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恋人の愛は少し……いや、かなり重いです。-1A-
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お互いに熱を貪り合った後の穏やかな時間を過ごし、いつの間にか眠ってしまった後。
隣で動く気配に洋佑はゆっくりと眼を開いた。
「……佑?」
名前を呼ぶ声に動きが止まる。自分を抱く格好で眠っていた佑は既に開いていた眼を僅かに見開いた後、穏やかに笑う。
「おはよう、洋佑さん」
おはようには少し早い時間かも知れないが。ふ、と欠伸をかみ殺しながら、洋佑も笑みで返した。
「おはよ……走りに行くのか?」
時間的にはいつもよりも少し早めの時間。とはいえ、早すぎるという程でもないから、何気なく問いかけると、予想外の返事。
「ん。どうしようかなって思ってた」
「……体調悪いのか?」
首を左右に振る。そのまま洋佑の髪を撫でながら眼をほそめた。
「洋佑さんの寝顔、見てたいなって」
え、と声は出ないが口が変わる。予想もしていなかった言葉に洋佑は一瞬言葉に詰まる。髪を撫でる手の心地良さに顔を寄せて胸に伏せるのは、表情を隠すためでもある。
「……俺の顔なんて、いつでも見れるだろ」
「今日は特別だよ」
か、と頬が熱くなる。自分から言い出したこととはいえ、腹の中に熱が欲しい、なんて──
「……」
ねだった時のことも、その後のことも。佑に抱かれた行為そのものを鮮明に思い出してしまう。反射的にしがみつくように顔を埋めながら無言の時間が流れた。
その間、佑も何も言わずに洋佑の髪を撫で続ける。
「…………な、佑」
どれくらい時間が過ぎたか。ほんの少しだったようにも長い時間のようにも思える。ほんの少し顔を浮かせて、佑の方を見る。
「俺、一緒に行きたい」
「え?でも……」
言い淀む佑。正直、少し下半身はだるいままだ。走るのは難しいかも知れない。でも──
「お前と一緒に歩きたいんだ。駄目か?」
佑が一人の時間を大事にしていることも知っているから、走りたい気分なら邪魔はしたくなかった。その気持ちを知ってか、知らずか、佑は穏やかに笑いながら頷く。
「いいよ。一緒に行こう。でも──」
無理はしないで。
気遣う言葉に洋佑は静かに頷き返した。
◇◇◇◇◇◇◇
二人でシャワーを浴びて外に出る。日はまだ上っていないが、東の空は明るくなっており、そのうちに光がさすだろう。
朝特有の空気を吸いながら、普段よりも遅い足取りで道を歩く。会話らしい会話はないが、不思議な居心地の良さに流れる空気は穏やかだ。
時折、通り過ぎる車や犬の散歩の人。自分たちと同じようにランニングウェアに身を包んだ人。すれ違うそれらに道の端へ寄ったり、立ち止まったり。
その時間すら楽しい気がして、洋佑は自然と表情を緩める。無意識のうちに指を伸ばして佑の手を取った。振り払われるかと思ったが、一瞬の硬直の後、指を絡めたまま上着のポケットへと運ばれる。
ちらりと見上げれば穏やかな笑みが返ってきた。それだけで妙に心が浮き立って、絡めた指に力を込める。
そんなことをしているうちに、目的地──洋佑にとっては、だが──の臨海公園へと。
すっかり明るくはなってきているが、いまだ太陽は顔をのぞかせていない。二人でベンチへと腰を下ろして暫く。無言の時間が流れるうちに、周囲が一際明るくなる。
「あ……」
一度顔を出せば早い。眩しいと感じる程の光に眼を細めた後、洋佑は一度指に力を込めてからそっと手を引く。
「佑」
返事はないが、話を聞く姿勢になったことは気配で分かる。自分も顔は向けないまま。一瞬の間を置いて、明るくなっていく街を眺めながらゆっくりと口を開く。
「……一緒に住むときの約束……覚えてるか?」
先程とは別の沈黙。
「……我慢できなくなったら、ちゃんと言うって話?」
表情は分からないが、声音は穏やかだ。うん、と頷き返した後、洋佑はゆっくりと息を吐き出した。
「あれ、さ……もし。……もし、佑が、ちょっとでも無理だって思ってたら。今、言って欲しい」
返事はない。が、洋佑はそのまま続ける。
「ごめん……俺。……佑が……俺に飽きたら、すぐ出ていくつもりだった」
動揺した気配が伝わってくる。
「一年か半年か……もっと短いかもだけど。いい奴だから、俺なんかよりもっといい人見つけるだろうなって」
漸く視線を向ける。驚いたままの表情で固まった佑と目が合う。安心させたかったのか、詫びたかったのか。洋佑は自分でも分からない複雑な感情のまま情けない表情で笑う。
「そう……思ってたけど。ごめん」
膝の上に置いた手を握り締める。真っすぐに佑を見つめたまま、一度深呼吸してから言葉を続けた。
「俺が──佑から離れたくない」
また佑の眼が見開かれる。驚き以外の感情は分からない。
「これ以上一緒にいたら。俺、みっともなく縋り付いてでも離れたくないって……我侭言っちゃうから、さ」
だから──
「洋佑さん!」
びくりと肩が跳ねると同時。伸びてきた腕に抱き締められて動きが止まる。痛いくらい力が籠る腕が震えていることに気づいて、洋佑は動きを止めた。
「……佑……?」
名を呼ぶと、腕の震えが止まった。だが、力は緩まらない。むしろ強くなる気配。このまま抱き潰されるのではないかと思うくらい強く抱きしめられた後、ゆっくりと腕が緩まっていく。
「洋佑さん……」
今度は声が震えている。緩まった腕は完全に解けることなく、洋佑の頬を両手で包み込む。
「……僕、……僕もね。怖かった」
今度は洋佑が呆ける番だ。頬を包んだ指は愛し気に肌を撫でている。
「洋佑さんが……明日から別の場所で暮らすって言うんじゃないかって。会社に行ったきり戻って来なくなる日が来るんじゃないかって」
ずっと怖かった。
肌を撫でる手の動きが止まる。頬から指が滑り、また抱きしめられる。
「でも、それでもいいって……洋佑さんが幸せだったら、それでいいって思ってたけど……」
己を抱く腕が再び震えた。は、と短く息を吐き出した後、佑の声も震える。
「──洋佑さんと離れたくない。出ていくって言われたら、みっともなく泣いて我侭言って……」
それから──
無言。どうしようか思いつかなかったらしい。ただ抱きしめた腕を緩め、今度は優しい動きで洋佑の頬を静かに撫でる。
「……洋佑さん」
指が離れていく。そのまま体も離して、ベンチから立ち上がると、佑は洋佑の正面にひざまずく。今まで見たことがないくらいに真剣な目で見つめられて、洋佑も自然と居住まいを正す。
「洋佑さん」
改めて名を呼ばれる。返事の代わりに視線を向けると、真っ直ぐ自分を見つめる眼とぶつかる。
「僕と──ずっと一緒にいてください」
頷きかけて我に返る。あ、と声を出して視線を逸らすと顔が熱くなる。
「俺…その、…………絶対、手、離したくないって──駄々こねるぞ?」
「うん」
「……今まで以上にだらしなくなるぞ?……」
「うん」
それから──
しどろもどろな言葉全て。頷きと笑みとで受け止めてくれる佑。ついに何も思いつかなくなってから、漸く洋佑は顔を向けた。辛抱強く膝をついたまま。佑はただ、洋佑の返事を待っている。
「……佑」
首を傾げる佑。愚直なまでに自分の言葉を待ってくれているその姿に洋佑はゆっくりと口を開いた。
「────俺…………朝野洋佑は──結城佑と……この先……ずっと一緒にいたい、……です」
改めて口にする言葉の重さ。本当に自分でいいのかと思う気持ちと、佑でなければ嫌だと思う気持ちと。複雑にまじりあったそれは一言で伝えるには難しい──が。
跪いていた佑の指が洋佑の手を捉える。大切なものに触れる指先の動きはどこまでも優しく、穏やかだ。そっと包んだ指先に触れるだけの口付けを落とした後、佑は静かに立ち上がった。
差し出された手を素直に取って洋佑も立ち上がる。
「洋佑さん。僕……ずっと言えなかった言葉があるんだけど」
来る時と同じように。ポケットに指を入れながら告げる佑。何事かと続きを促すと、ポケットの中の指を強く握られた。
「…………愛してる」
好きよりも強い言葉。時折、いいあぐねていた言葉を漸く聞くことが出来て、口にするのを躊躇っていた理由も理解する。同時に佑らしい気の使い方だと眼を細めた。
隣で動く気配に洋佑はゆっくりと眼を開いた。
「……佑?」
名前を呼ぶ声に動きが止まる。自分を抱く格好で眠っていた佑は既に開いていた眼を僅かに見開いた後、穏やかに笑う。
「おはよう、洋佑さん」
おはようには少し早い時間かも知れないが。ふ、と欠伸をかみ殺しながら、洋佑も笑みで返した。
「おはよ……走りに行くのか?」
時間的にはいつもよりも少し早めの時間。とはいえ、早すぎるという程でもないから、何気なく問いかけると、予想外の返事。
「ん。どうしようかなって思ってた」
「……体調悪いのか?」
首を左右に振る。そのまま洋佑の髪を撫でながら眼をほそめた。
「洋佑さんの寝顔、見てたいなって」
え、と声は出ないが口が変わる。予想もしていなかった言葉に洋佑は一瞬言葉に詰まる。髪を撫でる手の心地良さに顔を寄せて胸に伏せるのは、表情を隠すためでもある。
「……俺の顔なんて、いつでも見れるだろ」
「今日は特別だよ」
か、と頬が熱くなる。自分から言い出したこととはいえ、腹の中に熱が欲しい、なんて──
「……」
ねだった時のことも、その後のことも。佑に抱かれた行為そのものを鮮明に思い出してしまう。反射的にしがみつくように顔を埋めながら無言の時間が流れた。
その間、佑も何も言わずに洋佑の髪を撫で続ける。
「…………な、佑」
どれくらい時間が過ぎたか。ほんの少しだったようにも長い時間のようにも思える。ほんの少し顔を浮かせて、佑の方を見る。
「俺、一緒に行きたい」
「え?でも……」
言い淀む佑。正直、少し下半身はだるいままだ。走るのは難しいかも知れない。でも──
「お前と一緒に歩きたいんだ。駄目か?」
佑が一人の時間を大事にしていることも知っているから、走りたい気分なら邪魔はしたくなかった。その気持ちを知ってか、知らずか、佑は穏やかに笑いながら頷く。
「いいよ。一緒に行こう。でも──」
無理はしないで。
気遣う言葉に洋佑は静かに頷き返した。
◇◇◇◇◇◇◇
二人でシャワーを浴びて外に出る。日はまだ上っていないが、東の空は明るくなっており、そのうちに光がさすだろう。
朝特有の空気を吸いながら、普段よりも遅い足取りで道を歩く。会話らしい会話はないが、不思議な居心地の良さに流れる空気は穏やかだ。
時折、通り過ぎる車や犬の散歩の人。自分たちと同じようにランニングウェアに身を包んだ人。すれ違うそれらに道の端へ寄ったり、立ち止まったり。
その時間すら楽しい気がして、洋佑は自然と表情を緩める。無意識のうちに指を伸ばして佑の手を取った。振り払われるかと思ったが、一瞬の硬直の後、指を絡めたまま上着のポケットへと運ばれる。
ちらりと見上げれば穏やかな笑みが返ってきた。それだけで妙に心が浮き立って、絡めた指に力を込める。
そんなことをしているうちに、目的地──洋佑にとっては、だが──の臨海公園へと。
すっかり明るくはなってきているが、いまだ太陽は顔をのぞかせていない。二人でベンチへと腰を下ろして暫く。無言の時間が流れるうちに、周囲が一際明るくなる。
「あ……」
一度顔を出せば早い。眩しいと感じる程の光に眼を細めた後、洋佑は一度指に力を込めてからそっと手を引く。
「佑」
返事はないが、話を聞く姿勢になったことは気配で分かる。自分も顔は向けないまま。一瞬の間を置いて、明るくなっていく街を眺めながらゆっくりと口を開く。
「……一緒に住むときの約束……覚えてるか?」
先程とは別の沈黙。
「……我慢できなくなったら、ちゃんと言うって話?」
表情は分からないが、声音は穏やかだ。うん、と頷き返した後、洋佑はゆっくりと息を吐き出した。
「あれ、さ……もし。……もし、佑が、ちょっとでも無理だって思ってたら。今、言って欲しい」
返事はない。が、洋佑はそのまま続ける。
「ごめん……俺。……佑が……俺に飽きたら、すぐ出ていくつもりだった」
動揺した気配が伝わってくる。
「一年か半年か……もっと短いかもだけど。いい奴だから、俺なんかよりもっといい人見つけるだろうなって」
漸く視線を向ける。驚いたままの表情で固まった佑と目が合う。安心させたかったのか、詫びたかったのか。洋佑は自分でも分からない複雑な感情のまま情けない表情で笑う。
「そう……思ってたけど。ごめん」
膝の上に置いた手を握り締める。真っすぐに佑を見つめたまま、一度深呼吸してから言葉を続けた。
「俺が──佑から離れたくない」
また佑の眼が見開かれる。驚き以外の感情は分からない。
「これ以上一緒にいたら。俺、みっともなく縋り付いてでも離れたくないって……我侭言っちゃうから、さ」
だから──
「洋佑さん!」
びくりと肩が跳ねると同時。伸びてきた腕に抱き締められて動きが止まる。痛いくらい力が籠る腕が震えていることに気づいて、洋佑は動きを止めた。
「……佑……?」
名を呼ぶと、腕の震えが止まった。だが、力は緩まらない。むしろ強くなる気配。このまま抱き潰されるのではないかと思うくらい強く抱きしめられた後、ゆっくりと腕が緩まっていく。
「洋佑さん……」
今度は声が震えている。緩まった腕は完全に解けることなく、洋佑の頬を両手で包み込む。
「……僕、……僕もね。怖かった」
今度は洋佑が呆ける番だ。頬を包んだ指は愛し気に肌を撫でている。
「洋佑さんが……明日から別の場所で暮らすって言うんじゃないかって。会社に行ったきり戻って来なくなる日が来るんじゃないかって」
ずっと怖かった。
肌を撫でる手の動きが止まる。頬から指が滑り、また抱きしめられる。
「でも、それでもいいって……洋佑さんが幸せだったら、それでいいって思ってたけど……」
己を抱く腕が再び震えた。は、と短く息を吐き出した後、佑の声も震える。
「──洋佑さんと離れたくない。出ていくって言われたら、みっともなく泣いて我侭言って……」
それから──
無言。どうしようか思いつかなかったらしい。ただ抱きしめた腕を緩め、今度は優しい動きで洋佑の頬を静かに撫でる。
「……洋佑さん」
指が離れていく。そのまま体も離して、ベンチから立ち上がると、佑は洋佑の正面にひざまずく。今まで見たことがないくらいに真剣な目で見つめられて、洋佑も自然と居住まいを正す。
「洋佑さん」
改めて名を呼ばれる。返事の代わりに視線を向けると、真っ直ぐ自分を見つめる眼とぶつかる。
「僕と──ずっと一緒にいてください」
頷きかけて我に返る。あ、と声を出して視線を逸らすと顔が熱くなる。
「俺…その、…………絶対、手、離したくないって──駄々こねるぞ?」
「うん」
「……今まで以上にだらしなくなるぞ?……」
「うん」
それから──
しどろもどろな言葉全て。頷きと笑みとで受け止めてくれる佑。ついに何も思いつかなくなってから、漸く洋佑は顔を向けた。辛抱強く膝をついたまま。佑はただ、洋佑の返事を待っている。
「……佑」
首を傾げる佑。愚直なまでに自分の言葉を待ってくれているその姿に洋佑はゆっくりと口を開いた。
「────俺…………朝野洋佑は──結城佑と……この先……ずっと一緒にいたい、……です」
改めて口にする言葉の重さ。本当に自分でいいのかと思う気持ちと、佑でなければ嫌だと思う気持ちと。複雑にまじりあったそれは一言で伝えるには難しい──が。
跪いていた佑の指が洋佑の手を捉える。大切なものに触れる指先の動きはどこまでも優しく、穏やかだ。そっと包んだ指先に触れるだけの口付けを落とした後、佑は静かに立ち上がった。
差し出された手を素直に取って洋佑も立ち上がる。
「洋佑さん。僕……ずっと言えなかった言葉があるんだけど」
来る時と同じように。ポケットに指を入れながら告げる佑。何事かと続きを促すと、ポケットの中の指を強く握られた。
「…………愛してる」
好きよりも強い言葉。時折、いいあぐねていた言葉を漸く聞くことが出来て、口にするのを躊躇っていた理由も理解する。同時に佑らしい気の使い方だと眼を細めた。
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