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本編

怒られる

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一先ずソファに座った後に、俺達は話し合いをする。
おじいちゃんの話によれば、先ほどのリーダーが言っていたようにおじいちゃんの息子がお金欲しさに闇金融にお金を借りて借金を残してどこかに去って行ったという。
その話を聞いた兄さんが神妙に頷く。



「……たった1000万だけっていうのが引っ掛かります。確かに大金ではありますがそれにしては優しい値段です」

「……はい」

「借りていた年数や利息を考えてももっといってもいい位です。それぐらいだったらここら辺の土地を売り払えばだいたいは払えるでしょう?ここは立地がかなりいい」



そうなの?じゃあなんで売り払うことをしないんだ……?



「はい。ですが、ここを売り払うわけにはいかないんです」

「……成程。きちんとんこの場所の価値が分かるんですね?」

「? どういうこと?」



兄さんがそう言うので、俺はきょとんとして兄さんに聞く。
すると兄さんはじっと俺を見てこういった。



「魔力が循環しているのは分かるよね?」

「うん」

「ここはその魔力がたまりやすい場所で、この場所で魔法を使うと効果が倍になる所謂ホットスポットって言われる場所なわけ」

「え!?それなら1000万は安すぎじゃない!?」

「そう。でもそういう価値ある場所は秘密にしたいでしょ?だから、大体は先祖代々そういう場所なんだよ?っていう話だけが受け継がれていくから知る人はあまりいないわけ。ま、でも分かる人には分かるんだけど……」



成程。その分かる人に分かったからこうなったわけなのかな?
俺の考えが分かったのか兄さんが頭を撫でる。



「そう、その通り!それで、その息子さんには言ってなかったんですよね?その事を」

「ええ……」

「まあ、遊ぶ金を借りる時点で教えたらどうなるかなんて想像に難くないですよね」

「兄さん……」



そんな事を言っちゃダメじゃない?少しは遠慮しよ?
俺はそう思ったがおじいちゃんは兄さんの言葉に頷いた。



「はい。きっと話しても同じような結果になったでしょう」

「そうですね。そして、問題はどんな人物が欲しがっているのかですね」

「……はい。先祖代々やってきたとはいえ、相手がどのような人物なのかと考えるとこの土地を簡単に手放すわけにはいかないのです」

「ええ、心中お察しします」



兄さんがそう言って頷いた。
俺も言わんとしていることは分かる。それに、そんな安く売ったら大損だ。
うーん、何かいい方法がないだろうか。
兄さんは1000万くらいは優しいとは言ったが流石に肩代わりできるほどの貯金はない。ここで大金持ちだったらなおよかったのに、と悔やみながら悩んでいると、ふと声がした。



「肩代わりしましょうか?」

「え?」



思わずその声の方を向くと何故かそこにはヴィがいた。ぎょっとこの場にいる全員がヴィに注目しており、兄さんは慌てて立ち上がった。



「お、お久しぶりでふ、ヴィアンさん!」

「ええ。お久しぶりですね、お義兄様」



立ち上がってがばっと90度まで頭を下げて大変緊張している兄さんととても落ち着いてにこにこと笑顔を見せているヴィ。

秋はどうしたのだろうかと思ったがひょこっと彼がヴィの後ろから顔を出した。



「あ、ベルさんがいるってことは、ルナも……?」

「あ、秋様!?ヴィアン様もどうして!?」



そして、侍従君もやってきて秋とヴィを見て驚いていた。俺もだ。というか、どうやって入ったの?



「いえ、この店に入ろうとしている少し雰囲気の悪い方がいらしたので、お話をしてたところベルクラリーサ様によく似た特徴の方の情報を手にしたのでもしやと思い勝手ながら店内から入らせていただきました。申し訳ありません」



ヴィはそう言って頭を下げた。



「あ、この方は俺の知り合いなので安心してください」

「ああ、大丈夫だ。兵隊さんとよく一緒にいる方だろう?」

「え、あ、そうです」



思わず敬語になった。本当にこのおじちゃん俺の事知ってるんだ。ヴィと一緒ってことは高確率でそうであると確信できる。



「はい。それで話の続きになりますが肩代わりしますよ。それぐらいなら」

「いやいや。兵隊さんの知り合いとはいえそこまでお世話になるわけには……」

「ええ、勿論善意ではありませんよ。貴方方の技術をそちらの方に教えていただきたいのです」

「え?」


そ、それはつまり、兄さんにその技術とやらを教えて欲しいということか?でもなんで?


兄さんも同じようにえ?え?っと突然そんなことをふられて戸惑いの表情を浮かべる。


しかし、おじいちゃんは何かを悟って表情が硬くなる。そして警戒するようにヴィを見た。ヴィはそれでも表情は崩さない。


はらはらと彼らの動向を見守っていたが、次にヴィが名乗った瞬間流れが変わった。



「ああ、申し遅れました。僕はヴィアン・アゼルスフィ。アゼルスフィ公爵家の次男です」

「アゼルスフィ公爵家!?大変失礼致しました!!」



そう言っておじいちゃんはすぐさま頭を下げた。ヴィは気にしていないようでいえいえっと上機嫌にそんな言葉を漏らす。



「それでいかがなさいますか?兵隊さんの兄君は兵隊さんの装備も作っておられるのですが、どうしても専門的ではないので守備などが薄くなってしまうのです。でも、その技術を彼にだけ教えていただければ、兵隊さんの生存率が上がるんです。お願いします!」



ヴィがそう言って頭を下げるとおじいちゃんはとんでもないっと手を振る。



「兵隊さんの為であり、世話になってるアゼルスフィ公爵様の息子さんならば喜んでお聞きします。ありがとうございます。本当にありがとうございます……」

「いいえ。詳しいことはまたあとで使いのものを送ります。一先ずこれを誓約書として下さい。それから先ほどの方々についても此方で処理致します」



ヴィはそう言ってそこら辺にあった紙にさらさらと簡単に1000万で技術を買うというようなことを書いて署名した。とんとん拍子に進む話に俺と兄さんはついていけずに思わずそっとお互いの手を握り締める。



「ヴィアンさんに迷惑かけてない?」

「……多分」

「バカ!あんないい人いないって何回も言ってるでしょ!?」

「わ、分かって……あ」



そうだ。兄さんには言わないといけないことがあった。
ヴィと婚約破棄するかもしれないってことを。



「あの兄さん。今って時間ある?」

「ん?うん、あるけど……」

「相談したいことが……」

「ベルクラリーサ様」



びくっとヴィに名前を呼ばれて体を震わせてそちらを見るとニッコリ笑顔のヴィがいる。が、なんだろう。少し寒気がする。


そう思ったらすっと頬に手が伸びた。あっと頬の傷を思い出してばっとその手から離れようと身を引こうとしたが、ぶわっと一瞬殺気に似た何かを感じ、ひっと悲鳴を上げてしまう。


手を離し、ばんっと兄さんが俺の背中を叩いてヴィに向けて押す。俺はあまりの力に体勢を崩してヴィの胸に抱き着くような形となった。慌てて離れようとしてがっと腰を掴まれる。



「秋様。申し訳ありません。もう帰らせていただいても宜しいでしょうか?」

「あ、も、勿論です!大丈夫ですか?ベルさん」

「あ、うん。だ、大丈夫だから……っ」

「帰りましょう」



ひい!!ヴィが滅茶苦茶怒ってる!!

思わず視線を逸らしてぶるぶると震える。兄さんを見た。兄さんのせいなのに。俺のせいじゃないのに。
そう思ったが兄さんはぐっと親指を立てる。

お前のせいで俺は怒られてんだよ!!察しろよ!!



「それでは、お義兄様これで失礼しますね」

「あ、は、はい。弟の事よろしくお願いします!!」



兄さんにそう挨拶をしてからヴィは俺の手首を掴んで、さっさと出ていく。俺もおじいちゃんたちに挨拶をしてヴィにひきづられながら、離宮に向かった。
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