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28、はじめましてさようなら
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寒い冬の日だった。
雪が降り、道は白く埋められ吐く息は白い。そんな中俺はぼろ雑巾のような薄っぺらく汚い服を着て、すり切れている草履をはいていた。ふらふらと歩いて視界が回り冷たい雪の中に飛び込んだ。
冷たかった。雪は冷たかった。でも起き上がることが出来ずに雪の中に埋もれていく。
感覚がなくなってきた。さっきまで寒くて冷たかったのに今は何も感じない。
―――どこを見ているの?気持ち悪い。
―――お前に食わせる飯はない!!
―――出て行け!この疫病神が!!
石を投げられた。体も殴られた。
痛い。苦しい。お腹すいた。喉が渇いた。
このまま死ぬのだろうか。
そう思って段々に瞼が落ちる。
死んだらどこに行くのだろう。どうなるんだろう。
恐怖があった。そして、どうして自分がこんな目に遭わなければならないのかと理不尽に憤りを感じた。
もしも来世があるのなら、絶対に殺してやる。俺をこんな目に遭わせた奴ら全員。地獄に落ちてしまえ―――。
「君、大丈夫?聞こえてる?」
「……」
「やばそう?起きて、死ぬよ?え?や、やばくない?起きて!?」
体が浮いた。じんわりと肌に温かい何かが触れる。やべーやべーと声がして扉の開く音、それからぱちぱちと音がして首や手足の付け根に温かいものが置かれた。
「心臓は動いてる。意識はない?とりあえず体温めないと!」
柔らかで温かな布団に包まれた。うとうとと閉じていた瞼を開けると「あ!」っと声をあげていた。
「良かった~意識はあるみたい!温かいものとか飲める?」
「……」
とてもきれいな人だった。白い髪で所々が銀色に輝いている。瞳は青色。彼はにっこりと笑顔を見せて俺の頬を撫でる。温かい。
意識は鈍く、全く返事が出来ずにいると次は頭に手が伸びて一瞬体がこわばる。しかし、その手は優しく頭を撫でた。
「結構体冷えてたからな。意識があるみたいなら温かいの飲もう!」
それからすっと彼が離れて、どこかから大きな鍋を持って来た。それを囲炉裏にそれをかけたあとお玉でお椀に中身をよそう。鼻腔をくすぐる美味しそうな匂い。先ほどまで全く食欲が湧かなかったのに急にお腹がすいてきた。乾ききっていたと思っていた口の中が唾液で満たされる。
「さてと、ちょっと起こすよ~」
「……」
「はい、あーん」
俺の体を起こして彼は背もたれになった。汚くて匂いも酷いのに冷えた体を温めるようにぴったりとくっついてくれる。それからそっと口元にお椀を寄せてくれて俺が口をつけるとゆっくりと傾けてくれる。じんわりと温かい汁が俺の喉を通って腹に落ちる。美味しい。こんなおいしいもの初めて飲んだ。
もっと、もっと欲しい!!
「たくさん食べたね~!いい子いい子!」
夢中で飲み込んでいたらお椀の中身が無くなった。我に返って殴られてしまうとびくびくすると、再び彼はお玉を取ってお椀を満たす。それからもう一度俺の口元に持って行く。ちらちらと男とそれを見ると男は綺麗に笑う。
「食べていいよ。それともお腹いっぱい?」
食べていい。
男はそう言っていた。安心させるかのように頭も撫でられて俺はまたしても飲み干した。
どれくらい飲んだか分からない。
何杯目からは、ドロドロになったお米も入っていた。今まで野草や、野菜の端切れしか食べたことがなかったのでお米があんなに美味しいとは思わなかった。きっと、炊いたお米はもっと美味しいのだろう。今の俺では噛めないのできっと流れるような食べ物を与えてくれたのだ。見ず知らずのみすぼらしい子供をこの人は救ってくれた。
「もう大丈夫だよ。ゆっくりお休み」
そう言って額に唇が落とされた。汚いのに、臭いのに、綺麗な布団や温かい食事を用意してくれた。頭を撫でて、食べさせてくれた。
ああ、この人はきっと神様だ―――。
「君が判断することだけれど、あんまりここにいると俺みたいになっちゃうよ」
ゆらり、と銀色の一本だけの尻尾が揺れて俺の頬を撫でた。
いい。それでもいい。一緒にいたい。ずっとずっと!!同じになれるなんて嬉しい!ひとつ尾になれるのは俺だけだ!
俺だけ。俺だけでいいんだ!!俺以外は要らない!!
だから―――
「黒さん」
琥珀様がいない今じゃないとできない。
あの烏も、あの蜘蛛も、こいつは特に気に入らないらしいから快く計画に応じてくれた。
琥珀様は人の都で手厚く保護して貰えているから大丈夫。後で迎えに行きますね。
俺が声をかけるときょとんとして無防備にも一人でいた愚かなそいつは首を傾げる。
「え?あ、えーっと、黒橡さん?でしたっけ?」
「はい。はじめまして」
―――さようなら。
雪が降り、道は白く埋められ吐く息は白い。そんな中俺はぼろ雑巾のような薄っぺらく汚い服を着て、すり切れている草履をはいていた。ふらふらと歩いて視界が回り冷たい雪の中に飛び込んだ。
冷たかった。雪は冷たかった。でも起き上がることが出来ずに雪の中に埋もれていく。
感覚がなくなってきた。さっきまで寒くて冷たかったのに今は何も感じない。
―――どこを見ているの?気持ち悪い。
―――お前に食わせる飯はない!!
―――出て行け!この疫病神が!!
石を投げられた。体も殴られた。
痛い。苦しい。お腹すいた。喉が渇いた。
このまま死ぬのだろうか。
そう思って段々に瞼が落ちる。
死んだらどこに行くのだろう。どうなるんだろう。
恐怖があった。そして、どうして自分がこんな目に遭わなければならないのかと理不尽に憤りを感じた。
もしも来世があるのなら、絶対に殺してやる。俺をこんな目に遭わせた奴ら全員。地獄に落ちてしまえ―――。
「君、大丈夫?聞こえてる?」
「……」
「やばそう?起きて、死ぬよ?え?や、やばくない?起きて!?」
体が浮いた。じんわりと肌に温かい何かが触れる。やべーやべーと声がして扉の開く音、それからぱちぱちと音がして首や手足の付け根に温かいものが置かれた。
「心臓は動いてる。意識はない?とりあえず体温めないと!」
柔らかで温かな布団に包まれた。うとうとと閉じていた瞼を開けると「あ!」っと声をあげていた。
「良かった~意識はあるみたい!温かいものとか飲める?」
「……」
とてもきれいな人だった。白い髪で所々が銀色に輝いている。瞳は青色。彼はにっこりと笑顔を見せて俺の頬を撫でる。温かい。
意識は鈍く、全く返事が出来ずにいると次は頭に手が伸びて一瞬体がこわばる。しかし、その手は優しく頭を撫でた。
「結構体冷えてたからな。意識があるみたいなら温かいの飲もう!」
それからすっと彼が離れて、どこかから大きな鍋を持って来た。それを囲炉裏にそれをかけたあとお玉でお椀に中身をよそう。鼻腔をくすぐる美味しそうな匂い。先ほどまで全く食欲が湧かなかったのに急にお腹がすいてきた。乾ききっていたと思っていた口の中が唾液で満たされる。
「さてと、ちょっと起こすよ~」
「……」
「はい、あーん」
俺の体を起こして彼は背もたれになった。汚くて匂いも酷いのに冷えた体を温めるようにぴったりとくっついてくれる。それからそっと口元にお椀を寄せてくれて俺が口をつけるとゆっくりと傾けてくれる。じんわりと温かい汁が俺の喉を通って腹に落ちる。美味しい。こんなおいしいもの初めて飲んだ。
もっと、もっと欲しい!!
「たくさん食べたね~!いい子いい子!」
夢中で飲み込んでいたらお椀の中身が無くなった。我に返って殴られてしまうとびくびくすると、再び彼はお玉を取ってお椀を満たす。それからもう一度俺の口元に持って行く。ちらちらと男とそれを見ると男は綺麗に笑う。
「食べていいよ。それともお腹いっぱい?」
食べていい。
男はそう言っていた。安心させるかのように頭も撫でられて俺はまたしても飲み干した。
どれくらい飲んだか分からない。
何杯目からは、ドロドロになったお米も入っていた。今まで野草や、野菜の端切れしか食べたことがなかったのでお米があんなに美味しいとは思わなかった。きっと、炊いたお米はもっと美味しいのだろう。今の俺では噛めないのできっと流れるような食べ物を与えてくれたのだ。見ず知らずのみすぼらしい子供をこの人は救ってくれた。
「もう大丈夫だよ。ゆっくりお休み」
そう言って額に唇が落とされた。汚いのに、臭いのに、綺麗な布団や温かい食事を用意してくれた。頭を撫でて、食べさせてくれた。
ああ、この人はきっと神様だ―――。
「君が判断することだけれど、あんまりここにいると俺みたいになっちゃうよ」
ゆらり、と銀色の一本だけの尻尾が揺れて俺の頬を撫でた。
いい。それでもいい。一緒にいたい。ずっとずっと!!同じになれるなんて嬉しい!ひとつ尾になれるのは俺だけだ!
俺だけ。俺だけでいいんだ!!俺以外は要らない!!
だから―――
「黒さん」
琥珀様がいない今じゃないとできない。
あの烏も、あの蜘蛛も、こいつは特に気に入らないらしいから快く計画に応じてくれた。
琥珀様は人の都で手厚く保護して貰えているから大丈夫。後で迎えに行きますね。
俺が声をかけるときょとんとして無防備にも一人でいた愚かなそいつは首を傾げる。
「え?あ、えーっと、黒橡さん?でしたっけ?」
「はい。はじめまして」
―――さようなら。
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