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七夕

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「洋佑さん、短冊書こう」
 そう言いながら佑がどこかで笹を買ってきたのはつい先ほどのこと。リビングでごろごろしていた洋佑は体を起こして伸びをする。
「短冊……って、そか、もうすぐだっけ」
 起用に笹を壁へと飾りながら、佑が頷く。
「僕、七夕好きだから。洋佑さんもやろ」
 意外。
 顔に出たのだろう。くるりと振り返った佑が笑う。
「思っているだけじゃなくて。実際に形にして、実感する、というか……やる気がでるっていうか」
 言いながら、持っていたビニール袋から和紙で出来た折り紙の束を取り出した。色鮮やかな紙の束を見ていると楽しい、なんて言いながら、はさみで短冊を作っていく。
 佑が短冊を準備する間に、筆記具を持ってこようとと立ち上がる。
「俺が通ってた小学校は、七夕の時はお菓子がもらえたんだよ。それが楽しみだったな」
 持ってきたペンをテーブルの上に。綺麗に切られた折り紙の短冊を一枚手に取ると、何を書こうか、なんて思案する。
「僕のところは……短冊書いて歌を歌うくらいだったかな。あ、あとは笹を後で校庭で焼いたり」
「え?焼いちゃうの?」
 願い事なのに?
 驚いた洋佑に佑もペンを手にしながら頷く。
「そうして焼いた短冊は天の川まで昇っていくから、神様に届く、とかなんとか。夢のない話をするなら、願い事をゴミ箱に捨てるよりは、そうやって処分する方が綺麗なかたちだから、だと思うけど」
「………本当に夢がないぞ」
 ごめんなさい、なんて笑っている。書くことを決めたらしく、短冊に顔を向けた。
 洋佑は決められずにペンを指先でくるくると回しながら、飾られた笹を見つめた。宝くじ当たってください、みたいな抽象的なことしか書いた事がない。
 本来は自分のやりたいこと、叶えたいことを書くものだと教えて貰ったから、何かないかと視線を彷徨わせる。
 形にしたい願い──あ、と思い立って書き始める。
「……よし」
 短冊に書いた文字を見て満足気に頷く。佑も書き終わったらしく、何を書いたのか見せて欲しい、と言ってきたから、同時にテーブルの上に出すことにする。
「「せーの」」

 ────作れる料理を増やす。
 ────資格試験の合格。

「「……」」
 お互いに書かれた文字を見てから視線を合わせて、同時に笑った。
「そっか。佑、試験勉強してたっけ。お前なら大丈夫だよ」
「じゃあ今日の晩御飯は洋佑さんにお願いしようかな」
「いきなり?……んー…じゃぁ素麺……にナスの揚げびたしとか」
 洋佑の言葉に佑はうんうんと頷く。
「僕はどっちも好き……でも、ナスは明日にしよ。味が染みた方がおいしいから」
「えっと……一晩おくときは、少し薄めにするんだっけ」
 以前教えて貰ったことを確認。よくできました、と佑は笑みを深める。そうしてしばらく雑談した後、書いた短冊を吊るそうとどちらからともなく立ち上がる。
 笹へと短冊を結んだ後、佑は「二つだと寂しいから」と、先程切っていた何も書いていない短冊を色々とつるしていた。
 確かに二つだけじゃ寂しいな、と洋佑も手伝って、笹に結び付けていくと、あっというまに賑やかになる。
「おー、雰囲気でたな」
 願い事は二つだけなのだが。
 満足げに頷くと、佑の方へと体を向ける。
「佑」
 急に名前を呼ばれてきょとんとしている佑へと両手を広げて見せる。するとすぐに抱きしめられた。
「……ん……」
 洋佑も腕を回して抱きしめ返す。ぽんぽんと軽く背中を撫でながら、佑は腕の力を強くした。
「どうかしたの?」
 質問に首を左右に振る。胸に顔を押し付けると、服越しにじんわりと伝わってくる温もりに眼を細める。
「……なんとなく」
 七夕の元になった織姫と彦星は二人でいることに溺れすぎて一年に一度の制限がつけられてしまったのだが。もし、自分がそうなったら────なんて他愛もない考えでもやもやとした感情が沸いたことなんて説明出来そうになかったから、ただぎゅっとしがみつく腕に力を込めた。
 しばらくそうして抱き締めた後、そっと腕を緩めて見上げると、佑と目が合う。ゆっくりと眼を閉じて顔を傾けると、柔らかく口づけられる。
「ん……」
 互いに緩く食みあってから離れた。眼を開けると、照れたような佑の笑顔。もう一度強く抱きしめてから、そっと離れる。
「じゃぁ俺……スーパー行ってくるから。勉強、頑張れよ」
 いってらっしゃい、の声を背に部屋を出る。
 素麺に合わせて卵焼きも作りたい。ついでに明日の昼も……なんて考えながら歩き出した。

        ◇◇◇◇◇◇◇

 その夜。遅い時間にこっそりと付け足された願いが二つあった。

────来年も同じ時間を過ごせますように。

 小さく書き足された同じ願いに気づくか気づかないかは────「紙」のみぞしるところ。
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