恋人の愛は少し……いや、かなり重いです。

アオハル

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告白するまで

自分だけが見る彼の顔-2-A-

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「その……さっきはごめん。本当に体調じゃなくて」
 とりあえずでホットコーヒーを注文した。その後、ゆっくりと話し始める。
 先程、飲み屋で偶然「ゆうきたすく」の知り合いらしい人達と隣になったこと。

 その「ゆうきたすく」は「好きな人がいるから」と合コンを断っていたこと。そして────

「お前のこといいなって思ってるって子とかさ。それ以外の人たちも」
 例えお茶を飲むためだけでも。こうやって時間を割いてくれる。そんな佑の一面を知らないことへの優越感。
 顔も知らない。名前すら知らない、もしかしたら、同姓同名の無関係な人物かも知れない。ただの通りすがりの誰かに意味のないマウントをとって勝手に嬉しくなってにやけてしまった。
 その顔を見られたくなかっただけ。そんな自分勝手な理由なのに、佑が心配してくれたことも嬉しかった。

 話し終える頃にコーヒーが運ばれてきた。特有の香りも今は心を和ませるものではない。

 自分が最低な人間だと話すのは────それも、自分のことを好きだと言ってくれた相手に────勇気というか、覚悟が要ったが、きちんと話しておかなければ。
 そう思いはするものの話すうちに徐々に下を向いてしまう。話し終えた後は完全にテーブルを見つめる状態。ゆっくりと息を吐き出した。
「その……ごめん。お前の友達──かも知れない人にも失礼だし。お前にも……失礼なことしちゃったから」
 意を決して顔を上げる。さぞかし軽蔑しているだろう、と思っていたが、佑はただ驚いたように目を瞬かせていた。
「…………佑?」
 思わず名を呼ぶと、あ、と気づいたように佑が動いた。すみません、と眉を下げるのはいつも通り。
「いや、その……なんていうか。洋佑さん、いい人だなって」
「え?」
 冷めないうちに、と促されてコーヒーカップへ指を伸ばす。
「だって。通りすがりの誰かもわからない人をどう思ったか、なんてそんなに気にしないよ、普通」

 それに────

「僕が洋佑さんの事が好きで何より優先しているのは事実だけど。それを理由に、その人達に何かした訳ではないんだから、マウントにはならないと思うし」
 ただ同姓同名の他人だったら、ちょっと恥ずかしいかも知れない。
 少しばかり冗談めかした口調。もう一口コーヒーを飲んでからカップを置いた。
「色々全部含めて。黙ってたら僕には分からないことなのに。どこの誰とも知らない誰かのためと、僕のために話してくれたし、謝ってくれたでしょ」
 だからいい人。
「……お前、俺に甘すぎない?」
 屈託のない笑みに余計恥ずかしくなる。自分もコーヒーを飲みながら視線を泳がせた。
「そりゃ甘くなるでしょ?僕は洋佑さんが好きなんだから」
 さらりと言われて肩が跳ねる。顔が熱くなるのを感じながら、誤魔化すようにコーヒーを飲む。
「…………や、その。……だからって…だな、悪いことは悪いと言わないと──」
「大丈夫。仮に洋佑さんが、店員さんに怒鳴り散らしたりしたら、その場で嫌いになるよ」
 無条件で何でもかんでも許容している訳ではない。だから安心していい。
 一応自分の方が年上なのに。佑の方がしっかりしている。少しばかり情けなくなって眉を下げる。
 コーヒーを飲もうとカップを傾け、空になっていたことに気づいた。
「…………あ。そういえば、晩飯まだって言ってただろ?何か食うか?」
 メニューを広げる。佑が少し間を置いてから、軽く笑う。
「なんでもいい?」
「もちろん。さっきのこともあるし、俺が────」
「洋佑さんが欲しい」

────え?

 動きが止まる。佑を見るが、いつもと同じ穏やかな顔。
「…………晩飯の話だぞ?」
 広げたメニューへと視線を向けたが、書かれている文字は頭に入って来ない。メニューの端を指先でいじっていると、ふ、と緩む気配。
「だって。なんでもいい、なんて言うから」
 いつもと変わらない。が、いつもよりほんの少し切なげな声音。
「……そんな顔しないで」
 伸びてきた指が頭の上に置かれる。ぽんぽんと軽く撫でた後、離れていく。
「もう遅いし。今日は帰るね」
 テーブルの上の伝票を手に立ち上がる。慌てて後を追いかけた。
「俺が払うって……」
 追いつく前に支払いを済ませてしまった。今日は本当に情けないことばかりで自然と肩が落ちる。
「今日の分もまとめて。次、美味しいもの食べさせて?」
 店を出る佑の言葉に裏はないだろう。が、さっきのことで勝手に意識してしまって視線を逸らす。
 結局、会話もしないままに改札を抜けた。佑は階段を指さす。
「それじゃ僕こっちだから……おやすみなさい」
 歩き出そうとした佑の腕を掴んだ。
「……洋佑さん?」
 怪訝そうな声。顔が見れなくて顔を逸らしたまま、腕を掴んだ手を緩めようとしてまた力を込めてしまう。
「本当にどうしたの?」
「…………」
 腕をそっと離す。いい加減にしないと、佑を困らせるだけだ。
「なんか……ごめん。俺、今日ちょっと変だな」
 精一杯笑みを浮かべたつもりだが、どう見えているだろうか。
「俺も帰って寝る……おやす──」
 み、と続く言葉が途切れる。今度は佑が腕を掴んできたから。どこか思いつめたようにも見える表情。
「……部屋……」
 聴き取れなくて眼を瞬かせる。掴んだ腕を離した後、佑が深呼吸してから洋佑を真っ直ぐに見つめてきた。
「僕の部屋……来ませんか?」
 心臓が跳ねる。駅のアナウンスが聞こえにくくなるくらい、鼓動が煩い。いつの間にか止めていた呼吸に息苦しくなって、大きく息を吐き出した。
「…………行く」
 小さく頷いた。
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