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 部屋に戻ると繻楽は疲れたのかすやすや寝ていた。あんなに騒いでいたのは眠たかったからか~。納得。



 本を近くの机に置いてから雪瓔の元に向かった。





「ほーれ、雪瓔ご飯だぞ~」

「……」





 人肌に冷めたところで雪瓔の前に哺乳瓶を見せる。すると雪瓔は訝しげにそれを見つめていた。赤ちゃんだから目に映るもの全て新鮮に見えるんだろうな。





「ちょっと起こすぞ。触って良いか?」

「ぅ~……」

「よしよし、えーっと、床で良いか」





 雪瓔に許可をもらい、抱き上げる。椅子に座りたかったが、万が一雪瓔を落としたら大変なのでふわふわの絨毯が敷かれた床にあぐらをかいた。そして腕の中で大人しくしている雪瓔に哺乳瓶を咥えさせる。



「こ、これでいいのか? 飲めるか……?」





 雪瓔が何か訴えるかのように言葉を発することをしないので、多分大丈夫だろう。ドキドキしながら雪瓔の様子を見守っていると、彼はちゅうちゅうと静かにミルクを飲み始めた。





「おお、飲んだ!!」





 はじめは本当に美味しいのかこれ?と警戒心丸出しであったが、一口飲んだらごくごく吸い付いていく。これが、ミルクの力!!



 腕の中で大人しく飲んでる赤ちゃん可愛い~とほんわかしていると、不意に何かがきしむ音が聞こえた。



 繻楽が寝返りでもしたのだろうかとそちらを見る。しかしそこには驚くべき光景が。



 なんと、優蘭が頭半分出しながらベッドから脱走しようとしているではないか。さっと血の気が引くと同時にぐらりと優蘭が頭から床に向かって落ちていく。





「優蘭!!」





 とっさに俺は道術を使っていた。火をおこす事しか出来ないはずが、何故か風を起こす事が出来た。奇跡だ。ありがとう。お陰で、頭から落ちていく優蘭の体勢を戻しながら絨毯に優しく着地させることができた。



 どっどっどっと俺の心臓が緊張で変な音を立てる。迂闊だった。まさか優蘭は、ほかの二人よりも遙に体を動かすことができる赤ん坊様だったなんて!!





「あ、あ、待って待って!? はいはいで一体どこに行くんだ!? 優蘭様!! 優蘭様ストップ!!」





 思わず様をつけて優蘭を呼ぶが彼は一目散に机の脚に齧り付き、それを揺らそうとつかまり立ちをして突進している。



 な、なんだ!?何してるんだあの子!?



 兎に角行動原理が分からず、いったん自分の方に引き寄せようと道術を使う。するとふわりと浮いた優蘭が俺の手が届く距離にまで近づいた。



 これでなんとか優蘭が危ないことをしないだろうと安心したのも束の間。





「ふ、ふあ、ふあああああああああああああああああん!!!」

「えええええー!!! だめだったの優蘭! ごめんごめん、俺の何がいけなかった!?」

「ああああああああああいいいいいいい!!!」





 ごろんごろんと体を揺らしながら優蘭は俺に悲しみと悔しさを訴える。こんなに情熱的に感情を伝えてくれるとは、一番静かな子だと思っていたが大間違いだったようだ。自分の感情にちょっと鈍かっただけらしい。





「ふぁ……」

「はっ!」





 優蘭に気をとられていたが、不意に眠りについていたはずの繻楽の声が聞こえる。当たり前だ。こんな大泣きしていれば誰だって起きる。





「ふえええええええええええええ!!!」

「だよね!! うんわかってた!!」





 子育て経験が無いなりに何となく察しはついていた。眠りを妨げられた赤ちゃんの機嫌は悪いってな!!



 いかん、二人をなだめなければと気持ちだけが焦る。そして慌てている俺にとどめがさされた。





「うぇ……」

「ああああ!! ごめん雪瓔!!」





 ミルクをあげていた雪瓔が吐き戻しをしてしまった。完全に俺がよそに意識を向けていたのが悪い。





「誰か助け……っ!!」

「失礼致します」

「ふぎゃああああああああああっ!!」

「ふああああああああん!!」

「あああああああああああああっ!!」

「あ、やっぱ良いです!!」





 俺の声にすぐさま反応したNPCが登場するが、雪瓔も一緒になって泣き出したので追い出した。一人でやらなくては。家族が欲しいならば、これぐらい乗り越えなくてどうする!



 俺は産めない代わりに、こういう面でサポートしなければならないだろ!!



 よしっと気合いを入れて俺は三人の赤ん坊様をなだめるため奮闘するのであった。

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