育成ゲームで悪党を育てた爸爸は、最初から詰んでいる。~大きくなった我が子が、俺を監禁するため探しているらしい……~

紫鶴

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10 三次試験合格……なんで?

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 最後に残ったのは10人ほどだった。半分ほどが不合格として落とされたらしい。俺もその中に入りたかった。そっと二枚になってしまった赤札を腰につけてまたしても合格者に混じって三次試験に向かう。

 何でだろう。どうしてこんな順調に試験を突破しているんだろう。

 そもそもこれ、何の試験なんだ……?

 今だに俺は何のためにここにいるのか分からないまま部屋の前に並べられている席に座る。そして一人一人番号を呼ばれて部屋の中に入っていった。面接みたいだ……。出てくる人は今のところ誰も怪我してないみたいだし一次試験みたいな事はなさそう。

 ただ、あまり表情が明るくない……。何が起きているんだあの部屋の中で。



「三十六番、お入りください」

「は、はい!」



 三十六番と呼ばれて俺も部屋の中に入る。外にいた係員の人がすでに扉を開けているのでそのまま入室した。



「失礼します……」

「ああ」



 そこには一次試験と同じように黒い衣を身に纏っている試験官様がいた。しかし、彼は何故か本を持ってこちらに視線一つ寄越さない。さっき俺に水をくれた人と同じ人物な気がする。あの人も机に座るや否や本を読み出したから。

 試験官様は短く返事をした後、ぱらぱらと本を読み続けている。試験官……何だよね?もしかしてこれも何か試されてる……?

 俺は試験官様と目の前の椅子を見比べる。そして迷い無く椅子に座った。

 よし、面接で絶対にしてはいけない事の一つ。何の断りも無く椅子に座る行為!こっちでも通じるか分からないが、恐らく無礼な態度である事に間違いは無い。その上足も組んでふんぞり返ってみた。

 これで不合格間違いなしと意気込んでいると、ぱたんっと試験官様が本を閉じた。



「質問をしよう」

「え、あ、はい」

「五人の人間と一人の人間、どちらかしか救えないという状況になったらお前はどちらを選ぶ? 質問は一度だけしていい」

「はあ……」



 これはあれか?大を救うために小を犠牲に出来るかという質問だろうか。かの有名なトロッコ問題って奴かな。それに似ている気がする。

 そんなことを考えながら、彼に言われた質問を考えてみる。ここは質問しないでどっちか選ぶという手もあるが、それだけじゃインパクトが足りない。恐らく今までの受験者だって即決して答えた人間もいるだろう。

 だったら俺はもう一つ厄介な属性をつけてやろうと試みる。



「……どちらに俺の子は居ますか?」



 子煩悩という属性だ。悪いことじゃないけど、もしかしたらこの時代で子供を優先する父親は変な目で見られる可能性がある。子供は妻が育てるべきとかね。

 我ながらナイスな質問をした。意地悪な答えさえ来なければ子供がいる方を選べばいい。心の中で自画自賛していたが、俺の質問に動揺すること無く試験官様はこう答える。



「どちらにもいる」



 なんてこった。この人には人の心が無いんか。

 それならば俺の答えも決まっている。



「じゃあ、どちらも救わず最初に俺が死にます」

「……本心か?」

「そうですね。俺にとっては子供達が大事ですから。本当はどちらも救いたいですがそれが叶わないならば先に俺死んで、そのあとに死んでしまった子を待ちます」



 最悪の選択肢だけどな。我が子が死ぬと分かっていて何もしない親がいるか?少なくとも俺はしない。絶対にそんな事態を引き起こした何かを許さないし、できる事ならズタズタに引き裂いて道連れにする。



「……そうか、そこまで思われているなんてよほど大事らしい。どんな子供なんだ?」

「!」



 てっきり話が終わるのかと思いきや、試験官様が俺の子供に興味を示してくれた。

 今まで俺に子供の話を聞いてきた人はいない。当たり前だ。結婚もしていない俺に子供の話なんて誰も振るわけない。

 でも、今は、何のしがらみも無くあの子達の話が出来る。自慢が!!出来る!!



「うちの子達は天才なんです」

「そうか」

「なんといっても頭が良いし、道術も剣術もそれぞれ才能を持って生まれた天から授かった子で……っ!!」

「そうか」



 俺は今まで我慢してきた我が子自慢をほとんど初対面の男に止めどなく話しをした。はっきり言って止まらなかった。今まで我慢してきた分一気に溢れ出てきたのだ。

 いやあ、うちの子を何の心配なく話す事が出来るなんてこんなに爽快だったとは!!

 たとえ目の前の男が本を読み出していたとしても、適当な相づちだけですまされようとも話を聞いてくれるだけでこんなにも心が満たされるなんて思いもしない。



「それで――っ!!」

「本当に羨ましいな。その子達はどこにいるんだ」

「……あ、え、えっと」



 試験官様が本を片手に何気なく話をしたのだろう。普通であれば答えられる何気ない質問だ。だが、今の俺にはその質問に答えられない。

 弾丸トークで我が子自慢をしていた俺の勢いが落ちたことに試験官様が不思議に思ったのだろう。すっと本から顔を上げて俺をみた。

 俺は誰がみても分かるくらい動揺して視線をさまよわせながらがっくりと肩を落とす。



「それが、今どこにいるか分からなくて……」

「……別居しているということか? それとも離婚……?」

「血は、繋がってないし、相手もいないので離婚はしてない……です」

「……」



 本当におかしな話だ。全く血のつながりのない子供をまるで自分の家族のように話すなんて滑稽だろう。ゲームの中では、無条件に俺を受け入れてくれる家族だった。そういう都合の良い存在だから。

 だが、今は違う。このゲームの世界が俺の現実となった時点で、彼らはもう血のつながりのないただの赤の他人になってしまった。

 彼らもきっと、姿の変わった俺をパパと呼んでくれるはずもない。

 だからこれは、俺の勝手な願望だ。



「……探しているのか?」

「はい」



 一目だけでもあの子達に会いたいという、身勝手な願い。



「6歳に別れたので、まだまだ子供ですが。とても可愛いんですよ。まあ、俺に会っても気付かないと思いますが……」

「それは少し、子を見くびりすぎでは無いか?」

「え?」



 床をみていた俺が試験官様の言葉に顔を上げた。すると試験官様はちらりとこちらに視線をよこしていた。顔もバッチリ布で隠れているので目があうことはないはずだか、どういうわけかその布の下から力強い眼差しを感じた気がした。



「もしかしたらその子供は、どんな姿でもどんな形でも会いたいと思っているかもしれない。ずっとずっと、夢の産物だと思いながらも諦めきれずに待っているのかもしれない。だから、些細なことで気付くはずだ。ああ、この人物が俺の爸爸パパだと」

「そ、そうですかね?」



 まあ、賢い子だとは思うけど……。

 恐らくあまりにも悲観的に話をするからこの人なりに慰めてくれているのだろう。試験官様は優しいな。育ちが良いのかな?



「ああ、そうだ。現に少し会話をしただけで確信したぞ。時々変な言葉が混じるから分かりやすい」

「……?」



 ぱたんっと試験官様が読んでいた本を閉じる。

 兎も角、試験官様なりの励ましを貰ったと言うことで良いのだろうか。俺の思惑通りとはいかなかったが結果として、ここまで試験官様に気を遣わせる受験者はきっと不合格に違いない。

 なんだかんだ話も長引いてしまったし、きっとそうだ。そうに違いない。



「合格だ」

「はい、ごうか……合格……?」



 え?俺の聞き間違いかな?今合格っていわなかった?



「ああ、それから……」



 呆然としている俺の元に試験官様が近づいてきた。そして座っている俺の前で膝をつきそっと俺の手の中に赤札を持たせたかと思えばそっと包み込むように握られる。



「一目惚れをした。付き合って欲しい」



 何を言われているんだろうか俺は。

 顔も姿も分からない人間に告白されているのは分かっているのだが、どう考えてもこの男俺に一目惚れした訳じゃないだろう。

 声が淡々としすぎている。もっとこう、一目惚れしたなら段階を踏んで告白をして欲しい。何回同じ理由で告白されて、同じ理由で別れたと思っているんだ。一目惚れのエキスパートだぞ俺は。

 いつもならば、来る者拒まず去る者追わずスタンスであり、現在付き合っている彼女もいないので即承諾する俺だが、どう考えても怪しすぎるので首を縦に振るわけにはいかない。

 スッと俺は握られている手を自分の方に引いて頭を下げた。



「……ご、ごめんなさい」

「……」

「あの、じゃあ、失礼します……」



 固まっている試験官様をそのままに俺はそそくさとその場を去った。

 だって、何されるか分かんないし!!我が子自慢を聞いてくれたから良い人かと思ったんだけど、急に一目惚れだなんて言い出して怪しすぎる!!

 こういう人からはさっさと離れるのが吉!

 そう思って外に出たはいいが、俺の手元に赤札一枚、腰に二枚と合計三枚、その合格札が集まってしまった。しかも、半分に割られている札。



「ど、どうして俺合格できたんだ……?」



 恐らく、この場でそんなことを言っているのは俺だけである……。
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