狐の嫁入り〜推しキャラの嫁が来たので、全力でくっつけようと思う〜

紫鶴

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31、帰りたいんですけど!?

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起きると激痛と気持ち悪さで何もできない。どれくらい時間が経ったのか、渡りと連絡を取らないといけないのに何も出来ない。おきあがることもできずに、激痛にまた意識が飛ぶ。
その間に、手を握られていた……気がする。俺が握っていたのかも。それから気のせいであって欲しいんだけど口移しで何回も薬飲まされた気がする。気のせいであって欲しいんだけどよく覚えていない。
俺が漸く活動という活動が出来たのはかなりの日数が経っていた。体が重いが激痛が走ることは無い。のろのろと布団から起き上がって誰もいないことをいいことにこの部屋から抜け出そうと襖に手をかける。壁に手をかけてふらふらと歩いて門を見つけた。
とりあえずここから出なくてはいけない。だって危ないじゃん!?殺されちゃうって絶対!!
運が良いことにここまで人に会わなかったのは何かの天啓だ。これは神様が逃げろと言っている!!
門を開けてふらふらと沿道に出る。昼間のようではあるが住宅街なのであまり歩いている人はいない。丁度いい。
少し歩いただけなのに冷や汗が止まらない。日差しが照り付けてダメージを負う。くそう!あのへんな薬と川の奴のせいだー!!おうち帰る!
門を出すには妖の都に近い場所でないとダメだ。霊的なところが強いところ。お寺とか神社とかがよく出入り口になる。だからそこまで行けば帰れる。多分!
じゃなくても門を通れば妖魔課に殺される心配はない。うん、頑張れ俺!

「……はぁ、ふぅ……」

少し疲れた。一休みしよう。近くのベンチに腰かけて、深呼吸をする。妖力が減るとこんなに体が重いのか……。今まで妖力に頼りきりだったのが分かったのでこれからは改めようと思う。

「大丈夫ですか?」
「……?」

ベンチで休んでいると一人の男性が声をかけてきた。俺は顔をあげて気のよさそうな彼に笑顔を見せて頷く。
まだ声は出ないので表情で意思疎通するしかない。

「えーっと、大丈夫ですか?」
「……」

また同じことを聞くのでにこっと笑って頷く。そんな俺に男は困った顔をした。俺も困る。
すると、目の前の男が誰かに肩を組まれた。

「どーも!俺ら怪しいものじゃないんですよ~。職業的には一応警察で~」

チャラそうな茶髪の男だ。気にしなかったが、同じ服を着ている。隊服か?あれ?……あ!?

「ぁ……げほっごほっ!」
「す、すみません!声が出ないんですね!?鈍くてごめんなさい!!」

やべえ!こいつら妖魔課だ!!
モブでも顔があって名前があるモブ!
最初に声をかけたのは白津夏樹しらづなつき。もう一人は、霜田唯人しもだゆいとである。
慌てて声が出ないですアピールして早々に立ち去ろうと頭を下げる。それから走ろうとしてつんのめった。

「あぶなっ!大丈夫?」

霜田君の腕が伸びて俺を抱きとめてくれた。俺はしかし、お礼もそこそこにばっと離れる。
それからぺこぺこと頭を下げて顔をあげると、二人はじっと俺を見つめていた。
やばい。俺が妖だってバレた?

「えーっと、俺達何もしないよ?」
「はい大丈夫です」

ええ、人には何もしないでしょうね。
こくこくと分かっていると意思表明をすると彼らはほっとしたような表情になる。それから白津君が話し出した。

「実は数分前から貴方のことを見ていまして、その、具合悪そうだなと……」
「うんうん!君みたいな可愛い子がふらふらしてたから危ないなーって。良ければ家まで送るよ?」

困る!それは困る!!
ふるふると首を振る。全力で首を振る。

「だいじょーぶ!変なことしないし!俺ら警察!」
「はい。不安なようなら近くまででも構いませんので」
「そーそー」

要らないから!去って!帰れ!
ぶんぶん首を振る。伝われこの思い!!

「何をしている」
「!!」
「あ、隊長!」
「……何をしている」

隊長と呼ばれた彼は双熾。目が合った。そっと視線を逸らす。二度目の何をしているは確実に俺に対してだろう。
見つかった。どうしよう。
おろおろとしていると双熾ははあっとため息をついた。

「……家は?」

俺は仕方なく双熾君の前に歩いて手を出せっとジェスチャーする。伝わったのか彼は手のひらを俺に向けた。俺は彼の底に指で文字を書く。

「とおいところだからいらない」
「どこだ」
「とおいところ」
「だから場所は。名前を教えろ」
「わかんない」
「地名が分からないなら汽車も船も乗れないだろう。電話番号は?」
「ない」
「電話がない田舎という事か?そんな状態でどうやって帰るつもりだ」
「かえれるからいいの。ほっといて」
「ダメだ。まだお前の中に瘴気は溜まっている。普通の人だったら死んでるぞ」
「もううごけるしだいじょうぶ」
「動けてないだろう。現に夏樹が声をかけるほど具合悪そうに見えたんじゃないか?」

痛いところを突かれた。思わず指文字が止まると手を掴まれる。しまった!

「隊長!その子ってあの!?」
「そうだ」
「そ、そうなんですか……。真っ黒で分からなかったから僕てっきりもう……」
「悪運が強いようだ。またこいつが何処かに行っていたら俺の家に連れてきてくれ。抵抗しても力づくで連れてこい」
「はっ!」
「!」

なんてこと言うの!まずい!このままだと連れていかれる!!手を離せと彼の腕をぺしぺし叩くが彼はがっちりホールドされていて抜けない。

「ぅ……ぅ……っ!!」
「声を出すな。まだ完全に治りきっていないんだ」
「……っ! ……っ!!」
「少し外す」
「お任せください!!」

それからひょいっと体を抱き上げられた。
やぁだー!!
ぐいーっと顔を押して抵抗するが、じろっと睨まれるだけだ。ぷくうっとふくれっ面になると、「あの!」っと白津君が声をあげた。それから袂からちりめん袋を出して俺の前に出す。

「これ道中にどうぞ!金平糖です!」
「……っ!」

お菓子だ!
ぱっと顔を明るくさせてそれを受け取る。ペコっと頭を下げて早速口に含む。
じんわりと甘みが広がって美味しい。
ぱたぱたと足をばたつかせると、じっと双熾が俺を見ている。な、なんだよ。お菓子食べたいの?
一粒とってぐっと彼の口元に持って行くと一瞬固まった彼は、パクっと口に含んだ。しかめっ面になる。なんで?あ、甘いもの嫌いだっけ。ごめんごめん。じゃあこれ全部俺食べるわ。
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