恋人の愛は少し……いや、かなり重いです。

アオハル

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日常

改めましての決まり事【おまけ-A-】

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「あ、そうだ」
 夕飯を食べながら、唐突に洋佑が口を開く。
 今日の献立は冷蔵庫の残り物を色々と足した麻婆茄子風味の野菜炒め。冷凍茄子と、中途半端に残っていた人参やピーマン、玉ねぎや豚肉等を混ぜたもの。
「どうしたの?」
 佑が箸を止めて洋佑へと視線を向けた。ん-、と少し考えてから改めて口を開く。
「俺も佑の写真が欲しい」
 不意の言葉に佑が目を瞬かせた。恥ずかしそうに眼を伏せて、もそもそと食事を再開する。
「……恥ずかしいからやだ」
「えー、ずるいぞ。お前は俺の写真撮ったのにー」
 わざとらしく駄々をこねてみるが、佑はそれ以上は何も言わないまま、食事を終えてしまった。
「洋佑さんも。早く食べて」
 後片付け出来ない。
 そっけなく告げる口調と態度。が、その目元や耳がほんのりと色づいているのを見ると、洋佑は表情を緩めてしまう。
「……お前、本当可愛いな」
 自分を抱く時は、多少強引だったり強気だったりするくせに。洋佑からこうしたい、あぁしたい、という提案には照れてしまってぶっきらぼうな対応になる。
 人によっては不満を抱くかも知れないが、少なくとも洋佑はそういうところが「佑らしい」と思っているから気にならない。
「いいよ。今度、佑が寝てる時にこっそり撮るから」
 食べ終わった食器をシンクへと運ぶ。先に自分が使った食器を洗っていた佑が、渡して、と手で伝えてくるので素直に渡した。
「洋佑さん、いつも僕より起きるの遅いのに」
「…………」
 言い返せない。平日はもちろん、休みの日も基本的に佑の方が早起きだ。うーん、と考えながら、洗い終わった食器を拭いて棚へと。
「夜中に目が覚めたりとか……何かの偶然で俺の方が早く起きることがない、とは言い切れないだろ」
「それはそうだけど」
 笑み交じり。洗い物を終えた佑が水を止め、手を拭いてから洋佑の方へと向きなおる。
「でも、洋佑さんが撮るなら、僕だって写真撮りたいよ」

 今度は盗撮じゃなくて、ちゃんとしたものが欲しい。

 真っ直ぐに見つめられて、今度は洋佑が視線を逸らした。あー、だの、うー、だの歯切れ悪く呟きながらあらぬ方向を見る。
「……ん。俺は別にいつでもいいよ──起きてる時なら」
 寝てる時だとどんな顔をしているか分からないから。軽く肩を竦める。食器をしまい終わった後、佑と一緒にソファへと戻る。
「うん。……でも、改めて写真ってなるとなんか緊張しちゃうね」
 困ったように笑う佑に同意して頷く。
「そうだなぁ。かといって、スタジオで撮影、とかは別の方向で緊張するし」
 佑も同意して頷く。そこまで改まった写真を撮りたい訳ではない。お見合い写真や、履歴書やパスポートに貼るようなものではなく、「普通」の写真が欲しいのだ。
「意外と難しいもんだな。普通の写真」
 考えるのを放棄して寝転んだ。当然のように佑の膝を枕にして。伸びてくる指が髪を梳くのが心地良くて眼を閉じる。
「とりたいって思う時は沢山あるんだけど……スマホ構えてとか、そういうの頭から抜けちゃうから」
「あー、わかる……普段、そんなに写真撮らないからさ……あ、と思ったらもう遅いんだよな」
 ゴロゴロと甘えながら頷いた。すっかりだらけた洋佑の髪から佑は指を離す。
 少し間を置いた後、カメラのシャッター音が響いて洋佑は眼を開ける。ゆっくりと身体を起こすと、わざとらしく半眼で睨んだ。
「あ、こら。今、撮ったろ」
「うん」
 佑が手にしたスマホの画面には、寛ぎきった洋佑の顔。ふふ、と嬉しそうに笑う佑とは対照的に洋佑は複雑な表情になる。
「どうせなら、もっとこう……きりっとしたところを撮ってくれたらいいのに」
「洋佑さんが寛いでるところを撮りたいの。……だから、もっとだらだらしていいよ?」
 スマホから顔をあげた佑が笑う。洋佑のスマホは──充電中で手元にはない。
「……だったらさ。さっきやったみたいに、二人で撮ろう」
 佑の手をスマホごと掴む。こう、とスマホの向きを調節しながら、二人がカメラに入るように体勢を変えて位置を調節。先程の仕返しとばかり、佑の胸にだきつくようにして振り返りながら、カメラの位置を合わせる。
「洋佑さん?!」
 狼狽えた佑の手を調整した後、指を離す。ふふふ、と悪戯っぽく笑った後、佑へと顔を寄せた。
「ちゃんと撮れよ?」
 言いながら頬へと唇で触れる。少しそのままの姿勢を保った後、唇を離して不満顔。
「せっかくのシャッターチャンスを……」
「…………びっくりしてそれどころじゃなかった」
 言葉通り。どこか落ち込んだようにも見える佑の姿に、やりすぎたかな、と洋佑は首を傾げる。
「……俺が佑にキスするの、そんなに驚くことか?」
 もう一度顔を寄せる。ソファの背凭れへと逃げるように背中をつける佑が静かに頷いた。
「当たり前……でしょ。僕……洋佑さんが好きなんだから」
 薄く肌が染まる。目を伏せる佑を見ながら、洋佑はそのまま胸に顔を埋めるようにして抱き着いた。
「俺だって佑が好きなんだけどな」
「そ、れ……だめ。嬉しすぎて顔がにやけちゃう、から」
 胸に顔を押し付けたまま視線を向けると、言葉通り複雑な表情をした佑と目が合う。ふ、と表情を緩めた後、佑のスマホをとって、呆けたような佑の顔へとカメラを向けた。
 撮影した時の機械音に佑が目を瞬かせる。新しく追加された一枚が大きく表示された画面を佑へと見せながら、もう一度抱き着いた。
「後で俺のスマホに送って……消しちゃだめだぞ」
「……──ずるい。そんな風に言われたら、消せない」
 独り言のような呟きに体を起こした。いまだ頬を赤くしたままの佑。やっぱり──
「可愛い」
 呟くと同時に軽く口付けた。すぐに離れると、話すと唇がかすめる程の距離を保ったまま、佑の前髪を両手で後ろへと撫でつけた。
「……佑」
 何?と視線が返って来る。こつんと額を重ねた後、鼻先へと口付けてから離れる。
「今度──どこか遊びに行こう。その時に写真、撮ろう」
 沈黙。嫌がる気配はないから、洋佑はそのまま首筋へと顔を埋める。やや間を置いた後、そっと腕が背中へと回された。
「うん」
 短い答え。言葉以上に、洋佑の身体を抱きしめる腕が感情を伝えてくるのに、力を抜いて身を委ねた。
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