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日常

気になる-1-C-

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 洋佑にはずっと引っかかっていることがあった。
 何となくタイミングを逃して聞きそびれていた事。
「……聞いてもいい?」
 それはいつものように一緒に風呂に入った時。シャワーを浴び終えた佑に投げかけられた言葉。改まって何だろう、と首を傾げて続きを待つ。
「……お前、その……剃ってるの?」
 初めて見た時から気になっていた事。佑は髭もだが、腋や下の毛がない。
 ない、と言うのは間違いかも知れない。が、少なくとも、自分は佑が髭をそっているところも、腋や陰毛の処理をしているところを見たことがない。
 とはいえ、本人に確かめたことではないから、自分の知らないところで処理している可能性も残っている。
「ううん。剃ってないよ」
「え?じゃぁ……」
 生えない体質……なのだろうか。
 聞きづらそうに口ごもってしまった洋佑を見て、佑は小さく笑った。
「脱毛。何年か前に全部綺麗にしてもらった」
 言い終わると笑みを浮かべたまま洋佑の顎へと指で触れる。
「洋佑さんは……してないよね」
 嫌味や揶揄の響きはない。事実をそうとだけ告げた口調は淡々としたもので。顎をなぞって下へと滑る指の動き。胸を通り、へその下、陰毛の生え際まで滑り降るころに、洋佑は我に返った。
「あ、うん。……嫌、か?」
 すり、と指先が更に下へと。不揃いな陰毛を撫でつけるように肌を滑るのに僅かに肩が跳ねる。
「ううん。どっちでもいい」
 それ以上は弄らず、指が腰へと回された。改めて体を抱き締められると、近くなる距離に眼を伏せる。
「僕は髭剃るのが面倒で。どうせするなら全部まとめてやっちゃおうって思っただけだから。毛が生えているのが嫌とか、そういう訳じゃないよ」
「そっか……痛かった?」
「……多少は」
 少しの間の後、返って来る。詳しくはないが、ゴムで弾くような痛みがある、云々は聞いたことがある。
 髭はともかく下は──想像しようとしてやめた。緩く頭を振る洋佑を見ながら、佑は面白そうに笑う。
「一回やってみる?」
「え?」
 佑の言葉に驚いて顔を上げる。ちゅ、と触れ合わせるだけのキスをされて、動きが止まった。
「いきなり予約して……は怖いかもだから。一度剃ってみて試してみるのはどう?」
「いや、別に俺は──」
 興味がない──と続けようとしたが、言葉を飲み込む。
 今までは興味がなかったことは本当だが、佑の言葉を聞いているうちに興味がわいた……のは確か。少しの間の後、ゆっくりと佑の顔を見上げる。
「……一回、だけなら」
「じゃぁシェーバー買いに行こ。僕の使ってたやつもあるけど……本体はともかく、刃は交換しないと」
 嬉しそうに何度も口付けを繰り返されて肩を竦める。擽ったい、と呟くと佑は動きを止めた。
「ごめんね。はしゃいじゃった」
 佑の喜ぶ理由が分からなくて洋佑は一人不思議そうなまま。改めて二人でシャワーを浴びてから外へと。いつも通りに体を拭いてベッドに向かいながら、洋佑は疑問をそのまま口にする。
「やっぱり、ない方がいいのか?」
 どっちでもいい、とは言っていたが。喜ぶ理由が他に思いつかなくて確認する洋佑に佑はゆっくりと首を左右に振った。
「ううん。それはどっちでもいいのは本当。僕が嬉しいのは──」

 洋佑さんの処理が出来るから。

 にこにこと告げられて固まってしまう。
「え?」
「自分でやるの大変だし。うっかり切ったりして病院に行くなんてことになったら嫌でしょ?だから僕がする」
 確定事項のようだ。何度も目を瞬かせる洋佑を見て、何を思ったのか佑は抱きしめる腕に力を込める。
「大丈夫。怪我しないように慎重にするから」
 そういう問題ではないのだが。
 いや、今更見られて恥かしい、なんて事はない。が──
「……いや、その。佑は自分でやったんだろ?だったら──」
「自分でやったから、だよ」
 そう言われると反論できない。確かに自分で作業するには難しい場所ではある……と思う。
「…………えっと。その……お手柔らかに?」
 絶対に嫌だという程に強い抵抗感はなく。かといって、全部任せる!と言えるほどの度量もなく。自分でもよく分からないままに告げた言葉と語調は我ながらおかしなもので。
 一瞬、きょとんとした佑が嬉しそうに頷いてくれたから、それ以上は何も言わずに眼を閉じて体を寄せた。
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