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3章、メイドは死にました
62、これが優雅で華麗なロングフラグ回収ですわ! えっ、だめですの?
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火竜の巣に隠し要素の手紙はあるんだろうか?
開発者からの隠しメッセージが見れるのだろうか?
……気になる。
キルケ様にお願して、チェラレ火山に私も行ってみたらどうだろう?
踵を返して校長室の戸をノックしようとした時、大地が揺れた――地震だ。
建物全体がグラグラッと揺れて、あちらこちらで悲鳴が上がる。
「わ、わ、ひぁっ」
あまりお上品とは言い難い悲鳴がこぼれる。
だって、地面が大きく揺れて――立っていられない。
私は揺れに翻弄され、バランスを崩して倒れかけた。
「きゅう」とルビィが鳴くのが聞こえて、ルビィを下敷きにしないようにと祈ったところで、がっしりと体が支えられる。
「……あっ。パーニス殿下」
危なげなく私の腰をつかんで支えてくれたのは、パーニス殿下だった。優れた体幹をしているからか、危なげなく平然としている。
「長いな。外に避難した方がいいか」
「ありがとうございま……きゃっ」
パーニス殿下は私を横抱きに抱えて、地震が続く校舎から脱出した。
自分ひとりが立っているだけでも大変なのに、人ひとり抱えてよく歩けるものだ。すごい。
「さ、さすがですね、パーニス殿下」
それにしても地震は大きくて、長かった。あんまり長く揺れるので酔ってしまったくらい。
遠くで火災が発生している様子の煙があがっているし、どうも王都の至るところで地面が陥落して、湖化の被害が増えてしまったようだった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「パーニス殿下……怖かったです……」
マリンベリーの細い腕がパーニスに縋りついてくる。
甘い花に似た香りが鼻腔をくすぐり、上目がちな橙色の瞳が潤んでいる。
極上の絹糸のように繊細で艶やかな髪が風に遊ばれ、肌をくすぐる。
「殿下。ぎゅっと抱きしめてください」
「……っ! そ、そんな可愛いことを……反則だろ……」
マリンベリーはこんなことを言わないと思う。
彼女はどちらかというとマイペースで、何を考えているか掴みにくい猫のようなところがあって、しっかり者だ。
だが、そんな幻聴が。幻覚が。白昼夢のように展開されて、止まらない。
パーニスは自分の腕の中にいる愛しい存在を思わず強く抱きしめた。
「きゃっ」
自分の腕の中で、華奢な彼女が驚いた様子で声をあげる。
殿下、あれをしましょう、これをしてください、と提案してくる彼女とのギャップを感じる。
すっぽりと抱きしめられる、この独占感。可愛い。可愛い。可愛い。堪らない。愛おしい。
後頭部に手を添えて、頬に、首筋に、キスの雨を降らせていく。
地震の揺れは収まっているようだが、淫らな衝動と欲が止まらない。
この腕の中の彼女が欲しくて仕方ない。愛したくて堪らない。
「止まらなくなりそうだ……」
熱を吐くように言うと、婚約者の甘やかな言葉がパーニスの耳朶を震わせた。
「殿下。やめないでください……」
どきりと心臓が跳ねる。
なんて可愛らしいことを言うのだ。興奮する。煽られてしまう。
「いいのか?」
首筋にキスマークを追加し、そのまま押し倒そうとしたところで、現実の彼女が応酬してくる。
顔を真っ赤にして、わなわなと震えながら、涙目で。
「よくないです!」
はっきりとした拒絶と羞恥の感情が、突きつけられた。
……はっ? 俺は今、なにを?
「――――殿下! 公衆の面前で無体はいけません!」
現実が見えた瞬間に、人間姿のセバスチャンが肩を掴んでパーニスを引きはがした。
マリンベリーはくるりと背を向けて走って行ってしまった。
今のは……。
「セバスチャン、教えてくれ。俺は今なにをしていた?」
「殿下は急に……夢に浮かされたようなご様子になられて。突然、場所もわきまえずにご令嬢に……いささか……過剰なスキンシップを取られていたようです」
言葉をとても慎重に選んでくれているのが伝わってきて、パーニスは何とも言えない気分になった。
「今の見ました? 殿下があんなに情熱的に……」
「見てはいけないものを見てしまった気分ですわ。胸がどきどきしています。殿下って強引なところがあるんですのね!」
高揚を隠しきれない声量できゃあきゃあ騒ぐ女子生徒たちの視線が痛い。
――……やらかしてしまった……!?
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「お~~っほほほ!」
目をぎらぎらさせて鼻息荒く一部始終を優雅に楽しく鑑賞していたアルティナは、バッと扇を開いて高笑いした。
今こそネタバラシ、そして我が家の商品を売り込むチャンス!
「おほほほ! 効いてますわね。パーニス殿下には、先日一服盛らせていただきましたの。こちらの我が家の商会のお薬は細く長く恋慕の情を焚きつけてくれますの!」
生徒たちの視線がアルティナに向く。
注目されて、実に気持ちいい。
注目されるということは、商品も売れるということ。
これは商売の鉄則だ。エリナがいつもパン屋のチラシを配っているのを見て、アルティナは思ったのだ。
「いついかなる時も商売を忘れない姿勢を見習おう」「あと、大好きなお二人にもっと距離を縮めて欲しい。できれば女子が楽しくお二人でキャッキャできるように公然といちゃついてほしい」
「愛し合う婚約者同士をくっつける行為は罪でしょうか? わたくしはそう思いませんの!」
アルティナは張り切った。
「効果が細長すぎて自然な情と見分けがつかないと評判ですが、それもそのはず……大声では言えませんが、単なる『惚れ薬っぽいの飲んだから惚れる気がする』という思い込みですもの! おーっほほほほ!」
つい気持ちよくなりすぎて余計な情報まで伝えてしまったアルティナは後日、父親から「二度とするな。商品は販売停止処分になったぞ」と叱られるのであった。
開発者からの隠しメッセージが見れるのだろうか?
……気になる。
キルケ様にお願して、チェラレ火山に私も行ってみたらどうだろう?
踵を返して校長室の戸をノックしようとした時、大地が揺れた――地震だ。
建物全体がグラグラッと揺れて、あちらこちらで悲鳴が上がる。
「わ、わ、ひぁっ」
あまりお上品とは言い難い悲鳴がこぼれる。
だって、地面が大きく揺れて――立っていられない。
私は揺れに翻弄され、バランスを崩して倒れかけた。
「きゅう」とルビィが鳴くのが聞こえて、ルビィを下敷きにしないようにと祈ったところで、がっしりと体が支えられる。
「……あっ。パーニス殿下」
危なげなく私の腰をつかんで支えてくれたのは、パーニス殿下だった。優れた体幹をしているからか、危なげなく平然としている。
「長いな。外に避難した方がいいか」
「ありがとうございま……きゃっ」
パーニス殿下は私を横抱きに抱えて、地震が続く校舎から脱出した。
自分ひとりが立っているだけでも大変なのに、人ひとり抱えてよく歩けるものだ。すごい。
「さ、さすがですね、パーニス殿下」
それにしても地震は大きくて、長かった。あんまり長く揺れるので酔ってしまったくらい。
遠くで火災が発生している様子の煙があがっているし、どうも王都の至るところで地面が陥落して、湖化の被害が増えてしまったようだった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「パーニス殿下……怖かったです……」
マリンベリーの細い腕がパーニスに縋りついてくる。
甘い花に似た香りが鼻腔をくすぐり、上目がちな橙色の瞳が潤んでいる。
極上の絹糸のように繊細で艶やかな髪が風に遊ばれ、肌をくすぐる。
「殿下。ぎゅっと抱きしめてください」
「……っ! そ、そんな可愛いことを……反則だろ……」
マリンベリーはこんなことを言わないと思う。
彼女はどちらかというとマイペースで、何を考えているか掴みにくい猫のようなところがあって、しっかり者だ。
だが、そんな幻聴が。幻覚が。白昼夢のように展開されて、止まらない。
パーニスは自分の腕の中にいる愛しい存在を思わず強く抱きしめた。
「きゃっ」
自分の腕の中で、華奢な彼女が驚いた様子で声をあげる。
殿下、あれをしましょう、これをしてください、と提案してくる彼女とのギャップを感じる。
すっぽりと抱きしめられる、この独占感。可愛い。可愛い。可愛い。堪らない。愛おしい。
後頭部に手を添えて、頬に、首筋に、キスの雨を降らせていく。
地震の揺れは収まっているようだが、淫らな衝動と欲が止まらない。
この腕の中の彼女が欲しくて仕方ない。愛したくて堪らない。
「止まらなくなりそうだ……」
熱を吐くように言うと、婚約者の甘やかな言葉がパーニスの耳朶を震わせた。
「殿下。やめないでください……」
どきりと心臓が跳ねる。
なんて可愛らしいことを言うのだ。興奮する。煽られてしまう。
「いいのか?」
首筋にキスマークを追加し、そのまま押し倒そうとしたところで、現実の彼女が応酬してくる。
顔を真っ赤にして、わなわなと震えながら、涙目で。
「よくないです!」
はっきりとした拒絶と羞恥の感情が、突きつけられた。
……はっ? 俺は今、なにを?
「――――殿下! 公衆の面前で無体はいけません!」
現実が見えた瞬間に、人間姿のセバスチャンが肩を掴んでパーニスを引きはがした。
マリンベリーはくるりと背を向けて走って行ってしまった。
今のは……。
「セバスチャン、教えてくれ。俺は今なにをしていた?」
「殿下は急に……夢に浮かされたようなご様子になられて。突然、場所もわきまえずにご令嬢に……いささか……過剰なスキンシップを取られていたようです」
言葉をとても慎重に選んでくれているのが伝わってきて、パーニスは何とも言えない気分になった。
「今の見ました? 殿下があんなに情熱的に……」
「見てはいけないものを見てしまった気分ですわ。胸がどきどきしています。殿下って強引なところがあるんですのね!」
高揚を隠しきれない声量できゃあきゃあ騒ぐ女子生徒たちの視線が痛い。
――……やらかしてしまった……!?
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
「お~~っほほほ!」
目をぎらぎらさせて鼻息荒く一部始終を優雅に楽しく鑑賞していたアルティナは、バッと扇を開いて高笑いした。
今こそネタバラシ、そして我が家の商品を売り込むチャンス!
「おほほほ! 効いてますわね。パーニス殿下には、先日一服盛らせていただきましたの。こちらの我が家の商会のお薬は細く長く恋慕の情を焚きつけてくれますの!」
生徒たちの視線がアルティナに向く。
注目されて、実に気持ちいい。
注目されるということは、商品も売れるということ。
これは商売の鉄則だ。エリナがいつもパン屋のチラシを配っているのを見て、アルティナは思ったのだ。
「いついかなる時も商売を忘れない姿勢を見習おう」「あと、大好きなお二人にもっと距離を縮めて欲しい。できれば女子が楽しくお二人でキャッキャできるように公然といちゃついてほしい」
「愛し合う婚約者同士をくっつける行為は罪でしょうか? わたくしはそう思いませんの!」
アルティナは張り切った。
「効果が細長すぎて自然な情と見分けがつかないと評判ですが、それもそのはず……大声では言えませんが、単なる『惚れ薬っぽいの飲んだから惚れる気がする』という思い込みですもの! おーっほほほほ!」
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