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本編

既視感

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合同調査の為にランディール王国に行く日。俺はどうにか起き上がってヴィを見送る。

いつも早いのでこういう時は少し辛い。



「それじゃあベルちゃん。ご飯は冷蔵庫の中に入れたからね?お家から出ちゃだめだよ?」

「うん……」



ヴィにそう言われて俺はこくんこくんと頷きながら、最後に行ってらっしゃいのちゅうをして手を振る。ヴィが出て行った後に俺は彼についていくために準備をする。ヴィの作ってくれたご飯をバックに詰めて兄さんが興奮気味で持ってきたイヤリングの魔装具を付ける。珍しい。色々つけることになるから大ぶりな魔石のついたものしかつけたことがなかったのだけど……。まあ、ヴィとお揃いだから少し嬉しい。



それに外套からコートにチェンジ、そしてお面までついて外見はかなり変わった。刺繍もしてあり、興奮気味に兄さんがべらべら解説していたけれど分かったのは魔術伝導率が良いということぐらいだ。うん。

出かける準備を行い、それから家を出て鍵を閉める。そしてヴィの跡をついていった。少し出遅れたがヴィはいつも早めに出ているのかうろうろと朝市などをのぞいて集合場所に向かうのですぐに追いつく。まあ、何時も何もかわないで向かうのだが。



ヴィが集合場所につくと色んな人に声をかけられながらアルフレッドの元に。俺はそれを路地からこそこそと見守りつつ、定時になったので用意された馬にまたがった。第一班は人数が少ないので馬での移動が主流である。俺も馬に乗れるのだが、ヴィがあまり乗馬が得意ではないようなのであまり使っていない。だからいつも乗馬に関しては大丈夫かな。一人で乗れる……?とハラハラしながら見守っている。あ、乗れたみたい、良かった。



会話は聞こえないが出発したみたいだ。俺も魔装具を発動させて彼らの跡をついていく。目立たないように透明になって。



そして、例の男についての探索もする。

黒衣の騎士というやつをな!!

ヴィの思い人なんだから話しを通しておかないと。来る日の為にも……。



はあっとため息が漏れたが仕方のないことだ。人の心は変わるもんだし、俺のことをずっと好きでいる方が難しい。大人になれば見えてしまうものもあるだろう。



腕っぷしぐらいしか俺には取り柄がなし……。う、自分で言ってて悲しくなってきた。ああ。

探索の魔術を常に張りながら、俺はその人物を探る、が、見つからない。相手が俺よりも強いのである。そうなれば俺に太刀打ちできない。その事に関しても気が滅入る。俺よりも強いなんてもう自慢できることが何もない。勝てるところが一つもないなんて……。黒衣の騎士め、俺よりも先にヴィに会っていれば俺がこんな思いしなくて済むのに……。



ランディール王国には通常であれば三日ほどかかるが、騎士団の馬は特別に訓練され、鞍が魔装具でもあるので魔法を使って休みなし、めちゃ早い速度で駆けるので一日もしないでつく。

置いていかれないように、また気づかれないように距離を保ってついていくと夕方頃には王国についた。そこから例の危険区域発生場所近くの町まで向かうとそこにはランディール王国の騎士たちがいた。

さっと近くの草むらに隠れて様子を伺う。



何やらアルフレッドと騎士団長が話をしているようだ。打合せとかかな?そう思って見守っているとふと気配を感じてそこから離れた。



「―――っ!!」

「はあっ!」



ひゅっと剣が俺の頬をかすめる。俺は今回の武器であるハルバートを手にしてぐるんっとその男に向けて振るった。しかし、ひらりと躱されて追撃が来る。



俺はそれを受けた。

纏っているコートのお陰で相手の剣が折れる。ぎょっとした表情の相手の鳩尾に拳を埋め込んだ。がくんっと相手が腹を抑えて膝をつく。



ちょっと強くやりすぎたかも……。



「大丈……あ」



もう一人が後ろから狙ってきた弓矢を素手で受け止めて、お返しに魔術を繰り出す。避けられたようだ。

とはいえ、生身の人間にこれ以上危害を加えるのは気が引ける。とっとと目的を吐かせて……。



「あ!!」



彼らの服装を見た。先ほどまであまり気にしていなかったがこの服、ランディール王国の騎士団の軍服では!?あ!胸元にそれっぽいエンブレムがある!ぐあああっ!やっちまった!!このまま見なかったことにして、事なきを得よう!!



俺はそう思いササっと消えようとしたが、またも背後に気配を感じてそれを受け止める。

ちっ、と思わず舌打ちをしてそれを押し返そうとしたがその相手と目が合ってぎょっとした。



「オ、オリバー・ロット!?」

「っ!」



俺が彼の名前を叫ぶと彼は一瞬動揺して俺のハルバートをはじき返した後に距離を取る。

思わず名前を言ってしまったが、まずい、知り合いだってバレたかもしれない。ここでこれ以上の騒ぎを起こすわけにはいかないし、何よりさっきまでアルフレッドと話をしてなかった!?

さっさと退散しなければ!



そう思ったが、次の瞬間信じられない事が起こった。なんと、彼はその刃を自分に向けてそのまま刺そうとしたのだ。



「うわあっ!!」



慌てて彼の剣を手に取って抑える。慌てたせいで素手で刃を握ってしまい、血が流れるが今なそんな事を気にしている場合ではない。



なんでいきなりあんなことして……っ!

そう思って彼を見つめると、じっと暗い瞳を俺に向けていた。

何だかその表情には強い既視感を覚えて、一瞬動きを止める。どこかで見たような……?



「ゆーや……?」



え?なんだ?誰の名前……?思わず口にした言葉にばっと口を押える。

それからちらっと彼を見ると、彼は先ほどの表情とは別に恍惚とした表情を俺に向けた。そして次に彼は膝を地面につけて座り込んだ。



え!?



「申し訳ありません!」

「え?え……?」

「お待ちしておりました、騎士様」

「……え? いっ!」



そう言って彼はにこにこ笑顔で俺の手を取り、傷を舐める。



痛い!普通に痛いからやめて!!



ヴィもよく傷を舐めてすごく痛くすることがある。まあ、俺が約束守れなかったのが悪いんだけど。でもまさかこいつにこんなことされるとは思わなくてびくびくと痛みに体を震わせる。



「や、やめ……っ」

「やめてください」



俺の手から彼の顔が離れたと思えばぎろっとヴィが睨みつけていた。ひえ、滅茶苦茶怒ってる!!勝手についてきて傷作ったことに怒ってるんだ!!



ヴィはその苛立ちを俺の舐められていた傷をぐりぐりと自分のハンカチの上から爪でえぐられる。はっはっっとあまりの痛みに短く呼吸をしながら、ぐいぐいっとヴィの軍服の裾を引っ張る。痛いと暗に訴えているのだが、ヴィは無視して彼から俺を離す。ヴィ!!痛いって!!ごめんって!!



「この方は私の知り合いです」

「そうですか。私にとっても知り合いの方なので」



ぐいっとオリバーに腕を掴まれ引き寄せられた。よろっと体勢を崩して彼の方に体が傾くがそれを阻止するためにヴィがもう一方の腕を掴む。



え?何この状況……?

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