無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴

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そうして彼らを見送って馬車が見えなくなると、ウィルは盛大にため息をついた。



「くそ、仕方ないこととはいえあれに貸しを作るとは……」



ウィルがぼそりとそう呟いて、再びはあっとため息をつく。何やら彼も苦労しているということは分かった。



そして解散!となるだろうかと思ったが思い出した。



そうだ、侍従君にお金借りたままだった。外出の時に奢ると言われたといえそこまで仲良くない人に奢らせるのは気が引ける。というか、後でヴィが管理している俺の給金から払えばいいやとか思ってたし。

そう思って俺は解散して離れる前に「侍従君!」っと声をかけて腕を引っ張った。侍従君は声をかけられるとは思わなかったようで驚きの表情で俺を見る。



「え?な、なんですか……?」

「それが……」



――と、すごくすごーく背筋が凍るような鋭い視線を感じた。ぶるっと身を震わせると何故かキャンベルホープが俺を睨みつけている。



え?なに、こわ。



俺はそう思いながらも声が大きかったか?と侍従君に顔を近づける。



「……っ!!」

「あのね、この前の―――」

「ちょぉーっと、失礼するわ」

「!?」



突然、俺と侍従君の間にキャンベルホープが割って入ってきた。



はー?っと突然の意味の分からない行動に思わず彼を睨みつけるがんんっと彼は咳払いをしてから俺を見下す。いや、ヒール付きの靴だからそうなるんだけど、威圧感が凄い。



「この子に何の用?」

「え?なんで貴方に通さないといけないんですか?」



俺が思わずそう言うとキャンベルホープはふっと笑みを浮かべてそれから侍従君の肩を抱く。侍従君はびくりと体を震わせて不安げにキャンベルホープを見上げていた。



「この子は私の婚約者だからよ」

「リドル!!」

「はあ……え?」



キャンベルホープがそう言った。思わず侍従君を見ると侍従君は顔を真っ赤にしてあわあわとしながら彼を呼び捨て。どうやら本当らしいが、他のみんな知ってたの?俺知らんかった。そう思って周りを見るが周りは興味なさそうにしている。これは知っているかどうかは微妙だ。



「あの、婚約者だからってなんで……」

「貴方は信用ならないのよ!私の婚約者を虐めないでくれる?」

「ちょっとリドル!!」

「ええー……」



俺苛めてないのに失礼な人だなぁ。そう思いながらまあ、聞かれて困ることでもないし、言ってしまおう。



「この前町で二人っきりになった時に奢って貰ったのでそのお金を帰そうかと……っ!?」

「はあ!?二人きりですって!!何よそれ聞いてない!!ルナ!どういう事よ!ここ数日全然会えなくて寂しかったのにこんなちんちくりんとデートですって!?ありえない!あり得ないわ!!」

「リ、リドル落ち着いて!接待だから!!」



キャンベルホープがそう言って侍従君に近寄るので侍従君はどうにか宥める。俺はこの状況どうすればいいのかと思っているとキャンベルホープが突然俺の方を見て睨みつける。



「要らないわ!!」

「え」

「接待だもの!仕事だもの!だから要らないわ!!」

「あ、そうですか」

「ええ!」



キャンベルホープがギラギラとした目で見るのですすすっと視線を逸らして俺はそう言った。

そして、会話がひと段落するとウィルがパンっと手を叩いた。皆ウィルに注目すると彼がこう話しだす。



「さて、漂流者がいなくなったので明日からは通常業務に戻るように。今日はもう帰って休んでね」



そう言って解散となった。



速攻家に帰ろうと思ったのだが、ヴィがアルフレッドに呼ばれ俺は騎士団近くにあるお洒落なカフェでヴィを待つ。また、レインも明日の仕事の確認をするようで早々に別れた。



一先ず飲み物とプリンを頼んでそれが来るのを待つ。すると、店員さんが小さなバスケットに入った花を持って何故かこちらに歩いてくる。視線がばっちり合ったので多分俺だ。



「恐れ入ります。お客様のお名前を伺っても宜しいでしょうか?」

「ベルクラリーサです」

「ありがとうございます。他のお客様からこちらを贈ってほしいと言われて参りました。此方に受領したというサインを頂けますか?」

「え?俺に?誰からですか?」

「ええっと、こちらのカードの方からで……」



そう言われて店員さんから貰った二つ折りのカードを開けるとそこにはランディール王国の家紋がついていた。思わずぎょっとして偽物じゃないかと少しこすったら金箔が付いた。確か、玉璽には金箔が入っているのが主流だと聞いた。



ひえっと思わず悲鳴を上げて慌てて店員に渡された紙の束を手に取る。三枚ほど綴ってあるものだ。どの紙も真っ白で店員さんに「分かりやすい様に真ん中に大きく書いてください」と言われその通りに書いた。それからその紙束を持って店員さんはバスケットを机に置いた後に礼をして去っていった。



俺はなんでこんなものが贈られたのかと思いながらバスケットの中身を見るとそこにはヒマワリが入っていた。



ひまわりって何だっけ花言葉。今度ヴィに―――。



「ん……?」



ふと視線を感じて其方を見るが、誰もいなかった。気のせいだったのだろう。そう思って再びプレゼントについて考える。



あ、分かった。もしかしたら漂流者を守ってくれてありがとうって言うお礼なのかもしれない。うん、それだったら納得だ。律儀な国だったなぁ。



とりあえず頼んだのが来たのでバスケットを机から向かいの椅子に置いた。

で、プリン食べ終えてまったりお茶飲んでたらヴィが帰ってきた。俺を見た後にバスケット、正確には中身のヒマワリを見て笑顔だった顔が無表情になる。え、どうしたの?



「これ、誰から?」

「あ、これ」



そう言ってカードを渡してそれを見た後にばっと俺の腕を掴んだ。



「他には!?何もされなかった!?」

「え?え?うん、何も……、あ、サインしたよ?」

「はあ!?」

「え?え?じゅ、受領したっていうサインが欲しいって……言われて……」



ヴィが焦ったような表情で俺を見つめる。な、何かまずい事でもしたのだろうか。でも確かに三枚も書くのっておかしかったかもしれない。今更ながら……。



「ベルちゃん、それどんな紙だったか覚えてる?」

「紙、というか紙束で三枚つづりで真ん中に大きくサインしてって言われたよ?」

「……ああ、成程サインが欲しかったわけか。あー、焦った。まだ婚姻届け出してないからそっちに書かれてたらまずいことになってた……」

「ヴィ?」



ヴィが何やらぶつぶつ言いだしてよく聞こえないが俺が呼びかけたらにっこりと笑顔を見せる。



「ベルちゃん。今度そういう事が起きたら僕の名前を書いてね?」

「え?でも……」

「婚約者は、皆そうなんだよ?」

「そう、なの?」



ヴィが言うならそうなんだろう。ならば今度はヴィの名前書けばいいんだな?うん分かった、今度サインくださいって言ったらヴィって書くわ。
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