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番外編

邂逅 SIDEイヴァン

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僕には可愛らしい婚約者がいる。



その婚約者の名前はベルクラリーサ。僕はベルちゃんと呼んでいる。



彼との出会いは彼が4歳の時であった。俺は9歳でまだ初等部に通っていた。この目立つ容姿にそれなりの地位権力を持った僕は6歳から初等部に通い続け、分け隔てなく色んな人と関わりを持っていた。



そうなると、彼らの一面が分かるようになる。



ああ、この子は俺の容姿に惹かれたんだな、とか権力にすり寄ってきたんだな、とかよくよくそんな事が分かるのだ。子供だからと言って無邪気に遊んで学べるような場所ではない。僕にとっては。



その時期は他国の貴族が集まって宮廷でパーティーを開いていた。僕や3歳年上の兄も毎年そのパーティーには参加しており、今年も知り合った他国の貴族と軽く話をしていた。



今まで気にも留めていなかったが、初等部で知り合った者もいて6歳からは他にもその子たちとも会話をしていた。ちょっと面倒くさいと思ったが、兄も母も父も同じようなことを思いながら同じことをしているので公爵家に生まれた運命だと思うことにする。



さて、9歳のその時も適当に過ごそうとしたが違った。



「ヴィアン様。お飲み物はいかがですか?」

「ありがとうございます」



僕は運悪く、初等部の子たちと少し離れた時に他国の貴族に捕まった。確かこの男、僕と年の近い男がいるとか言って何かと僕を欲しがっていた。そんな男から声をかけられるなんて最悪だと思いながらも、下手に対立すると国の不利益につながりかねないのでグラスを受け取り少し口をつける。



子供用のジュースだ。とはいえ、一口だけ飲んで後は―――。



「―――っ!?」

「おっと、大丈夫ですか?」



ふらっと眩暈がして思わず頭を抑えると勝手に彼が僕の体に触れた。その不快感に睨みつけそうになるがにっこりと笑顔で離れようとする。



「いえ、平気です」

「いやいや、連日のパーティーでお疲れだったんでしょう?少し休みませんか?」

「大丈夫です。お気になさらず」

「遠慮しないで下さい。貴方のご両親には大変お世話になっておりますから」



まずい。

表面上、仲が良いと知れ渡っている関係であれば部屋に連れ込まれても他の貴族は特に疑問に思うことは無いだろう。他国なのだし無茶なことはしないだろうとは思うが、信用ならない。きょろきょろと、家族に助けを求めたいが他の貴族の応対をしている。次に初等部の子を見た。何か話をかけてくれればいい。気づけ、気づけっと念を送るが不意に目を逸らされた。



あいつら!!



「さ、ヴィアン君。こっちだよ」

「いえ、本当に……」



グイっと思いっきり腕を引っ張られた。そのまま抱えられてしまい、何かのせいで抵抗が出来ずにそのまま会場を出た瞬間、口元にハンカチを押し付けられた。



―――そして、意識が遠のいた。



****



「変態だ!!その子置いて行けよ!!頭ぶち抜くぞっ!!」

「何だとっ!?私を誰だと思ってる!!」

「知らねえよ!でも一つだけ言えるのはここでお前殺して危険区域に死体投げればすべて解決するってことだな!!てめえら護衛も例外じゃねーぞ!!」



銃声音がした。



その音ではっと意識が浮上して体を起こす。手足は縛られ、口に布を当てられており、その上何かの袋に入れられている。自由が利かない。そして体も思うように動かない。成程、どこかに連れ去ろうとしているのは分かった。大方、自国まで持って行けばいいとでも思ったのだろう。それほどまでにあの男は権力を持っている。そうなった場合、僕は国の為に捨てられる可能性の方が高い。



「殺せ!!たかがガキ一人に何手こずってる!!」

「あの子供の服も魔装具です!!攻撃が利きません!!」

「じゃあ魔力切れを狙え!」

「そこまでもたねえぞ!!てめえらがな!!」



何度か銃声がした後に「くそっ!」っと声がした後に袋が破られた。するとあの男と目が合って、ぐいっと引っ張られる。それから首元にナイフを押し当てられる。



「動くな!!動くと……ふべっ!?」

「卑怯者!!いたいけな美少年を襲おうとした挙句人質にとるなんて最低!!」



―――が、すぐに男の顔面に小さな子供の蹴りがめり込んだ。



暗闇の中で月明かりに照らされキラキラと彼の青みがかった銀色が光る。全身真っ黒いマントで包まれて片手でライフルを持っていた。



僕よりもだいぶ年下である。言葉遣いが少し汚いし、訛っている。どこかの平民?いや、こんな時間にこんな森の中にいるのだから狩人の出だろうか。



ただ、そう、とてもカッコよかった。



こんな状況になって助けてくれたカッコいい男の子である。



「しゃっ、おらあっ!!ガキ舐めんな!!」



そう言ってガッツポーズをした彼は素早く腰から短刀を取って俺に近づき拘束を解く。じっと綺麗な瞳で見つめられどきりとした。



「あんた大丈夫?」

「あ、うん……」

「そ?目覚めたら面倒だから早く逃げよ。馬乗れる?」

「馬……」



彼が自分の身長を優に超した馬車を引いている馬の一頭をそれから外し、適当に手綱を持って鞍なしでひょいっとまたがる。軽く魔装具を使って静かに降り立った彼が馬を宥めながら僕を見た。



乗馬経験はあるが、こんな大きい馬には乗ったことがない。そう思ったがこんな小さい子にその事を伝えるのはいささか勇気がいる。黙ったままどうしようと悩んでいると、子供が降りた。



「分かったから乗れ。数分で王都につくからそれまで我慢しろ。ほら」

「あっ!」



魔装具を纏った彼が魔法で俺を浮かせて乗せるそれから自分も同じように乗った。



「しっかり捕まれよ」

「うん」



僕は彼に言われたとおりに抱き着いた。が、体格の問題があって彼の頭を抱え込むような体勢になってしまった。こんなにくっつけば邪魔なのではないかと思い始め少し離れようとするがぐいっと腕を引っ張られる。



「大丈夫だからちゃんと掴まれ。俺はそこら辺にいる子供じゃねーから気にすんな。絶対お前を守る」

「――――っ!!」



衝撃だった。



そんな言葉を言われたのは初めてだ。立場上誰かを守るということが多く守られることなんてなかった。それは家族に対しても同じでだからこそ今こんな風に簡単に誘拐されているのだろう。お互い愛情がないわけではないが万が一は仕方ないというようなものである。また、一つの言葉が命取りになる世界でそんな絶対なんて言葉は出ない。



「あ、あり、がとう……」

「おう、任せろ」



どくどくっと心臓が早鐘を打つ。小さい子供なのにあんな数の大人を相手に引けを取らず、スマートに助けてくれた。



そんな男に恋をしない奴なんてこの世にいるか?



ぎゅうっと抱き着いたのを確認した彼が勢いよく馬を走らせる。こんな暗闇の中明かりもなく走り、本当にものの数分で王都に到着した。



「ほら降りろ」

「うん」



降りるときも魔装具を発動させて不安なく僕が馬から下りられるように手を貸してくれる。さながら、物語の主人公にでもなった気分だ。守られているという実感がして、普段ではありえないほどしおらしくなってしまう。



ああ、気分がいい。嬉しい!!



守られてるってこんなにいい気分なんだと手を引かれながら門に向かいつつ、思わず余韻に浸っていると「止まれ!!」っと門兵が彼に槍を突き出した。



さっと、彼が先ほどの言葉通り俺を守るために背後に隠すように立つ。それからじろっと門兵を睨んだ。



「何だよ!この子を送るだけだ!俺の許可証はあんぞ!!!」

「アゼルスフィ公爵家の次男が誘拐された!お前には重要参考人となって貰らう!!」

「はあっ!?ふざけんなよ!俺はまだ四歳だぞ!!子供を拘束していいと思ってんのかよ!!」

「子供だろうが、誘拐に関係しているんだ。話を聞かせて貰う。武器を置いて降服しろ!!」

「やめてください!!」



え!?四歳!?僕より五歳も年下だ!



年齢差に少し衝撃を受けながらも、その子供が不当に扱われると思い僕は叫んだ。そしてぎゅっと彼を抱きしめる。



「酷いです!!この子は僕を助けてくれました!この子に乱暴を働くというなら許しません!!父を呼んでください!話はそれからです!!」



ぼろぼろと涙を流すとぎょっと門兵は顔を青ざめた後に武器を収める。それから慌てて近寄ろうとしたので「来ないで!」っと叫んだ。



「大人の男の人が怖いです……だからこっちに来ないで……」

「も、申し訳ございません!ですがここは冷えますのでどうぞ中に……」

「う、うぅ……」



めそめそっとウソ泣きをしながら体を震わせてアピールをしているとぎゅっと手を握られた。



「怖がることはねえよ。言っただろう。俺が絶対に守るって」

「――――っ!うん!!」



また言ってくれた!!嬉しい嬉しい!!ぎゅうっと思わずまた抱きしめると「いざって時動けねえからやめろ」っとクールにそう言われた。四歳にしてはかなり大人びているが、そこがいい。



よくよく見ると、とても可愛らしい顔立ちをしている。唇を突き出すのが癖なのかぷるぷるでピンク色の唇が小さくて可愛い。大きな瞳からは力強さを感じ、その瞳で見られるとぞくぞくっと変な気分になる。けれど不思議と悪い気分ではない。



連れられた待機場所で少しだけ身体を震わせていると黙って隣に座って手を握ってくる。



ああ、かっこいい!!何も言わずに側に寄り添ってくれるなんて!

欲しい、この子絶対に欲しい!!



「あの、君の名前は……」

「ん?名前なんていいだろ。もう会うことねぇし」

「え……?」

「俺明日には領地に帰るから」



―――領地に帰る。

……帰る?え?ここに住んでるんじゃないの?



「てか、そろそろ宮廷のパーティー終わって帰ってきた兄さんたちとかち合うから帰らないと怒られるし……」



宮廷のパーティー!!

つまりは、この子供はどこかの貴族だ。



その瞬間、好都合という言葉がよぎった。貴族ならば、婚約という関係が使える。しかもまだ四歳だ。きっと候補選びの最中ぐらいだろう。その中から絶対的に好物件だし、ねじ込むことだって可能だ。それに、明日で領地に帰るなんてこともさせない。絶対!



僕はぎゅっと手を握った。きょとんとしている彼ににっこりと笑顔を向ける。



「僕はヴィアン。ヴィアン・アゼルスフィ。ヴィって呼んで?」



誰にも家族にすらその呼び方を許したことは無かったが、婚約者になる彼だったらいい。

寧ろ呼んでもらいたい。



「え?俺の名前教えねえぞ」



彼はそう言っていたが、父よりも先に来た彼のお義兄様にあっさりと名前を教えてもらった。



また、先ほどのパーティーで初めて挨拶をした辺境の貴族であることを知る。これは中々僕の好みに展開が進むと思いながら、まだ一人が怖いなんてしおらしくそう言うと、優しい優しいベルちゃんはじゃあ寝るまで見張ってるっと家までついてきてくれた。



そして、とんとん拍子で婚約者まで上り詰める。



ああ、可愛い可愛いベルちゃん。



僕のことずぅっと、ずーっと守ってね?僕もベルちゃんの事守るから。誰にも君のこと渡さない。

例え、それが―――。
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