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日常

嫉妬-2-C-

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 目当ての店についた後、いらっしゃいませ、という店員の声を背に中に入る。
 狙っていたシャツをいくつか手にして、どれがいい?と佑に意見を聞いてみる。
「ん-……僕はこれがいいと思う」
「これ?」
「うん。色もあってるし、他の服とも合わせやすいんじゃないかな」
 自分としては、もう一つの方がいいと思ったのだが。
「じゃぁ両方着てみるよ」
 店員に声をかけて試着室へ。袖を通して鏡を見る。今履いているズボンと合わせてみると、確かに佑が進めてくれたものの方があっているように思う。
 手持ちのものにもあまりない色合いとデザインだし、このシャツ一枚変えるだけででも雰囲気が変わっていい。
 元々会社に居た時も彼のデザインの良さには一目置いていた。服の着こなしだとか、そういうところにも出るもんだな、と着ていた服に着替え直してから試着室から出た。
「こっちにします」
 店員を呼んで包んでもらう。服の入った袋を受け取った後、店を後にする。何とはなしに人の流れに沿って歩きながら、途中にある店のマネキンを見たりしながら、通行の邪魔にならない隅へと。
「佑、やっぱりセンスいいなぁ」
 俺だとこの組み合わせは思いつかなかった。
 素直に賞賛するが、佑はあまり嬉しそうな顔をしていない。
「?何かあったか?」
 自分が試着している間に強引なセールスでもされたのかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。
「誰かが袖を通したかも知れない服を、洋佑さんが着るの嫌なだけ」
 帰ったらすぐ洗濯しよう。
 真顔で言われて思わず眼を瞬かせた。
「え……でも、服選びたいって言ったのお前だろ?」
 そんなに嫌なら、なんで?
 と疑問を素直に口にすると、佑が軽く髪を撫でた。
「自分が選んだ服を着てくれたら嬉しいよ。でも、誰かが袖を通した服は着て欲しくない」
「難しいんだな」
 髪を撫でた手が離れていく。持っていた紙袋へと視線を落とす。
「でも、俺はこのシャツ気に入ってるからさ。選んでくれて有難う。嬉しい」
 難しい顔をしている佑へと笑いかけた。
 すると佑が視線を逸らす。
「不意打ちしないで」
 口元を手で押さえたまま。薄く耳が赤くなっているのをごまかすように、わざとらしく息を吐き出した。
 その様子が何とも言えずに可愛く思えて、今度は自分が手を伸ばして佑の頭を撫でた。
「お前、たまに可愛いな」
 自分よりも年上なんじゃないかと思うくらい、普段は落ち着いてしっかりしているように見えるが、ふとした時にこういう表情をしてくる方が「不意打ち」ではないだろうか。
 自分の事は見えないもんだな、なんて思いながら軽くぽんぽん、としてから手を引いた。
「……僕は格好いいって思われたいの。可愛いのは洋佑さんだけでいい」
 ふいと横を向いたまま。逸らしていた視線を戻すと、腕時計で時間を見る。
「少し早いけど、お昼にしよ。店混んじゃうし……お腹空いた」
「ん、あぁ。……何にしようかな。外で食うの久々だから迷うな」
 フードコートはどこだ、と先程渡されたリーフレットへ視線を落とす。
 店の位置を示す番号と店名とを見比べながら、どこにする?と顔を上げた時に視線が重なった。
 想像以上に近い距離にあった佑の顔に動きが止まる。
「……」
 ちらっと周囲に視線を配った佑が一瞬だけ距離を詰めた。触れるか触れないかのキスに慌てて口を押えて距離をとる。
「お、まえ……」
 裏返った声。んん、と咳ばらいをして呼吸を整えていると、楽しそうな佑の声。
「大きな声出すと目立つよ」
 してやったり。
 そんな表情と声に眉を上げるが、確かにここで目立ちたくはない。
「……後で覚えてろよ」
「洋佑さんこそ」
 お互いに睨み合った後、どちらからともなく噴き出してしまう。行こう、と促されて歩き出した。

        ◇◇◇◇◇◇◇

 昼食を終えた後も、アウトレットモールの中をぶらぶらと。自分だけでなく、佑も服や小物類を買ったりして時間を過ごした。
 そうして自宅──というか、佑のマンション──に辿り着いたのは16時を過ぎた頃。
「久し振りにこんなに歩いたな」
 リビングのソファに座り、持っていた紙袋は床に。ん-、と両手足を伸ばして伸び。
「僕もこんなに外にいたの久し振りかも」
 佑はテーブルへと荷物を置いた。そのまま洋佑の隣へと腰を下ろす。
「……、こら」
 座るか座らないかで伸びてきた腕に困った顔。強い制止ではなかったから、洋佑の腰へと回された腕に力が籠る。
 もう一方の手が顎を掴むと、流石に少し眉を上げた。
「そんながっつく……な、ってこら」
 ちゅ、と小さく音を立てて口付けられる。すぐに離れた唇は額や鼻先、頬へと立て続けに口づけては離す、を繰り返した後、鼻先が首筋へと埋められた。
「がっついてない……」
 シャツの襟から中を探るよう顔を埋めているから、声が不明瞭。くすぐったさに肩が揺れる。
「そんなに嫌だったのか?」
 思い当たること──ぶらぶらと気まぐれに入った店の一つ。やたらとセールスが強引で自分だけでなく、佑にもべたべたと触れてくる店員がいた店があった。
 明らかに佑が不機嫌になったために、すぐに店を出たのだが、いまだに納得がいっていないらしい。
「僕が我慢してるのに……洋佑さんに他の人が触るのはやだ」
 子供じみた物言い。そんなお気に入りの玩具をとられた子供みたいなことを────
「仕方ない、だろ……服屋、なんだし。サイズとか計ろうとした、だけッ……ぁ」
 強く首筋へと吸い付かれた。痕がつくほどではないが、吸い上げられた箇所がうっすらと赤くなる程度には強い。
 そうして肌を吸われる度にびくびくと反応を返してしまう。
「やだ。さっきの人の匂いがついてる気がする」
「……そんなこと言ったら、毎日満員電車だぞ、俺」
 ぐ、と腕に力が籠る。また首筋に吸い付かれて小さく体が震える。
「だから仕事辞めて僕の部屋にいたらいいって言ってるのに」
「それはだめって言って──っ、ん」
 腰に回した腕がシャツを引き出す動き。こら、と言いながら手を押さえるが、動き止める気配はない。
「分かってる……僕の我侭だって……でも。洋佑さん、無防備なんだもん」
 心配だ。
 シャツの裾が引き出される。直接に中に手を入れ、肌を滑りあがる動きに合わせて、裾が持ち上がって行けば、自然と肌が晒される。
「今だって……僕に簡単に触られてる」
「ば、か。それは佑だから──~~ッ……ぁ」
 捲り上げたシャツの中。指先が小さな粒を摘まみ上げるのに声が高くなる。首筋に埋められていた顔が下へと下がり、もう片方の手でシャツを持ち上げると、直接に舌を這わせていく。
「僕ならいいの?……外でも?」
 ちゅう、と強く吸い上げられて声が詰まる。指と舌との刺激にすぐに堅く尖っていく乳首へと軽く歯を立てられるだけで情けなく声が漏れた。
「……、ふ、ぁ……」
「洋佑さん……駄目だよ。嫌なことは嫌って言わないと」
 しゃべる度に歯が当たる。その刺激で震える身体を愛おしそうにソファの座面へと押し倒してから、顔を覗き込んだ。
「…………ね。いいの?」
 外では嫌だ。でも────
 洋佑の葛藤を知ってか知らずか。改めて腰に両手が添えられる。肌に触れている、ということを実感させるよう、ゆっくりとした動きで撫で上げると、親指で硬く尖った乳首を弾くように触れられて腰が浮いてしまう。
「~~~~ッ、……」
 浮いた腰が落ち着いた後、改めて見上げる。ふにふにと指先で弄ぶことをやめないまま、佑はやんわりと微笑んだ。
「いい?」
 きゅ、と小さな突起を指で摘まんだ。ちょんちょんと先端を爪で擽るように触れられる度に声が漏れてしまう。
「ぁっ、……シャワー、……あび、たい……」
 指の動きが止まった。
 肌から指を離すと、シャツを引き下ろし、ボタンを外し始める。
「たすく……?」
 急に動きを変えられて困惑が滲む。ボタンを外し終えると、洋佑の背中へと手を入れ、その場でシャツを脱がせていく。
「そうだね……先にシャワーで綺麗にしようか」
 伸びた指がベルトを外して、下着ごとズボンを引き下ろそうとする。反射的に軽い抵抗はしたが、結局は服を脱がされていく。
 靴下まで丁寧に脱がされ、文字通り素裸になった洋佑を横抱きに抱き上げると、嬉しそうに笑う。
「僕に洗わせて、ね」
 細められた目に灯る熱に僅かに眼を見開いた。が、すぐに身体の力を抜いて小さく頷く。リビングからバスルームへの廊下を歩く間中、何度も繰り返し口付けられて擽ったい、と表情を緩める。

 辿り着いたバスルームの扉。促されるままに腕を伸ばして開いた。
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