代役「悪役令嬢」の恋コスメ ~スパダリ王子様の美貌トラップを回避していたら興味を持たれた上に、なぜかヒロインちゃんにも好かれてます!

朱音ゆうひ

文字の大きさ
上 下
2 / 7

2、花粉症は人を優しくするのかもしれない

しおりを挟む
 
「拾ってきた孤児などをエスカランタ公爵家の娘にするだって? ありえない!」
「お父様とお母様は許してくださいました!」

 アマンダ様は、兄君のレイヴン様と私の処遇について毎日のように大喧嘩している。
 
 レイヴン様は17歳で、鉄色の髪をオールバックにしている。
 瞳は私や弟と似ているヴァイオレット・ブルーで、銀縁の眼鏡をした、生真面目で冷たい印象のお兄様だ。
 
「兄に構っている時間はないわ。エリスは令嬢教育に集中なさい」
 
 アマンダ様はそう言って家庭教師に私を囲ませ、私に貴族令嬢としての教養を叩きこんだ。
 
「いいことエリス。あなたが入学するのは、上流階級の令嬢や令息が6年間通う学園なの。エリスの言動ひとつで、我が家の名誉が地に落ちてしまうのよ」
「はい、アマンダ様」
 
 貴族令嬢というと贅沢な暮らしや華やかなドレスといった優雅なイメージがあったけど、私を待っていたのは朝から深夜まで分刻みでお勉強をするハードすぎるスケジュールだった。

 礼儀作法や歴史や文学、芸術……たくさん学ばないといけないことがある。
 水面下で必死に足を動かす優雅な白鳥のよう。
 貴族のお嬢様って大変なんだ……。

「おとうさん、おかあさん。私は、元気です……」
 
 ポエムの授業では、心のままに言葉を書いてごらんなさいと言われた。
 だから私は、お父さんとお母さんへの想いを書いた。

「このおうちは大きくて、夜もあたたかいです。毎日ごはんを食べられます。お薬ももらえます。ベッドはふかふかで、清潔なの」

 公爵家は、居心地がいい。
 お金の心配をしなくていい。明日の食事の心配もない。

 ひとりでなんとかしなきゃって生きていた時より、楽だ。恵まれている。ありがたい。

「アマンダ様のおかげです。とても感謝しています。でも、お父さんとお母さんがいないから、本当は少しさびしいの……」

 あっ、アマンダ様が泣いてる……。

「こ、これは、花粉症よ!」

 その後、アマンダ様はちょっと優しくなった。
 
 * * *
 
 弟のノアは、清潔で暖かな部屋で、しっかりした食事と薬を与えられて、だいぶ体調が改善している。
 上質な素材のブランケットを指先できゅっとつまみ、私を見上げる瞳は可愛らしい。
 
「お姉ちゃん、むり、してない?」

 心配してくれる優しい心が感じられたから、私は泣きそうになった。

「ノア、お姉ちゃんは全然無理してないよ。ごはんは豪華だし、ベッドはふかふかで、ノアは心配しないで休んでね」

 窓から差し込む日差しを浴びて、弟の麦穂色の髪が金色の艶を魅せる。綺麗だ。
 
 頭を撫でると、さらさらとした手触りが心地いい。

 公爵家のメイドのお姉さんたちが「ノア様は可愛いですわね」「磨いたらもっと可愛くなりますね、腕がなります」と母性全開で手入れしてくれたおかげだ。

 弟の頬にキスをして、私は微笑んだ。

「……お姉ちゃん、ノアが元気な姿を見てるだけで元気が出る。いくらでも頑張れる。だから、いっぱい食べて、いっぱい寝て、元気でいてね」

 部屋から出ると、レイヴン様が扉の前にいた。

 唇を引き結んで、眉間に深い皺を寄せて、目を細くして――「ぐすっ」洟を鳴らしている。ちょっと目が赤い?

「……何を見ている? ここは俺の家なのだから廊下に俺がいてもおかしくないぞ。決して立ち聞きしていたわけでもない。この鼻水は……花粉症だ」

「さようでしたか……ハンカチをどうぞ」

「ふん。いらぬ。そうだ、婚約が決まったパーシヴァル王子殿下がお前に会いたいと仰せだが、まだまだ令嬢教育に不安があるゆえ、病気ということにしておくからな」

 レイヴン様はむすりとして、背を向けた。
 
「かしこまりました。公爵家の令嬢として恥ずかしくないよう、もっと頑張ります……花粉症、お大事に……」

「……くていい」
「はい?」
「……無理は、しなくていい……!」

 レイヴン様は絞り出すような声で言い捨てて、足早に去って行った。
 
 ちなみに、その出来事以来、レイヴン様も優しくなった。
 
 ……花粉症は人を優しくするのかもしれない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。 失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。 そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……! 悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。

誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。 それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。 誰にも信じてもらえず、罵倒される。 そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。 実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。 彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。 故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。 彼はミレイナを快く受け入れてくれた。 こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。 そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。 しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。 むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

虐げられ聖女の力を奪われた令嬢はチート能力【錬成】で無自覚元気に逆襲する~婚約破棄されましたがパパや竜王陛下に溺愛されて幸せです~

てんてんどんどん
恋愛
『あなたは可愛いデイジアちゃんの為に生贄になるの。  貴方はいらないのよ。ソフィア』  少女ソフィアは母の手によって【セスナの炎】という呪術で身を焼かれた。  婚約した幼馴染は姉デイジアに奪われ、闇の魔術で聖女の力をも奪われたソフィア。  酷い火傷を負ったソフィアは神殿の小さな小屋に隔離されてしまう。  そんな中、竜人の王ルヴァイスがリザイア家の中から結婚相手を選ぶと訪れて――  誰もが聖女の力をもつ姉デイジアを選ぶと思っていたのに、竜王陛下に選ばれたのは 全身火傷のひどい跡があり、喋れることも出来ないソフィアだった。  竜王陛下に「愛してるよソフィア」と溺愛されて!?  これは聖女の力を奪われた少女のシンデレラストーリー  聖女の力を奪われても元気いっぱい世界のために頑張る少女と、その頑張りのせいで、存在意義をなくしどん底に落とされ無自覚に逆襲される姉と母の物語 ※よくある姉妹格差逆転もの ※虐げられてからのみんなに溺愛されて聖女より強い力を手に入れて私tueeeのよくあるテンプレ ※超ご都合主義深く考えたらきっと負け ※全部で11万文字 完結まで書けています

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました

桃月とと
恋愛
 娼婦のミケーラは流行り病で死んでしまう。 (あーあ。贅沢な生活してみたかったな……)  そんな最期の想いが何をどうして伝わったのか、暗闇の中に現れたのは、王都で話題になっていた悪女レティシア。  そこで提案されたのは、レティシアとして贅沢な生活が送れる代わりに、彼女を陥れた王太子ライルと聖女パミラへの復讐することだった。 「復讐って、どうやって?」 「やり方は任せるわ」 「丸投げ!?」 「代わりにもう一度生き返って贅沢な暮らしが出来るわよ?」   と言うわけで、ミケーラは死んだはずのレティシアとして生き直すことになった。  しかし復讐と言われても、ミケーラに作戦など何もない。  流されるままレティシアとして生活を送るが、周りが勝手に大騒ぎをしてどんどん復讐は進んでいく。 「そりゃあ落ちた首がくっついたら皆ビックリするわよね」  これはミケーラがただレティシアとして生きただけで勝手に復讐が完了した話。

処理中です...