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日常
今まで出来なかったことと、これからは出来ることと-3-A-
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スマホのアラームに布団から腕を出した。
ばしばしとその辺を叩いて探していると、電子音とともにアラームが止まる。自分はまだスマホを見つけていないのに──
布団から顔を出すと、自分のスマホを持っている手。ゆっくりと眼を瞬かせて、手から腕へと視線を流すと、穏やかな笑み。
「おはよう、洋佑さん」
半分寝ていた意識が起きてくる。欠伸一つした後、のそのそと布団から抜け出した。
「おはよう……早いな」
ふぁ、と遠慮なく大きな欠伸を零す洋佑を見て佑は表情だけで笑った。パジャマ代わりのTシャツに下着姿の自分と違い、走りに行く準備万端の格好だ。
「洋佑さんと一緒に行けるのが楽しみで早く起きちゃった」
本当に楽しみにしていたのだと伝わってくる。目を細めてそれを見つめた後、もう一度伸びをしてからベッドから立ち上がった。
「すぐ準備するから。もうちょっと待ってな」
頷く佑を横に、服を着替えるためにTシャツを脱いだ。
◇◇◇◇◇◇◇
身支度を済ませて佑と一緒にマンションの外へ。
「はー……朝は流石に肌寒くなってきた」
秋、というにはまだ早い時期ではあるが。早朝のこの時間だと、涼しいと言ってもいい気温。
「走りやすい季節になってきたから……楽しみ」
「今年特に暑かったしなぁ」
他愛もない話をしながら歩き出す。
見た目だけなら一人前のランナーではあるが、走ることなんて学生以来のご無沙汰の洋佑。毎日走っている佑に合わせられる訳もなく、慣れるまでは一緒に歩いてくれるというから、その言葉に甘えて行き先を決める。
「とりあえず……駅一つ分くらいからならいけると思う?」
最寄り駅へと歩きだす。それほど交通量が多い道ではないといえ、普段以上に車の気配も人の気配もない。
静かな歩道に思う以上に声が響く気がして、少し声を潜めた。
「うん。ゆっくり歩けば大丈夫じゃないかな。もし、しんどくなったら途中で休めばいいよ」
幸い、コンビニはいくつかある。24時間営業のファミレスも。
どこでも近くの店で休めばいい、と佑の笑みに、洋佑は表情を緩める。
最近の天気はどうだ、とか、この間行った店の料理が美味しかった、とか、他愛もない会話しながらの散歩。
考えてみれば、二人で出かけるのは、以前出かけたショッピングモール以来かも知れない。これも一種のデート……になるんだろうか。
ちら、と横を歩く佑を見る。ん?と視線だけで返されて、何でもない、と視線を逸らした。
「……」
いつもと同じ道。だけど、いつもと違う雰囲気。
面白い、というか、不思議、というか。何となく佑が早朝に走るのが楽しい、と言っている理由の一つが分かった気がして、洋佑は大きく息を吐き出した。
「あ、洋佑さん。信号、青」
「へ?」
唐突に佑に手を握られて眼を瞬かせる。
「あそこの信号、赤になったら長いから……渡っちゃお」
走り出す。握られたままの手に引っ張られて洋佑も走り出した。信号待ちしている車はいない。この交通量なら、赤信号でも渡れそうな気もするが、前を走る佑の後ろ姿が楽しそうに見えて、洋佑はそのまま走って渡ることにした。
たっ、たっ、と足音だけが響く。無事、渡り切っても佑は足を止めない。
「佑?信号──」
渡り切ったぞ、と続くはずだった言葉を飲み込んだ。前を走る佑の耳が赤い。
握った掌も熱い。横断歩道を渡り切って暫く。漸く速度が落ちて来た。やがて歩く速度に落ち、立ち止まる。
お互いに軽く息が上がっている。繋いだままの指に少しだけ力を入れると、ゆっくりと佑が振り向いた。
「……手、繋いじゃった……」
嬉しそうな恥ずかしそうな。頬を赤くしているのは、走った影響だけではないだろう。そっと笑うと、握ったままの洋佑の指へと自分の指を絡めてくる。
「このまま歩いていい?」
「……いいよ」
ぎゅ、と指を絡めて握り返した。有難う、と佑は静かに歩きだす。隣へと並んで歩きながら、絡めた指先をお互いに遊ばせたりしながら、無言の時間が過ぎる。
薄暗かった通りがじわじわと明るくなってくる。もう少しで目的の駅。流石に駅の傍では人もいるだろう、と気にしたのか佑が指を解こうとするのを引き留めるために強く握った。
「っ……洋佑さん?」
驚いた顔。洋佑は笑みを返した後、指を握ったまま、佑のパーカーのポケットへと手を突っ込んだ。
「これなら見えないからいいだろ」
屁理屈だと分かっているから眼を伏せる。だが、佑はポケットの中で強く指を握り返してきた。
「────うん」
そのまま歩き出す。元々、洋佑は恋人だからと公共の場で触れ合うことはあまり好きではなかった。
でも、今はつないだ指を離したくない。
苦し紛れの提案だったが、佑は受け入れてくれた。パーカーのポケットの中で重ねた掌を一度強く握る。
「……ついちゃった、ね」
何事もなく。駅の改札が見える場所まで来てしまった。周囲はもう十分に明るい。ちらほらと学生の姿も見えている。
「……家、に帰るまでは。手、繋げるだろ?」
洋佑の言葉に佑が目を見開く。その後、泣き出しそうな笑みを浮かべて頷いた。
「うん……!」
たかが手を繋いで歩くだけなのに。それでも──こんなに幸せだと感じることに戸惑いと嬉しさを感じて洋佑は半歩だけ距離を詰めた。
ばしばしとその辺を叩いて探していると、電子音とともにアラームが止まる。自分はまだスマホを見つけていないのに──
布団から顔を出すと、自分のスマホを持っている手。ゆっくりと眼を瞬かせて、手から腕へと視線を流すと、穏やかな笑み。
「おはよう、洋佑さん」
半分寝ていた意識が起きてくる。欠伸一つした後、のそのそと布団から抜け出した。
「おはよう……早いな」
ふぁ、と遠慮なく大きな欠伸を零す洋佑を見て佑は表情だけで笑った。パジャマ代わりのTシャツに下着姿の自分と違い、走りに行く準備万端の格好だ。
「洋佑さんと一緒に行けるのが楽しみで早く起きちゃった」
本当に楽しみにしていたのだと伝わってくる。目を細めてそれを見つめた後、もう一度伸びをしてからベッドから立ち上がった。
「すぐ準備するから。もうちょっと待ってな」
頷く佑を横に、服を着替えるためにTシャツを脱いだ。
◇◇◇◇◇◇◇
身支度を済ませて佑と一緒にマンションの外へ。
「はー……朝は流石に肌寒くなってきた」
秋、というにはまだ早い時期ではあるが。早朝のこの時間だと、涼しいと言ってもいい気温。
「走りやすい季節になってきたから……楽しみ」
「今年特に暑かったしなぁ」
他愛もない話をしながら歩き出す。
見た目だけなら一人前のランナーではあるが、走ることなんて学生以来のご無沙汰の洋佑。毎日走っている佑に合わせられる訳もなく、慣れるまでは一緒に歩いてくれるというから、その言葉に甘えて行き先を決める。
「とりあえず……駅一つ分くらいからならいけると思う?」
最寄り駅へと歩きだす。それほど交通量が多い道ではないといえ、普段以上に車の気配も人の気配もない。
静かな歩道に思う以上に声が響く気がして、少し声を潜めた。
「うん。ゆっくり歩けば大丈夫じゃないかな。もし、しんどくなったら途中で休めばいいよ」
幸い、コンビニはいくつかある。24時間営業のファミレスも。
どこでも近くの店で休めばいい、と佑の笑みに、洋佑は表情を緩める。
最近の天気はどうだ、とか、この間行った店の料理が美味しかった、とか、他愛もない会話しながらの散歩。
考えてみれば、二人で出かけるのは、以前出かけたショッピングモール以来かも知れない。これも一種のデート……になるんだろうか。
ちら、と横を歩く佑を見る。ん?と視線だけで返されて、何でもない、と視線を逸らした。
「……」
いつもと同じ道。だけど、いつもと違う雰囲気。
面白い、というか、不思議、というか。何となく佑が早朝に走るのが楽しい、と言っている理由の一つが分かった気がして、洋佑は大きく息を吐き出した。
「あ、洋佑さん。信号、青」
「へ?」
唐突に佑に手を握られて眼を瞬かせる。
「あそこの信号、赤になったら長いから……渡っちゃお」
走り出す。握られたままの手に引っ張られて洋佑も走り出した。信号待ちしている車はいない。この交通量なら、赤信号でも渡れそうな気もするが、前を走る佑の後ろ姿が楽しそうに見えて、洋佑はそのまま走って渡ることにした。
たっ、たっ、と足音だけが響く。無事、渡り切っても佑は足を止めない。
「佑?信号──」
渡り切ったぞ、と続くはずだった言葉を飲み込んだ。前を走る佑の耳が赤い。
握った掌も熱い。横断歩道を渡り切って暫く。漸く速度が落ちて来た。やがて歩く速度に落ち、立ち止まる。
お互いに軽く息が上がっている。繋いだままの指に少しだけ力を入れると、ゆっくりと佑が振り向いた。
「……手、繋いじゃった……」
嬉しそうな恥ずかしそうな。頬を赤くしているのは、走った影響だけではないだろう。そっと笑うと、握ったままの洋佑の指へと自分の指を絡めてくる。
「このまま歩いていい?」
「……いいよ」
ぎゅ、と指を絡めて握り返した。有難う、と佑は静かに歩きだす。隣へと並んで歩きながら、絡めた指先をお互いに遊ばせたりしながら、無言の時間が過ぎる。
薄暗かった通りがじわじわと明るくなってくる。もう少しで目的の駅。流石に駅の傍では人もいるだろう、と気にしたのか佑が指を解こうとするのを引き留めるために強く握った。
「っ……洋佑さん?」
驚いた顔。洋佑は笑みを返した後、指を握ったまま、佑のパーカーのポケットへと手を突っ込んだ。
「これなら見えないからいいだろ」
屁理屈だと分かっているから眼を伏せる。だが、佑はポケットの中で強く指を握り返してきた。
「────うん」
そのまま歩き出す。元々、洋佑は恋人だからと公共の場で触れ合うことはあまり好きではなかった。
でも、今はつないだ指を離したくない。
苦し紛れの提案だったが、佑は受け入れてくれた。パーカーのポケットの中で重ねた掌を一度強く握る。
「……ついちゃった、ね」
何事もなく。駅の改札が見える場所まで来てしまった。周囲はもう十分に明るい。ちらほらと学生の姿も見えている。
「……家、に帰るまでは。手、繋げるだろ?」
洋佑の言葉に佑が目を見開く。その後、泣き出しそうな笑みを浮かべて頷いた。
「うん……!」
たかが手を繋いで歩くだけなのに。それでも──こんなに幸せだと感じることに戸惑いと嬉しさを感じて洋佑は半歩だけ距離を詰めた。
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