俺が想うよりも溺愛されているようです。

アオハル

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日常

場所-C-

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 こうして二人で逢うようになってから何度目かの夜。
 いつものように他愛のない話をした後、どちらからともなく指を伸ばし、口付けを交わした後でベッドへと向かうのもいつもの事。
「ぁ、っ、……」
 ぎし、ぎし、とベッドの軋む音に混ざる嬌声。シーツの上に広がる白い髪。大きく広げられた足を抱えられ、腰を打ち付けられる度に潤滑剤と体液の入り混じったものが粘着質な音を立てている。
 ばつ、ばつ、と肌を打つ度に腹の上で揺れる性器がひくつき、吐き零したものが互いの肌を汚していく。
「んぁ…、ふ…ル、トヴィヒさ……──」
 上気した肌に乱れた呼吸。快感に甘く濁った声が紡ぐ言葉は不明瞭。だが、名を呼ぶ度に己の腰を掴む指に力が籠り、中を抉る熱が質量を増すような気がして途切れ途切れに何度も名を呼び、声を上げると、更に深い場所を抉るように引き寄せられた。
 反射的に逃げ出そうとするように体をくねらせ、腰が跳ねる。逃がさない、と掴む指に力が籠る。
「───、……、………ッ」
 ふらふらと揺れていた足を絡みつかせると同時に熱を吐き出した。腹の間に広がる淫臭と体の奥で吐き出される熱と。
 絡みつかせた足が震える。びくびくと達した余韻に全身を震わせていると、緩い動きで腰を揺らされ、声が零れる。
「──ぁ、…、っ、あ、ア…──…」
 達した余韻に浸りたいのは相手も同じようで。二度、三度、と緩々腰を揺らしながら、自分の中へと熱を塗り込められていく感覚。
 そうして腰を掴んでいた指が離れ、背中へと回されて行く。けだるげな動きで抱きしめられて、緩みかけていた足を再び腰へと絡みつかせ甘える動きで肌を摺り寄せた。
「……アルノシト」
 少しだけ掠れた声。行為の後だけの声音で名を呼ばれると吐息が零れる。緩い動きで耳を食まれて肩を揺らした。
「擽ったい……、です」
 答えはないが、肌にかかる呼気の変化で笑った事が伝わる。繰り返し耳やこめかみの辺りへと口づけられて肩を揺らしながら、自分も絡めた足を遊ばせてじゃれつかせたりして甘える。
 昂らせた熱が完全に引くわけではない。かといって、夢中になって貪り合う程の強い熱を掻き立てるでもない。
 何とも言えないこの時間がとても好きだ。
 再確認してアルノシトは眼を閉じる。抱かれる前も、抱かれている最中も。そうでなくても、ただ会話を交わすだけの時間もとても好きなのだけれども。
 暫くそうしてじゃれ合っていたが、ルートヴィヒの腕が緩められた。埋め込まれたままの熱を無意識に締め付けてしまう。
「……」
 ふ、とルートヴィヒの表情が緩む。少しばかり体を起こすと、今度は顔中に口付けられ、また笑ってしまう。
「……くすぐったい、ってば……」
 最後に頬へと口づけてから、改めて体を起こす。ずるりと引き抜かれて行く感覚に息を詰め、身体を震わせる。
 ふぅ、と大きく息を吐き出したルートヴィヒが頬を撫でる。そのまま横へと体を倒した彼に抱き寄せられるまま距離を詰めた。
 自分からも腕を回して肌を寄せる。身じろげば溢れ出したものが肌を伝う感覚にほんの少し頬が熱くなる。
「……ルートヴィヒさん」
 顔は胸に埋めたまま。髪を梳く指の動きに心地よさげに表情を緩めながら抱きしめる腕に力を込める。返事を待つように髪を梳く動きが鈍るのに、おずおずと視線を上げて顔を見つめる。 
「俺……ルートヴィヒさんと、こうしているの…好きです」
 顔を伏せてしまった。押し当てた胸が小さく上下するのは、笑ったからだろうか。再び髪を撫でられながら、その心地良さにゆっくりと息を吐き出す。
「私もだ。……君がいない時間の過ごし方を忘れるくらいに」
 え?と顔を上げた。ほんの少し困ったように眉を下げたルートヴィヒと視線が重なる。
「馬鹿なことを、と笑われるかも知れないが。君がいない間の私は、どうやって息をして眠っていたのか──思い出せない。それくらい、君の肌を感じて呼吸を感じながら眼を閉じるこの時間が──」

 大切なものだ。

 一度強く抱きしめられる。腕はすぐに緩められた。改めて顔を向けると、首を傾げて自分を見ているルートヴィヒがいる。
「………、…本当に……?」
「────あぁ」
 穏やかな笑みを浮かべたまま、けれど、しっかりと頷かれて顔が熱くなる。胸に顔を押し当て、頬を摺り寄せた。
「なら……」
 一緒に暮らしたい。
 と思わぬ訳ではない。だが、祖父の店の手伝いも、愛犬のことも、店の客のことも。どれも大切で大事にしたい事柄。
 ルートヴィヒの傍に行く、ということは、それら全てを手放さなければならない。祖父は「お前の好きにしなさい」と言ってくれるけれど────
「アルノシト」
 名を呼ばれて顔を上げる。横髪へ指が差し込まれ、びく、と肩が震えた。
「私は君のお爺様も。ジークも──そしてあの店も。街も……何よりも。あの場所に居る君がとても好きだ」
 だから、今のままでいい。
 言いながら髪を梳いてくれる。溜まらなくなって、抱きしめる腕に力を込めた。
「………俺、も……テレビや新聞で見るルートヴィヒさん……大好きです」

 ベーレンドルフの若き総帥。

 肩書とともに新聞や雑誌で見るルートヴィヒの姿は、今こうして髪を撫でてくれている姿とはまるで別人のように見える。

 自信と野心に溢れた天才。

 そんな煽り文句で飾られた彼の本質はとても繊細で優しい。彼のそういう一面を知っているのは、自分だけではないだろう。
 それでも──ベーレンドルフ財閥総帥ではなく。ルートヴィヒとして休める場所が自分の傍であればいいと思ってしまう。
「でも──こうして。俺だけ見詰めてくれるルートヴィヒさんが……一番、好き……です」
 声が小さくなってしまう。言い終えると頬の熱さをごまかすように、顔を伏せた。顔が熱い。多分、耳まで赤くなっているのではないだろうか。
「────有難う」
 やや長い沈黙の後。掠れた声で紡がれた言葉にアルノシトは小さく頷き返した。
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