を逸らした彼はきゅっと唇を噛んだ。それから己の恐怖と必死に戦って、震える声でこう言ったのである。

「せ、せきは、ごじゆうに……」
「あ……」

そして、そのままぴゅーっと厨房の方に行ってしまうではないか。

今俺はかつてない程後悔している。

ぽんっと部下が慰めるように俺の肩に手を置く。このまま帰るわけにもいかないので俺はそいつと一緒に席に着いた。するとすぐに他の店員がやって来た。

彼女たちは、武器自体に慣れている様で俺の装備を気にする素振りはない。そりゃそうだ。普通に生活していれば、こんな装備は自衛の範疇。それでも彼が過剰に反応したのはただ一つ。

「なんか、外見と雰囲気からそうかなって思ってたんですけど、今まで大事に育てられてたんですね、彼」
「そうだな……」

まさしく温室育ちだったのだろう。今は何かの理由があってこんなところで働いているだけで……。

「逆に今がチャンス? 俺の運は極限によかったという事か……」
「すっごいポジティブ」

一先ず、この店の日替わりランチとやらを頼んでみた。美味しかった。後に知ったが、日替わりランチについてくるデザートは天使の手作りだそう。これは毎日通うしかない。天使の手作りが金を払えば食えるなんてこの世は天国。

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