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3章、メイドは死にました
71、制作チームから愛をこめて
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こんにちは、あるいは、こんばんは。
この作品を楽しんでくれて、ありがとう。
制作チームから愛をこめて、この隠し要素をお届けします。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「あ……」
宝箱が開いて、男性の声が流れた。
魔法の力で演出されたそれは、日本で真凛がプレイしたゲームで隠し要素の宝箱を開けた時の演出とよく似ていた。
違うのは、声が真凛のお父さん――利上 拓海の声だった点だ。
「おとうさん」
この世界では気の遠くなるほど昔に記録された、ドラゴンの勇者タクミの声。
それは、優しく暖かに、少し寂しそうに――人間らしさ溢れる感情を伝えてくれた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
この手紙を読む女の子は、きっと聖女と呼ばれていることでしょう。
聖女のあなたは、みんなのことをよく思いやり、誰かの幸せを望むことができて、困っている人を助けたいと思う心の持ち主です。
世の中は、心だけが美しくても、能力が伴わなければ悪しき心の持ち主に踏みにじられて何事も成し遂げることができないという残酷な一面があります。
けれど、聖女のあなたは悪しき心の持ち主に負けない能力の持ち主です。
われわれの世界に、悪を滅して善良な者を救う全知全能の神様はいません。
けれど、そんな存在がいてほしいと望む人はたくさんいました。だから、マギライトが歪めた魂たちは二つの世界を行き来して影響を与え合い、本来ありえなかった彼らの心の支えを創っていったのです。
酷な現実を生きた過去と未来のありとあらゆる人たちの空想。理想。願望。
幾億の想いが起こした奇跡のような現象。
世界を滅ぼす諸刃の剣。
それが、魔女。
それが、聖女。
――賢者。勇者。魔王。
「ゲームと同じことを言うんだ。箱の中にも、同じアイテムがあるんだ」
開いた宝箱の中には、赤い炎の塊みたいな魔結晶があった。
何体ものドラゴンの魔力が何千年という時間をかけて結晶化された、世界の属性バランスを壊すくらい強力な火属性の結晶だ。
お父さんの声を聴きながら、私はファイアドラゴンの親子と一緒に海に飛んだ。
飛翔する間、途中まで魔女の気配を感じた。
魔女は好奇心を露わにお父さんの話を聞いているようだった。
――お父さんは、ゲームでプレイヤーたちが読んだメッセージを告げた後、ゲームでは語られなかった話を始めた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
私は、前世が日本人だ。
だが、その前はこの世界の未来人であった。
名前は、賢者アルワース。あるいは、守護大樹アルワースと呼ばれる男である。
賢者アルワースはとても長い時間、水没世界の増水の理由と、その解決方法を考えていた。
本当の原因は、ウィッチドール家の祖先、アルワースの想い人ウォテアの親御さんが魔法の才能あふれるマリンを魔杖に変えようとしたことに発端を帰する。
まだ魔法使いマギライトがウィッチドール家の養子になる前の出来事だ。
姉想いのウォテアは、姉を守るためアルワースに相談した。
アルワースは、ウォテアに頼られて嬉しかった。
ウォテアの親御さんは錬金術の名手で、結果のためには倫理や道徳が陰を潜めてしまう性質があった。
対抗するアルワースも、同じ気質。両者は穏便な解決方法を探るのではなく、力でさっくりと相手を排除する決断に至った。
アルワースはウォテアと一緒に強化劇薬を飲み、力を合わせて両親を魔杖に変えることに成功した。
しかし、ウォテアが強化劇薬を飲んで暴走。同時に、魔杖になった親御さんは、憎悪でウォテアを呪った。
――『姉のために親不孝をするならお前は因果応報により親に恨まれる』……と。
この紛争により世界は水属性に偏り、水没期を招いたが、アルワースは自分たちが無関係というシナリオを描いた。
『かつて、この世界の守護者であった古代の魔法使い達が、環境を制御するために強力な魔法を用いました。例えば、夏の暑気や冬の寒気を穏やかにしたい、というように。
また、カラクリ技術士たちはエネルギー源を求めて地中深くから資源を引き出し続けました。
これにより、地殻構造と生態系のバランスが崩れ、気候変動を引き起こしたのです。
さらに、元に戻そうとした魔法使いの試みが逆効果を及ぼし……』と。
同時にウォテアは時を止められ、身体が成長することも、老いることもなくなった。
呪いをアルワースが解析したところ、姉想いのウォテアへの親御さんからの嫌がらせとして、「彼女の命を終わらせることができるのは姉だけ」という設定がされていたのだが――姉は、死んでしまった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「水属性に偏った世界は、これで火属性を強めて、属性のバランスを取り戻すでしょう」
古い時代のファイアドラゴンの勇者――お父さんが創ったゲームで言うところの「隠し要素」の秘宝を海に投げ込めば、赤い光が視界一面に弾けて、濃厚な火属性の魔力が海水を喰っていく。
――ゲームの隠しエンディングの場面と同じだ。
この作品を楽しんでくれて、ありがとう。
制作チームから愛をこめて、この隠し要素をお届けします。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「あ……」
宝箱が開いて、男性の声が流れた。
魔法の力で演出されたそれは、日本で真凛がプレイしたゲームで隠し要素の宝箱を開けた時の演出とよく似ていた。
違うのは、声が真凛のお父さん――利上 拓海の声だった点だ。
「おとうさん」
この世界では気の遠くなるほど昔に記録された、ドラゴンの勇者タクミの声。
それは、優しく暖かに、少し寂しそうに――人間らしさ溢れる感情を伝えてくれた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
この手紙を読む女の子は、きっと聖女と呼ばれていることでしょう。
聖女のあなたは、みんなのことをよく思いやり、誰かの幸せを望むことができて、困っている人を助けたいと思う心の持ち主です。
世の中は、心だけが美しくても、能力が伴わなければ悪しき心の持ち主に踏みにじられて何事も成し遂げることができないという残酷な一面があります。
けれど、聖女のあなたは悪しき心の持ち主に負けない能力の持ち主です。
われわれの世界に、悪を滅して善良な者を救う全知全能の神様はいません。
けれど、そんな存在がいてほしいと望む人はたくさんいました。だから、マギライトが歪めた魂たちは二つの世界を行き来して影響を与え合い、本来ありえなかった彼らの心の支えを創っていったのです。
酷な現実を生きた過去と未来のありとあらゆる人たちの空想。理想。願望。
幾億の想いが起こした奇跡のような現象。
世界を滅ぼす諸刃の剣。
それが、魔女。
それが、聖女。
――賢者。勇者。魔王。
「ゲームと同じことを言うんだ。箱の中にも、同じアイテムがあるんだ」
開いた宝箱の中には、赤い炎の塊みたいな魔結晶があった。
何体ものドラゴンの魔力が何千年という時間をかけて結晶化された、世界の属性バランスを壊すくらい強力な火属性の結晶だ。
お父さんの声を聴きながら、私はファイアドラゴンの親子と一緒に海に飛んだ。
飛翔する間、途中まで魔女の気配を感じた。
魔女は好奇心を露わにお父さんの話を聞いているようだった。
――お父さんは、ゲームでプレイヤーたちが読んだメッセージを告げた後、ゲームでは語られなかった話を始めた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
私は、前世が日本人だ。
だが、その前はこの世界の未来人であった。
名前は、賢者アルワース。あるいは、守護大樹アルワースと呼ばれる男である。
賢者アルワースはとても長い時間、水没世界の増水の理由と、その解決方法を考えていた。
本当の原因は、ウィッチドール家の祖先、アルワースの想い人ウォテアの親御さんが魔法の才能あふれるマリンを魔杖に変えようとしたことに発端を帰する。
まだ魔法使いマギライトがウィッチドール家の養子になる前の出来事だ。
姉想いのウォテアは、姉を守るためアルワースに相談した。
アルワースは、ウォテアに頼られて嬉しかった。
ウォテアの親御さんは錬金術の名手で、結果のためには倫理や道徳が陰を潜めてしまう性質があった。
対抗するアルワースも、同じ気質。両者は穏便な解決方法を探るのではなく、力でさっくりと相手を排除する決断に至った。
アルワースはウォテアと一緒に強化劇薬を飲み、力を合わせて両親を魔杖に変えることに成功した。
しかし、ウォテアが強化劇薬を飲んで暴走。同時に、魔杖になった親御さんは、憎悪でウォテアを呪った。
――『姉のために親不孝をするならお前は因果応報により親に恨まれる』……と。
この紛争により世界は水属性に偏り、水没期を招いたが、アルワースは自分たちが無関係というシナリオを描いた。
『かつて、この世界の守護者であった古代の魔法使い達が、環境を制御するために強力な魔法を用いました。例えば、夏の暑気や冬の寒気を穏やかにしたい、というように。
また、カラクリ技術士たちはエネルギー源を求めて地中深くから資源を引き出し続けました。
これにより、地殻構造と生態系のバランスが崩れ、気候変動を引き起こしたのです。
さらに、元に戻そうとした魔法使いの試みが逆効果を及ぼし……』と。
同時にウォテアは時を止められ、身体が成長することも、老いることもなくなった。
呪いをアルワースが解析したところ、姉想いのウォテアへの親御さんからの嫌がらせとして、「彼女の命を終わらせることができるのは姉だけ」という設定がされていたのだが――姉は、死んでしまった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「水属性に偏った世界は、これで火属性を強めて、属性のバランスを取り戻すでしょう」
古い時代のファイアドラゴンの勇者――お父さんが創ったゲームで言うところの「隠し要素」の秘宝を海に投げ込めば、赤い光が視界一面に弾けて、濃厚な火属性の魔力が海水を喰っていく。
――ゲームの隠しエンディングの場面と同じだ。
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