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事件簿
覚悟-11-C-
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戻ってきてから数日。
検査の結果は「問題なし」ということで、明日には屋敷を出て自分の家に戻るつもりだ。手伝える人を派遣した、とは聞いているけれど、だからといって自分がここでずっと甘えていていい理由にはならないだろう。
ルートヴィヒに相談したところ、少し名残惜しそうにしながらも、無理に引き留めるような事はしなかった。
せめて今日の夜は出来るだけ一緒に。
そう約束して出かけたのが朝の事。今は少し早めの夕食を済ませて、入浴の準備をしているところだ。
「アルノシト様、香油はどうなさいますか?」
ここにきてから毎日聞かれている。いつもはなしで、と答えているのだが、今日は──
「……じゃぁ。折角だから、おすすめのを教えて欲しいです」
かしこまりました、と下がったメイドが小さな瓶を手に戻ってくる。香りがきつすぎるのは断るつもりだったが、それほど強い香りではなく、落ち着いた柔らかい香り。
これなら、と受け取って、使い方の説明を受けてから風呂へ。
最初はお手伝いします、なんて言われて面食らったが、一人で入ることを伝えた後は、それ以上干渉されなかった。
ルートヴィヒも誰かに「手伝って」貰っているのだろうか。手伝うって具体的に何をするんだろう。
他愛ない事を考えながら、汗を流して湯から上がる。
「えっと……」
水気をふき取った後、適量を肌に塗る──適量ってどれくらい?。擦りすぎるのは逆効果だって聞いたけど……。
おぼつかない手つきで首から腕、に塗ってみる。ほんのりと香が漂うのは、香水よりも使いやすいのかも知れない。
が、どうにも慣れなくて、全身に塗ることはせず、腕だけ塗ってからバスローブを羽織って外へ。
小瓶を手にしたままベッドに向かう。サイドボードへと小瓶を置いたところで、扉の開閉音。
「お帰りなさい」
「ただいま」
姿を見せたルートヴィヒも自分と同じように風呂上り。屋敷に風呂がいくつあるんだろう、なんて考えつつ傍に近づくと、ルートヴィヒの眉が上がった。
「アルノシト……」
「はい」
何かおかしなことをしただろうか。不安げに見つめると、ルートヴィヒが困ったように目を伏せる。
「……その香油は……」
並んでベッドに腰を下ろす。もしかして苦手な香りだっただろうか。
「おすすめって教えてもらったんですけど……」
そこでようやく合点がいった、とルートヴィヒの表情が変わった。どこか楽し気な様子でアルノシトの髪へと触れ、手で掬い上げたそれに口づけてくる。
「……?」
いまだ不安げなアルノシトに気づくと、ルートヴィヒは小さく笑った。
「その香油の意味を知っているか?」
「え?」
やっぱり。
そう言いたげに眼を細めると、優しい動きで押し倒される。こめかみから耳へと口付けを繰り返しながら降りていく動きにびくりと肩が震える。
「……「私の全てを捧げます」。初夜を迎える花嫁が身にまとう事が多いものだよ」
「?!」
驚きのあまり反射的に起き上がろうとしてしまった。が、両手をルートヴィヒに抑えられて動きが止まる。
「あ、あの……俺、……」
知らなかった。としどろもどろに伝える様を面白そうに見ていたルートヴィヒが再び耳元へと顔を寄せてくる。
「──知っていたら、つけなかった?」
囁きとともに吐息が肌を揺らす。やわやわと耳を食まれると声を上げそうになって抑えられたままの手を握り締めた。
「……も、と…ちゃんと、つけたかった……です」
ルートヴィヒが体を起こす。至近距離で見つめられて、頬が熱くなる。
「腕に、しか塗らなかった、から。そういう意味なら──」
全身に塗ったのに。
震える声にルートヴィヒの眼が細められる。掴んでいた手首を解放すると、掌を重ねてそっと握った。
一度指を握ってから手が離れていく。完全に身体を起こしたルートヴィヒが、バスローブのポケットから小さな小瓶を取り出した。
「……それは?」
蓋を外すと漂う香り。自分のとは異なる香りの香油を掌にとると、合わせ目からアルノシトの胸肌へと塗り付けるよう掌を添わせた。
「……君の香油と対になっているもの──花婿がつけることが多いものだな。意味は──同じなんだが」
ぬるりと肌を滑る指先。合わせ目を広げ、胸肌が見える程に大きく広げられたそれ。先程腕につけた自分の香りと混ざり合い、別の香りになるように感じて眼を瞬かせる。
「ん……」
もぞりと身じろぐ。香りに酔ってしまったように、頭がぼんやりとしてくるのに緩々と頭を振った。
「──二つの香油を混ぜると。媚薬になる……「そういう」ものだ、これは」
多分メイドが気を利かせたのだろうが──余計な気遣いだったな。
怒るでも呆れるでもなく。ただ困ったように呟く声。
アルノシトは声は出なかったが眼を軽く見開いた。香油を塗り付けたルートヴィヒの指がバスローブの紐を解き、前を開いていく。
露にされた胸肌から腹の辺りが香油のせいで濡れ光り、息をする度に肌が震える様が良く見える。
「…………ルートヴィヒ、さん」
声が震える。羞恥からか、それとも別の感情か。自分でも分からないまま、ゆっくりと言葉を続けた。
「俺……塗って、欲しいです……」
ルートヴィヒの動きが止まる。言葉を続けようと一度深呼吸。
「……ルートヴィヒさんに……俺の、全部──貰って欲しいから」
今までも全部渡してきたつもりだったが。
今以上に何か、出来ることがあるなら。悲愴にも見える決意に、ルートヴィヒは優しく頬へと口づける。
「有難う。でも──明日、お爺様のところに戻るんだろう?あまり無茶はさせられない」
自分と違ってこんな時でも冷静だ。
子供じみた独占欲が恥ずかしくなって目を逸らした。ルートヴィヒは気にする様子なく、頬から顔全体へと何度も口付けた後、再び手を重ねた。
ぬるりと滑る香油の感触。ぎゅ、と力を込めると、同じように握り返してくれる。
「だから──今度、やり直そう……」
鼻先から唇へ。触れるだけの口付けから額を重ねて視線を重ねる。柔らかい表情にアルノシトは小さく頷いた。
と、ほぼ同時に再び口づけられて軽く顎が仰け反る。今までとは違い、深く重ねて口腔を探られると、絡めた指が震えた。
「ん、…──」
くちくちと小さな水音。角度を変えて口付けながら、もう片方の手が肌を滑り降りていく。
塗り付けられた香油を広げるように、丁寧に肌を撫でられると、それだけで腰が震えてしまう。
「──は、……」
唇から顎、首筋と下へと滑る動きに自然と顔を傾けて受け入れる。肌の熱で香油が暖まったせいか、先程よりも強く香ることにゆっくりと眼を瞬かせた。
まだ埋もれたままの胸の突起へと唇が被せられる。強く弱く、吸い上げながら舌で擽られると溜まらず足を捩り声を上げてしまう。
香油を掬い上げた指は更に下へ。性器には触れず、その奥へと触れる動きに、アルノシトは足を開いた。
「……ぅ、ぁ……」
香油まみれの指が襞を丁寧になぞる動きに合わせてひくつくそこ。久し振りの行為ということもあって、少しばかりぎこちない動きにルートヴィヒはいつもより丁寧に指を這わせてから差し入れた。
「っあ……、ア……」
きゅうと強く締め付けてしまう。香油の力を借りて滑り込んだ指は排出されることなく奥へと埋め込まれて行く。
「ルートヴィヒさ、ん……っ、……」
中の指が動くたび、吐息が零れる。尖り始めた小さな突起を根元から舌で擽られると、大きく声を上げてしまい、羞恥で肌が薄く染まった。
反射的に唇を噛んで堪えようとするが、堪え切れずに乱れた呼気が口端から零れてしまう。
「……我慢しなくていい、から……君の声が聴きたい」
ちゅ、と音を立てて肌を吸い上げられる。そんな優しい声でずるい、とアルノシトは眉を寄せた。
「……ぁ、や…──、…ふっ、は……」
中で動く指に合わせて腰が揺れる。広げた足先がシーツを掴んでかき乱す度に不自然にベッドが軋む。
身体の中心、頭を擡げた性器の先から、つ、と透明な雫が伝い落ちていく。
「ん──っ、……ぁ…はぁ、ふ」
いつの間にか唇を噛むことを忘れて声を上げていた。香油に混ざる生々しい淫臭にも欲を掻き立てられてしまう。
中を探る指の数が増やされる。嬌声に中を掻き混ぜる音が混ざり合うのに、かり、と胸に歯を立てられて、一際大きく体が跳ねる。
「──……すまない。痛かったか?」
顔を上げたルートヴィヒの問いかけに、アルノシトは左右に首を振った。
「だい、じょぶ……です……、それ、より──」
言いながら中の指を締め付ける。言葉の続きを悟って、ゆっくりと指が引き抜かれていく。
改めて太腿に手が置かれる。広げた足を更に上げられ、熱が押し当てられるとその熱さと質量に息を飲んだ。
「んぁ──ッ……あ、ァっ、あ……」
自然と大きくなる声。甘さの混じった響きにルートヴィヒは動きを止めず、ばつ、と肌がぶつかるまで一息に押し込んだ。
ふるりと頭を振ると、滲んだ汗が顎先から伝い落ちる。
「は……」
蕩けた肉の壁が熱へと絡みつく。久し振りの行為にも関わらず、貪欲に蠢き貪ろうとするそれに、ルートヴィヒに笑みが浮かんだ。
「香油の……せい、かな──君の中、凄く熱い……」
途切れ途切れの言葉にアルノシトは視線を上げた。
熱を帯びたルートヴィヒの眼と重なる。中だけでなく、表情までを蕩けさせて震える指を自分の太腿に置かれたルートヴィヒの手に重ねる。
「……わか、ない、けど……ルートヴィヒさん、に抱かれるの……うれし──」
言い終わる前に腰が動いた。ぎしりとベッドが大きく軋む。後はもう、ただ声を上げ、身体をくねらせて熱に溺れるだけの時間。
香油の香りに混ざる互いの汗と肌の熱。ふわふわとした意識の中、アルノシトは両腕を伸ばしてルートヴィヒへとしがみついた。
自然と近くなる顔。どちらからともなく、口づけては離れ、また触れあいを繰り返しながら、熱を吐き出していく。
達した余韻に震えるアルノシトの手がゆっくりと持ち上げられる。最初と同じように、掌を重ね合わせた形へと変えながらベッドへ押し付けられていくのを、ぼんやりと見送った。
絡めた指先を甘えるようにすり合わせながら、腰が揺らめき始める。全身で互いの熱を感じながら、アルノシトは何とも言えない感覚に眼を閉じて溺れた。
検査の結果は「問題なし」ということで、明日には屋敷を出て自分の家に戻るつもりだ。手伝える人を派遣した、とは聞いているけれど、だからといって自分がここでずっと甘えていていい理由にはならないだろう。
ルートヴィヒに相談したところ、少し名残惜しそうにしながらも、無理に引き留めるような事はしなかった。
せめて今日の夜は出来るだけ一緒に。
そう約束して出かけたのが朝の事。今は少し早めの夕食を済ませて、入浴の準備をしているところだ。
「アルノシト様、香油はどうなさいますか?」
ここにきてから毎日聞かれている。いつもはなしで、と答えているのだが、今日は──
「……じゃぁ。折角だから、おすすめのを教えて欲しいです」
かしこまりました、と下がったメイドが小さな瓶を手に戻ってくる。香りがきつすぎるのは断るつもりだったが、それほど強い香りではなく、落ち着いた柔らかい香り。
これなら、と受け取って、使い方の説明を受けてから風呂へ。
最初はお手伝いします、なんて言われて面食らったが、一人で入ることを伝えた後は、それ以上干渉されなかった。
ルートヴィヒも誰かに「手伝って」貰っているのだろうか。手伝うって具体的に何をするんだろう。
他愛ない事を考えながら、汗を流して湯から上がる。
「えっと……」
水気をふき取った後、適量を肌に塗る──適量ってどれくらい?。擦りすぎるのは逆効果だって聞いたけど……。
おぼつかない手つきで首から腕、に塗ってみる。ほんのりと香が漂うのは、香水よりも使いやすいのかも知れない。
が、どうにも慣れなくて、全身に塗ることはせず、腕だけ塗ってからバスローブを羽織って外へ。
小瓶を手にしたままベッドに向かう。サイドボードへと小瓶を置いたところで、扉の開閉音。
「お帰りなさい」
「ただいま」
姿を見せたルートヴィヒも自分と同じように風呂上り。屋敷に風呂がいくつあるんだろう、なんて考えつつ傍に近づくと、ルートヴィヒの眉が上がった。
「アルノシト……」
「はい」
何かおかしなことをしただろうか。不安げに見つめると、ルートヴィヒが困ったように目を伏せる。
「……その香油は……」
並んでベッドに腰を下ろす。もしかして苦手な香りだっただろうか。
「おすすめって教えてもらったんですけど……」
そこでようやく合点がいった、とルートヴィヒの表情が変わった。どこか楽し気な様子でアルノシトの髪へと触れ、手で掬い上げたそれに口づけてくる。
「……?」
いまだ不安げなアルノシトに気づくと、ルートヴィヒは小さく笑った。
「その香油の意味を知っているか?」
「え?」
やっぱり。
そう言いたげに眼を細めると、優しい動きで押し倒される。こめかみから耳へと口付けを繰り返しながら降りていく動きにびくりと肩が震える。
「……「私の全てを捧げます」。初夜を迎える花嫁が身にまとう事が多いものだよ」
「?!」
驚きのあまり反射的に起き上がろうとしてしまった。が、両手をルートヴィヒに抑えられて動きが止まる。
「あ、あの……俺、……」
知らなかった。としどろもどろに伝える様を面白そうに見ていたルートヴィヒが再び耳元へと顔を寄せてくる。
「──知っていたら、つけなかった?」
囁きとともに吐息が肌を揺らす。やわやわと耳を食まれると声を上げそうになって抑えられたままの手を握り締めた。
「……も、と…ちゃんと、つけたかった……です」
ルートヴィヒが体を起こす。至近距離で見つめられて、頬が熱くなる。
「腕に、しか塗らなかった、から。そういう意味なら──」
全身に塗ったのに。
震える声にルートヴィヒの眼が細められる。掴んでいた手首を解放すると、掌を重ねてそっと握った。
一度指を握ってから手が離れていく。完全に身体を起こしたルートヴィヒが、バスローブのポケットから小さな小瓶を取り出した。
「……それは?」
蓋を外すと漂う香り。自分のとは異なる香りの香油を掌にとると、合わせ目からアルノシトの胸肌へと塗り付けるよう掌を添わせた。
「……君の香油と対になっているもの──花婿がつけることが多いものだな。意味は──同じなんだが」
ぬるりと肌を滑る指先。合わせ目を広げ、胸肌が見える程に大きく広げられたそれ。先程腕につけた自分の香りと混ざり合い、別の香りになるように感じて眼を瞬かせる。
「ん……」
もぞりと身じろぐ。香りに酔ってしまったように、頭がぼんやりとしてくるのに緩々と頭を振った。
「──二つの香油を混ぜると。媚薬になる……「そういう」ものだ、これは」
多分メイドが気を利かせたのだろうが──余計な気遣いだったな。
怒るでも呆れるでもなく。ただ困ったように呟く声。
アルノシトは声は出なかったが眼を軽く見開いた。香油を塗り付けたルートヴィヒの指がバスローブの紐を解き、前を開いていく。
露にされた胸肌から腹の辺りが香油のせいで濡れ光り、息をする度に肌が震える様が良く見える。
「…………ルートヴィヒ、さん」
声が震える。羞恥からか、それとも別の感情か。自分でも分からないまま、ゆっくりと言葉を続けた。
「俺……塗って、欲しいです……」
ルートヴィヒの動きが止まる。言葉を続けようと一度深呼吸。
「……ルートヴィヒさんに……俺の、全部──貰って欲しいから」
今までも全部渡してきたつもりだったが。
今以上に何か、出来ることがあるなら。悲愴にも見える決意に、ルートヴィヒは優しく頬へと口づける。
「有難う。でも──明日、お爺様のところに戻るんだろう?あまり無茶はさせられない」
自分と違ってこんな時でも冷静だ。
子供じみた独占欲が恥ずかしくなって目を逸らした。ルートヴィヒは気にする様子なく、頬から顔全体へと何度も口付けた後、再び手を重ねた。
ぬるりと滑る香油の感触。ぎゅ、と力を込めると、同じように握り返してくれる。
「だから──今度、やり直そう……」
鼻先から唇へ。触れるだけの口付けから額を重ねて視線を重ねる。柔らかい表情にアルノシトは小さく頷いた。
と、ほぼ同時に再び口づけられて軽く顎が仰け反る。今までとは違い、深く重ねて口腔を探られると、絡めた指が震えた。
「ん、…──」
くちくちと小さな水音。角度を変えて口付けながら、もう片方の手が肌を滑り降りていく。
塗り付けられた香油を広げるように、丁寧に肌を撫でられると、それだけで腰が震えてしまう。
「──は、……」
唇から顎、首筋と下へと滑る動きに自然と顔を傾けて受け入れる。肌の熱で香油が暖まったせいか、先程よりも強く香ることにゆっくりと眼を瞬かせた。
まだ埋もれたままの胸の突起へと唇が被せられる。強く弱く、吸い上げながら舌で擽られると溜まらず足を捩り声を上げてしまう。
香油を掬い上げた指は更に下へ。性器には触れず、その奥へと触れる動きに、アルノシトは足を開いた。
「……ぅ、ぁ……」
香油まみれの指が襞を丁寧になぞる動きに合わせてひくつくそこ。久し振りの行為ということもあって、少しばかりぎこちない動きにルートヴィヒはいつもより丁寧に指を這わせてから差し入れた。
「っあ……、ア……」
きゅうと強く締め付けてしまう。香油の力を借りて滑り込んだ指は排出されることなく奥へと埋め込まれて行く。
「ルートヴィヒさ、ん……っ、……」
中の指が動くたび、吐息が零れる。尖り始めた小さな突起を根元から舌で擽られると、大きく声を上げてしまい、羞恥で肌が薄く染まった。
反射的に唇を噛んで堪えようとするが、堪え切れずに乱れた呼気が口端から零れてしまう。
「……我慢しなくていい、から……君の声が聴きたい」
ちゅ、と音を立てて肌を吸い上げられる。そんな優しい声でずるい、とアルノシトは眉を寄せた。
「……ぁ、や…──、…ふっ、は……」
中で動く指に合わせて腰が揺れる。広げた足先がシーツを掴んでかき乱す度に不自然にベッドが軋む。
身体の中心、頭を擡げた性器の先から、つ、と透明な雫が伝い落ちていく。
「ん──っ、……ぁ…はぁ、ふ」
いつの間にか唇を噛むことを忘れて声を上げていた。香油に混ざる生々しい淫臭にも欲を掻き立てられてしまう。
中を探る指の数が増やされる。嬌声に中を掻き混ぜる音が混ざり合うのに、かり、と胸に歯を立てられて、一際大きく体が跳ねる。
「──……すまない。痛かったか?」
顔を上げたルートヴィヒの問いかけに、アルノシトは左右に首を振った。
「だい、じょぶ……です……、それ、より──」
言いながら中の指を締め付ける。言葉の続きを悟って、ゆっくりと指が引き抜かれていく。
改めて太腿に手が置かれる。広げた足を更に上げられ、熱が押し当てられるとその熱さと質量に息を飲んだ。
「んぁ──ッ……あ、ァっ、あ……」
自然と大きくなる声。甘さの混じった響きにルートヴィヒは動きを止めず、ばつ、と肌がぶつかるまで一息に押し込んだ。
ふるりと頭を振ると、滲んだ汗が顎先から伝い落ちる。
「は……」
蕩けた肉の壁が熱へと絡みつく。久し振りの行為にも関わらず、貪欲に蠢き貪ろうとするそれに、ルートヴィヒに笑みが浮かんだ。
「香油の……せい、かな──君の中、凄く熱い……」
途切れ途切れの言葉にアルノシトは視線を上げた。
熱を帯びたルートヴィヒの眼と重なる。中だけでなく、表情までを蕩けさせて震える指を自分の太腿に置かれたルートヴィヒの手に重ねる。
「……わか、ない、けど……ルートヴィヒさん、に抱かれるの……うれし──」
言い終わる前に腰が動いた。ぎしりとベッドが大きく軋む。後はもう、ただ声を上げ、身体をくねらせて熱に溺れるだけの時間。
香油の香りに混ざる互いの汗と肌の熱。ふわふわとした意識の中、アルノシトは両腕を伸ばしてルートヴィヒへとしがみついた。
自然と近くなる顔。どちらからともなく、口づけては離れ、また触れあいを繰り返しながら、熱を吐き出していく。
達した余韻に震えるアルノシトの手がゆっくりと持ち上げられる。最初と同じように、掌を重ね合わせた形へと変えながらベッドへ押し付けられていくのを、ぼんやりと見送った。
絡めた指先を甘えるようにすり合わせながら、腰が揺らめき始める。全身で互いの熱を感じながら、アルノシトは何とも言えない感覚に眼を閉じて溺れた。
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