上 下
30 / 34
本編

無能の騎士はジョブチェンジしました。

しおりを挟む
げほっとまたしても何かを吐き出すように咳き込む。頭がきしむように痛い。先ほどの奴はあれだ。小さい頃の記憶だ。

確かに俺は秋以外の漂流者を保護したことがあった。因みに彼のほかにもいたがどこかに行ってしまい、騎士に相談したところ死体が上がったそうだ。まー、あんなに大胆に逃げればそうだよね。漂流者のほとんどは戦闘能力を持たない人達なんだし。



まあ、まだそれは良い。



というか、漂流者に殺されかけたなんて夢にまで思わない。あんなに過剰であったのも分かる。

でも、それよりもだ。

俺ってヴィのこと相当好きだったんだ!?

その事を自覚してすごく恥ずかしい。凄く。ええ、ものすごく!!



いや、好きは好きでも兄さんと同じくらいの好きだと思ってたし。そもそもここまで俺が鈍いとは思わなかった!!そ、そうか、俺好きだからこんなに嫌な気分になったんだ。う、うう。これはまじで恥ずかしいし、なんで忘れてたの!?その時に伝えてたらまだここまで羞恥に耐えるようなことなかったのに!!



「ベルちゃん!!」

「うっ!」



今一番聞きたくない声に俺は思いっきり血を吐いた。いや状況が状況だから仕方ないんだけど。



「もう大丈夫だからね!?ああ、こんなに傷ついて!早く治せよアルフレッド!!」



ここは一体どこなのか、と確認する前に眼前にヴィの顔が広がって反射的に目をつぶってしまう。う、いつも以上にヴィの顔が眩しい!!



「今やってます!内臓もドロドロに溶けて構成中なんですから少し待ってください!」



アルフレッドの声だ。不穏な言葉が聞こえたけど聞こえないふりをした。



「こ、こ……」

「ああ、しゃべらないで!ベルちゃんに危害を加えた男はきっちり制裁してきたからね?もう安心していいよ」



え?あれ王子様でしょ?大丈夫なの?

そんな事を思ったが、俺はあまりの痛みに意識を飛ばした。







結論から行くと合同調査で言った危険区域はランディール王国の王族が作り上げたものだと世間に公表されて信用を無くした彼の国はあれよあれよという間にこの国のとなった属国となった。そもそもあの王子様が今までいろいろやらかしていたようで修復不可能なところまで落ち、人質という名の引き渡しで兄弟セットでやってきた。



問題起こした弟だけじゃ価値がないと判断されたようだ。ちょっとかわいそう。



あの王子様は相変わらずおかしなことを言っているようで、厳重に監禁されている。二度と俺に近づかないようにとしているという。迷惑をかけます……。



それから、完全に恥ずかしい話なのだが、本当の本当に恥ずかしい話で、時間があったために兄さんに諸々のことを相談したら黒衣の騎士が明らかになった。



「いや、それベルのことでしょ?」

「え?」

「全身真っ黒ってベルのことじゃん」

「えええ!!???」



兄の言葉は絶大だ。淡々と質問されてしどろもどろに答えているとほらやっぱりという顔をされる。いやでも、ほら。騎士団長さんも行ってたみたいだし……?と困惑しながらそう言うと、そっちは確実にベルのストーカーだと断言された。



「それで?婚約破棄するなら手伝うよ?」

「それは嫌!」

「ふーん?」



俺がそう強く言うと兄さんはにこにこ笑顔である。

う、な、なんだよその顔は!!



「別に、ようやく気付いたか~とか思ってないよ?」

「思ってるでしょ!?」



むっとした顔でもういいっと乱暴に兄を追い出す。最後に、こんなことになる前に相談しろときつく念押しされた。それは分かっている。



二度とこんなことにならないようにと十分に気を付けている。ええ、勿論。



でも兄さん?なんでその話をヴィに言ったの?



「あの……ヴィアン様?」

「どうしたの?ベルちゃん。いつもみたいにヴィって呼んでよ」

「いや、その、あの……」



俺はこれほど居心地が悪い場所を知らない!!

ヴィは、公私混同しないようにと今まで俺の茶番に付き合っていたが俺が気にするならばと四六時中俺のことを甘やかし始めた。やめて。視線が痛い。



「いつも家だと膝に乗ってくれるのにどうしてそこに座ってるの?」

「仕事だから」

「いつもやってないでしょ?」

「……その通りでございます」

「ね?」



いや、ね?じゃないし。

誰か助けてっと周りを見渡した。すると一斉にさっと目を逸らされる。どうして!!



い、今までヴィにべたべた触ってたじゃんか!?なんで今更そんなに距離取ってるのさ!?



おかしい、おかしいよねこれ!あと、過酷な任務振られるようになったのも納得いかないんだけど!?



「ベルちゃんは僕のこと好きじゃないの?」

「すっ!すき、だけど……」



あと自分の気持ちを自覚したからかその言葉を言うのがとてつもなく恥ずかしい!!



あああああ!!どうしてこうなった!!俺は無能なままの性格悪いっていう評価でいいんだけどおお!?これだと俺、いや俺達ただのバカップルじゃんかあああああっ!!!
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

処理中です...