恋人の愛は少し……いや、かなり重いです。

アオハル

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日常

今まで出来なかったことと、これからは出来ることと-6-D-

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 ホテルを出たのは昼を大分回ってから。起きた後もなんだかんだと触れあっていたらすっかり遅くなってしまった。
 改めてシャワーを浴びてから外へ。明るくなった日差しの下、つかず離れずの距離を保って歩いていく。
「……」
 ちら、と佑を見る。前を見ている横顔はいつも通り。視線に気づくと、軽く首を傾げてこちらへと顔を向けて来た。
「あ、いや……腹、減ってない?」
 露骨に話題を変えた、というか。不自然な話題に眼を瞬かせはしたが、深くは追及せずに思案顔。
「そういえば朝から食べてないもんね。近くに弁当屋あるから、買って帰る?」
 何度か利用したことのあるチェーン店。洋佑の会社の近くにもある。
「あ、あそこか。この辺にもあったんだなぁ。知らなかった」
 他にも──と、近所にある飲食店の名前を挙げて教えてくれる──うちに目当ての店に。
「……またゆっくり案内するね」
 一度会話を切って店内へ。
 いらっしゃいませ、の声を聴きながらメニューへと視線を向けた。会社だと考える時間ももったいなくて、のり弁かから揚げ弁当の二択なのだが、今日はゆっくりメニューを見る時間がある。
 こんなメニューもあったのか、と今更ながらに感心したりしつつ、決めきれず佑の方を見る。
「佑はどれにする?」
「僕?……おろしハンバーグ」
 少し迷った後の答えに自分もそれにしようと店員へと注文。出来上がるのを待つ間、みそ汁や次の限定商品やらの文字を眺めていると、不意に佑の指が伸びてきた。
「……?」
 す、と髪を軽く整えられる。ゴミでもついていたのかと自分でも髪を押さえたりしていると、ふ、と吹き出された。
「寝癖」
 同時に「お待たせしました」の声。一人髪を気にしている洋佑をよそに、佑は支払いを終えて戻ってくる。
「いこ」
 髪を気にしている洋佑を面白そうに眺めながら、佑は先に店の外へ。
「あ……もしかして」
 騙した?
「……気づくの遅いよ」
 堪え切れず噴出した佑。
「出てくる前に鏡、見たでしょ?……寝癖なんてついてないよ」
 一人楽し気に肩を揺らしている。む、と睨む洋佑の顔もすぐに緩んだ。
「ごめんね。……僕が単に触りたかっただけ」
 弁当の入った袋を持ち換えると手を差し出してきた。あまりにも当然のように差し出された指を握ると、そのままパーカーへと指を運ばれる。
 そっと指を絡められて言葉が止まる。人目──を気にする気持ちもあるが、それ以上に佑が気になって視線を向けた。
 先程と同じように、前を見ている横顔。だが、視線を向けると同時に絡めた指を強く握られた。
「……なぁ、佑」
 言葉はないが視線が返って来る。深呼吸した後、ゆっくりと口を開く。
「あの、さ……来週……マンション、解約してきてもいいか?」
「……え?」
 佑が足を止めた。遅れて洋佑も足を止める。
「……………」
「……」
 無言。何度か口を開くが、上手く言葉がまとめられずに何も言わないまま再び閉じてしまう。
「洋佑さん」
 びく、と顔を上げる。穏やかな表情の佑がにこりと笑った。
「お弁当……冷めちゃうから。家に帰ろ?」
「あ、うん」
 歩き出す。結局、部屋に入って服を着替えるまで無言のまま。
 少し冷めた弁当を二人で食べながら、佑が静かに口を開いた。
「……さっきの話。本当?」
 うん、と口の中の物を飲み込む。
「本気じゃなかったら……言わない」
 ふ、と大きく息を吐く。
「……なんかさ。朝……家に帰ろう、って思った時。この部屋と佑が一緒に浮かんで」
 箸に乗せたご飯を見つめる。自分が休みの日でも、たいていは佑が食事の用意をしてくれていた。食事といえば、佑が作った料理──なんて感覚になるには、短すぎる期間の話かも知れないのだが。
「俺の帰りたい部屋はここなんだなって……」
 ご飯を口へと運ぶ。咀嚼して飲み込んだ後、あ、と慌てて付けたす。
「別にこの部屋じゃなきゃやだ、とか、そういう意味じゃなくて──」
 何らかの理由があって、佑がこの部屋を手放して洋佑が住んでいたマンションに引っ越さなければならなくなったとしても。
「俺の部屋は……佑が……いる部屋がいいな、って。そう思ったから。だから──」
 言いながら箸で弁当箱の隅をつついてしまう。結局うまくは言えなかったが、伝わっただろうか。
 そんな不安に顔を上げると、穏やかな佑と目が合う。
「──嬉しい」
 本当に嬉しそうに幸せそうに告げるものだから、洋佑は照れて視線を逸らしてしまう。かりかりと箸先で弁当箱を突きながら、ゆっくりと食事を続ける。
 そんな洋佑を気にしているのかいないのか、佑は幸せそうなまま言葉を続けた。
「もし──洋佑さんがやっぱり嫌だって言ったらどうしよう、って毎日考えてたから」
「毎日?」
 うん。と頷く。佑の方は既に弁当箱を空にしていた。手を合わせる姿を見ながら洋佑も自分の分を食べ進める。
「僕はね。洋佑さんが会社を早退してきてくれた時──ううん。最初に好きだって思った時から。ずっと一緒に居たいと思ってた」
「────そっか」
 そういえばそうだった。
 最初に付き合って欲しい、と言った時から。佑はいつここにくるのか、なんて聞いてきたのを思い出す。
 照れ笑いを浮かべる佑を見ながら、洋佑も笑う。
「いっつも、待ってもらってばっかりだな、俺……」
 洋佑の言葉に佑が目を瞬かせた。
「気にしてない……っていうと、何か偉そうだけど。洋佑さんには洋佑さんのペースがあると思うし……その結果、僕の望まないことだったとしても。洋佑さんが考えた事なら、受け入れられると思う」
 ──でも。
「……出来れば。洋佑さんが僕の傍に居てくれたら嬉しい」
 空になった洋佑の弁当箱を自分の分と重ねながら笑う。丁寧にゴミを片付ける佑を見ていると、一緒にいるのだと改めて実感する。
 まとめてゴミを入れた袋の口を縛った後、佑が顔を上げた。
「引っ越し作業、僕も手伝うから。声かけてね」
 心強い。正直、自分一人だと作業が進まないかも知れない、と少し──いや、かなり悩んでいた部分。
「ありがと。佑が手伝ってくれるなら安心だ」
 返って来る笑顔。ゴミを片付けた後、眠りにつくまで他愛もない話をしながら二人で過ごした。
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